フラッシュ2023年9月6日
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極限原子核の謎を解く鍵となる酸素同位体を発見=東工大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京工業大学、理化学研究所などの国際共同研究チームは、「二重魔法数核」の候補と考えられてきた酸素同位体、酸素28(陽子数8、中性子数20)を世界で初めて観測し、その質量の測定にも成功した。
陽子や中性子の数が2、8、20、28、50、82、126になっている原子核は、周囲の原子核に比べて安定な性質を示す。これらの数を「魔法数」と呼ぶ。陽子数・中性子数ともに魔法数となっている場合には、特に安定な性質(二重魔法性)を示し、その原子核は「二重魔法数核」と呼ばれる。酸素28は、現代の加速器技術で到達できる最後の二重魔法数核の候補であるが、実験の困難さからまだ一度も観測例が無く、原子核物理分野での最重要課題の1つとされてきた。
同チームは今回、フッ素29(陽子数9、中性子数20)の不安定核ビームを水素標的に入射させ、標的核との反応によってフッ素29の陽子を一つはぎとることで酸素28を生成。世界初となる4個の中性子を同時に測定する技術により、酸素28が酸素24と4つの中性子に崩壊する一連の過程を分析し、再構成した質量のスペクトルから酸素28を同定し、質量(崩壊エネルギー)を測定した。
さらに、測定された酸素28の生成率を、最先端の大規模殻模型計算と原子核反応計算により分析したところ、酸素28では中性子数20の魔法性が消失していることが明らかとなった。二重魔法数核であると期待されていた原子核の魔法性が消失することは特異なことであり、学術的に大きなインパクトのある結果となったという。
今回の成果は、中性子数が陽子数よりはるかに多い極限原子核の構造や、宇宙での元素合成過程や高密度天体「中性子星」の構造の解明にもつながることが期待される。研究論文は、学術雑誌ネイチャー(Nature)に、2023年8月30日付けで掲載された。
(中條)
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