フラッシュ2022年12月2日
- 生命の再定義
冬眠中のツキノワグマ、なぜ筋肉衰えない? 広島大らが解明
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]広島大学、北海道大学、神奈川大学、東京大学の研究グループは、ツキノワグマの骨格筋が冬眠期に入って不活動状態に入っても衰えない理由を解明した。人間も含む動物の骨格筋は、不活動状態に陥ると衰えていくことが分かっている。一方でクマやリス、ハムスターなどの冬眠動物は、およそ半年にわたる冬眠期間の間、不活動かつ栄養不良の状態におかれながら、筋肉などの身体機能を維持できる。冬眠動物の筋肉の衰えを防ぐ生理機能については未解明のままだった。
研究グループは、冬眠期のツキノワグマ8頭の筋肉を採取し、8頭それぞれについて活動期の筋肉の状態と比較した。その結果、骨格筋線維の大きさや、遅筋、速筋線維の割合などに変化がなく、冬眠中でもまったく衰えていないことを確認した。
続いて、筋タンパク質の合成制御系であるAkt/mTOR系や、MEK/ERK経路の活性化状態を調べた。その結果、冬眠期の骨格筋では明らかに抑制されていた。タンパク質分解制御機構の指標となるUb-Proteasome系や、オートファジー系に関与する各因子の遺伝子発現量を測定したが、やはり冬眠期の骨格筋では明らかに抑制されていた。有酸素系エネルギー代謝を制御するミトコンドリア関連制御因子の遺伝子発現や酵素活性も明らかに抑制されていた。
以上のように冬眠期のクマ骨格筋では、活動期と比較してタンパク質代謝と脂質代謝を調節するそれぞれの制御系が大きく抑制されていることが明らかになった。長期の絶食を伴う冬眠期には「省エネモード」のような状態に入って、エネルギーの無駄遣いを防ぎ、生き抜くための適応戦略であろうと考えられるという。
研究成果は11月17日、サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)誌にオンライン掲載された。
冬眠に入った後、どのようなタイミングで省エネモードに入るのかはまだ未解明だという。この仕組みを明らかにすることで、ヒトの寝たきり防止や効果的なリハビリテーション手法の開発などが期待できるとしている。
(笹田)
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