フラッシュ2023年5月1日
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CAR-T細胞の製造失敗のリスク要因を解明=京大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学、兵庫医科大学、東京大学、慶應義塾大学などの研究グループは、難治性がんの治療に使用するキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の製造に失敗する主な要因を解明した。CAR-T細胞は、患者本人から採取した血液からアフェレーシスという手技でT細胞を採取し、製薬会社の施設で製造するが、一部の症例で製造に失敗することがある。しかし、製造失敗の実態は十分に把握されていない上、製造失敗のリスク要因も明らかでなかった。
研究グループはCAR-T細胞療法を実施している日本全国の施設から、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療のためにCAR-T細胞の製造を試みた症例の臨床情報408件を収集。製造失敗の頻度や、製造失敗に関わる要因を調べた。
収集した症例情報のうち、30例(7.4%)でCAR-T細胞の製造に失敗していた。失敗例と成功例の臨床情報を比較したところ、アフェレーシスの時点で末梢血中の血小板数が少ないことと、T細胞のCD4/CD8比が低いことと、抗腫瘍薬剤「ベンダムスチン」を3コース以上反復使用し、その後T細胞採取までの休薬期間が短いことの3点が製造失敗のリスクを高める主な要因であることが判明した。
一般にCAR-T細胞療法の対象となる患者は、化学療法を繰り返し受けており、造血能や免疫細胞の機能が低下している。造血能が低下すると血小板を造る能力も低下し、免疫細胞の機能が低下するとT細胞のCD4/CD8比が低下することから、化学療法を繰り返し受けた影響が残って、CAR-T細胞の製造が失敗すると考えられる。そのため、患者の造血能や免疫機能が低下する前の早い段階でT細胞を採取することが重要だとしている。まだ化学療法の回数をあまり重ねていない段階でT細胞を採取し、その後に化学療法を再開することで、CAR-T細胞製造の成功率を高めながら、化学療法の効果も期待できる可能性がある。
こうしたリスク要因を避けられない患者の場合は、T細胞を採取した後、CAR-T細胞の製造が成功したか失敗したかが分かるまでの期間(通常は2〜3週間)に、製造失敗に備えて再びT細胞を採取する計画を立てることや、CAR-T細胞療法ではない治療法を検討すること、そして臨床試験参加を検討することなど、患者に応じた治療戦略を立てる必要があるという。
研究成果は4月25日、英国血液学会誌(British Journal of Haematology)にオンライン掲載された。
(笹田)
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