フラッシュ2024年2月28日
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生物工学/医療
難治性血液がんにエピゲノム治療薬が効く仕組みを解明
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]東京大学、琉球大学、東京医科歯科大学、聖マリアンナ医科大学、第一三共の研究グループは、難治性血液がんである成人T細胞白血病リンパ腫(ATL:Adult T-cell Leukemia)に対するエピゲノム治療薬の作用機序を解明した。エピゲノム治療薬は、エピゲノム異常を阻害することで、多くのがん抑制遺伝子の発現を回復させて治療効果を発揮する薬剤。今回の研究では、日本発の新薬である「バレメトスタット」の、ATLに対する作用機序を調べた。
がん細胞では、DNAが巻き付くヒストン分子がゲノム領域全体にわたって化学修飾を受け、近接する遺伝子が適切に働かなくなる。特に、ヒストン分子が過剰にメチル化すると、ゲノム上にコードされている多くのがん抑制遺伝子が一度に停止してしまう。
研究チームはこれまでに、ATLのエピゲノム異常とその原因分子であるEZH1、EZH2を同定している。今回の研究ではEZH1とEZH2を阻害するバレメトスタットがATL患者の体内でどのような変化を起こすのかを観察した。
シングルセル解析の結果、腫瘍細胞はDNAを取り巻くクロマチン構造が、メチル化ヒストンによって異常に凝集し、多くのがん抑制遺伝子が発現できない状態になっていることが分かった。そして、バレメトスタットの投与を受けた患者では、メチル化ヒストンが正常レベルまで減少し、凝集したクロマチン構造が徐々に緩んで、数百種類のがん抑制遺伝子を回復させることが明らかになった。
研究グループはさらに、腫瘍細胞の薬剤に対する耐性化についても調べた。具体的には、バレメトスタットの長期投与を受けた患者から薬剤耐性化した腫瘍細胞を精査した。その結果、薬剤耐性に関係する遺伝子異常やメチル化ヒストンの効果を代替する別の化学修飾が耐性化に関係することを突き止めた。また、投薬前の腫瘍細胞は、遺伝子翻訳活性や細胞代謝活性の異なる不均一な細胞集団で構成されており、この点も薬剤耐性に関係することを発見した。
研究成果は2月21日、ネイチャー(Nature)誌にオンライン掲載された。
(笹田)
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