フラッシュ2023年9月11日
- 生物工学/医療
非翻訳RNAががん細胞を守る仕組みを解明=名大など
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]名古屋大学などの共同研究チームは、長鎖非翻訳RNA(タンパク質に翻訳されないRNA)の一つである「TUG1(Taurine Upregulated Gene 1)」が、がん細胞のDNAを損傷から保護し増殖を助ける分子機構を解明した。
がん細胞は活発に分裂し増殖するため、非常に速くDNAを複製するが、正常な細胞と比べてDNAの変異や異常などの障害が多く、複製がうまくできずに止まってしまうことがしばしばある。これまで、がん細胞がどのようにDNAの異常を解消し、複製をすばやく続けていくのかは不明であった。
研究チームは今回、がん細胞で高い発現を示し、がんの発生・悪性化に関与していることが知られている長鎖非翻訳RNAに着目。DNAの複製に問題が生じたときに、細胞内で速やかに作られる長鎖非翻訳RNAである「TUG1」を発見し、TUG1はDNAの複製を止めてしまうようなDNAの異常な構造を、がん細胞で解消する働きを持つことを明らかにした。
同チームはさらに、TUG1が高発現する難治性のがんである「グリオブラストーマ(悪性脳腫瘍の一種)」でTUG1を阻害すると、DNA複製が止まり、細胞死が誘導されることを確認。脳腫瘍マウスモデルを用いてTUG1を阻害する「核酸医薬(TUG1-DDS)」とグリオブラストーマの標準治療薬「テモゾロミド」の併用治療をした結果、腫瘍の増殖が著しく抑制され、生存期間が劇的に改善した。
TUG1-DDSはすでに非臨床治験を終えており、グリオブラストーマに対する有効性を検討するため、2024年3月ごろを目途に、名古屋大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院で、医師主導臨床治験が開始される。研究論文は、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)オンライン版に、2023年8月22日付けで掲載された。
(中條)
- 人気の記事ランキング
- AI models can outperform humans in tests to identify mental states AIが「心の理論」テストで人間超え、この結果は何を意味するか
- Promotion Announcement from the MIT Club of Japan お知らせ:日本MIT会、全国5カ所でSTEAMワークショップ
- GPT-4o’s Chinese token-training data is polluted by spam and porn websites GPT-4oの中国語に異常 ポルノ、ギャンブルで トークンが汚染されていた
- Meet the divers trying to figure out how deep humans can go 人はどこまで深く潜れるのか 水深300メートルに挑む ダイバーたちの物語
- Astronomers are enlisting AI to prepare for a data downpour 天文学者とAIの出会い 「データの豪雨」から 宇宙の未知を解き明かす