フラッシュ2023年6月26日
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量研と順大、遺伝子変異を「読み過ごす」薬でがん予防
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]量子科学技術研究開発機構(量研)と順天堂大学の研究グループは、遺伝子変異を「読み過ごす」作用を持つ薬のがん予防効果を、家族性大腸腺腫症という遺伝疾患を持つモデルマウスを使って実証した。家族性大腸腺腫症は、大量のポリープが結腸と直腸に発生する疾患で、治療を受けないとほぼ100%の確率で40歳までに大腸がんを発症する。
家族性大腸腺腫症の患者のうちおよそ42%は、がん抑制遺伝子APC(Adenomatous Polyposis Coli)の一つに終止コドンを生じる点突然変異(ナンセンス変異)を生まれつき持っている。この変異があると、APCタンパク質の合成が途中で終了して、機能しない短いタンパク質ができてしまう。APCは細胞増殖に関わるシグナルを抑制する機能を持ち、正常なAPCタンパク質がなくなると細胞増殖を抑制できなくなる。この結果、結腸と直腸に大量のポリープが10歳代から発生する。
最近の研究で、タイロシン、エリスロマイシン、アジスロマイシンなどの特定のマクロライド系抗生物質に、終止コドンを「読み過ごす」作用があることが分かっている。特にアジスロマイシンは抗菌薬としてヒトへの投与実績があり、低用量で効果を期待でき副作用も少ないことから、研究グループはアジスロマイシンがナンセンス変異を伴う家族性大腸腺腫症の治療薬として有望と考えた。
研究グループは、APC遺伝子にナンセンス変異を持ち、家族性大腸腺腫症と同じように腸管にポリープを発症するモデルマウスを使って、アジスロマイシンの終止コドンを読み過ごす効果と、腫瘍発生を抑制する効果を確認した。その結果、アジスロマイシンはAPC遺伝子のナンセンス変異を読み過ごすことで、正常なAPCタンパク質の生成を促進し、腸管ポリープの発生と悪性化を予防することが分かった。
研究成果は6月3日、バイオメディシン・アンド・ファーマコセラピー(Biomedicine & Pharmacotherapy)誌にオンライン掲載された。今後、ナンセンス変異を持つ家族性大腸腺腫症の治療薬として、アジスロマイシンの臨床での応用が期待されるという。
(笹田)
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