テスラへの「引き抜き」工作が赤裸々に、マスク対アルトマン第2週
イーロン・マスク対オープンAI裁判の第2週、グレッグ・ブロックマン社長とシヴォン・ジリス元取締役の証言から、マスクがオープンAIを去る前後にテスラ内にAIラボを設立し、アルトマンCEOを含む主要人材を引き抜こうとしていたことが明らかになった。 by Michelle Kim2026.05.10
- この記事の3つのポイント
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- マスクとオープンAIの裁判でブロックマン社長が反証し、マスクこそが営利部門の絶対的支配権を求めていたと主張した
- 2017年の交渉決裂後、マスクはテスラ内にAI研究所を設立しオープンAIの人材を引き抜こうとしていたことが明らかになった
- 裁判の結果次第では評価額1兆ドル規模のIPOが覆される可能性があり、来週はナデラCEOらの証言が予定されている
イーロン・マスクとオープンAI(OpenAI)の間で進行中の歴史的裁判が2週目に入り、マスクがこの訴訟を提起した動機が精査された。
先週、マスクは証言台に立ち、オープンAIのサム・アルトマンCEOとグレッグ・ブロックマン社長が、自身から3800万ドルの寄付を引き出すために欺いたと主張した。マスクによれば、両者は人工知能(AI)を人類の利益のために開発する非営利組織として運営を続けると約束していたにもかかわらず、その後マイクロソフトから数十億ドルの投資を受け入れ、営利子会社を持つ体制へと再編したという。
今週、ブロックマン社長はこれに反論し、むしろマスクのほうがオープンAIに営利部門の設立を強く求め、その「絶対的支配権」を得ようとして激しく争っていたと主張した。さらにオープンAI側は、マスクは思い通りにならなかったことへの不満から提訴し、自身のAI企業であるxAIの競合相手を弱体化させようとしていると述べている。
オープンAIの元取締役であり、マスクの子ども4人の母親でもあるシヴォン・ジリスも証言し、マスクが電気自動車会社テスラ内に新設するAI研究部門のトップとして、アルトマンCEOを引き抜こうとしていたことを明らかにした。
マスクは2015年にアルトマンCEOやブロックマン社長らとともにオープンAIを共同設立したが、2018年に離脱した。現在、彼はアルトマンCEOとブロックマン社長の解任、および昨年実施された再編(営利子会社を公益法人へ転換したもの)の無効化を裁判所に求めている。さらに、オープンAIとその投資家であるマイクロソフトに対し、最大1340億ドルの損害賠償も請求している。
この裁判の結果次第では、評価額1兆ドル規模でのIPO(新規株式公開)を目指すオープンAIの動きが根本から覆される可能性がある。一方、マスクが2023年に設立したxAIは現在スペースXの一部門となっており、両社は統合された形で、早ければ6月にも評価額1兆7500億ドルを目標に上場する見通しである。
5月4日(月)、ブロックマン社長は青いスーツにネクタイ姿で、妻アンナ・ブロックマンと手をつないで法廷に入廷した。証言台では、オープンAIの創業初期を回想しながら、穏やかでむしろ快活な様子を見せた。しかし、マスクの代理人であるスティーブン・モロ弁護士による熱のこもった尋問を受けるにつれ、次第に苛立ちを露わにした。アルトマンCEOは黙って耳を傾け、アンナ・ブロックマンは背後の席で落ち着かない様子だった。法廷の外では、AI競争に反対する抗議者たちが、弁護士による記者会見の声をかき消すように賛美歌を歌っていた。
ブロックマン社長によれば、裁判開始の2日前、マスクは和解の意思があるかを尋ねるメッセージを送ってきた。双方が請求を取り下げる案を提示すると、マスクは「今週末までに、お前とサムは米国で最も憎まれる男になる。それでもいいならそうなるだろう」と返信したという。
マスクはテスラの絵を持って出ていった
先週、マスクは、AIを安全に開発するというオープンAIの非営利ミッションを守るために提訴したと証言したが、一方で、マイクロソフトから適度な投資を受ける利益上限付き営利企業への転換には一定の理解を示した。
今週、ブロックマン社長は陪審員に対し、マスクはオープンAIを非営利組織として維持することに真剣にコミットしていなかったと述べた。2017年夏、オープンAIのAIモデルがゲーム「Dota 2(ドータ・ツー)」で世界最高のプレイヤーを打ち負かしたとき、マスクはサンフランシスコ近郊の「ホーンテッド・マンション」と呼ばれる自宅で集まりを開いた。ブロックマン社長の証言によれば、家の中は紙吹雪やカップが散乱し、当時のマスクの交際相手であった女優のアンバー・ハードがウイスキーを振る舞っていたという。
「オープンAIの次のステップを踏み出す時が来た。これがそのきっかけだ」とマスクはメールに書いていた。ブロックマン社長が陪審員に語ったところによれば、マスクはその数週間前にも、オープンAIが大きな成果を上げたら「営利企業を設立する時だ」と述べていたという。
ブロックマン社長によれば、その後の6週間にわたり、マスクと他の共同創設者たちは、ほぼあらゆる認知タスクにおいて人間と競争できる強力なAIである「汎用人工知能(AGI)」を構築するのに十分な資本を調達するための営利事業体の設立について、激しい議論を交わした。マスクは営利事業体の過半数の株式と、取締役会の過半数を選ぶ権利を求めた。さらにCEOへの就任も望んでいたと、ブロックマン社長は述べた。
ブロックマン社長は、2017年8月に自身と他の共同創設者が集まり、営利事業体の条件を詰めたと証言した。当時オープンAIの主任科学者だったイリヤ・サツケバーは、マスクが数日前に贈った実物のテスラへの「感謝の証」として、テスラ車を描いた絵画を持参して現れた。「マスクが私たちを懐柔しようとしているように感じました。彼に恩義を感じさせたかったのでしょう」とブロックマン社長は陪審員に語った。
ブロックマン社長とサツケバーが全員の株式を均等にする案を提示すると、マスクは黙り込み、最終的に「断る」と述べたという。その後マスクは立ち上がり、「テーブルの周囲を荒々しく歩き回った」とされる。「正直、殴られるかと思いました」とブロックマン社長は語った。マスクは絵画をつかんで部屋を出て行った。
その後、ブロックマン社長はマスクとともにオープンAIを続けるか、それとも決別するかの判断に苦しんだ。「岐路に立っていました。イーロンの条件を受け入れるのか、それとも拒否して彼は独自に進み、私たちも別の道を進むのか、という選択でした」と語った。
「私たちが決して受け入れられなかったのは、AGIに対する一方的で絶対的な支配権を彼に渡すことでした」とブロックマン社長は陪審員に語った。
ブロックマンは何を考えていたのか
マスクの代理人であるモロ弁護士は芝居がかった低い声で、ブロックマン社長は人類の利益のためにAIを開発するというオープンAIの非営利ミッションへのコミットメントではなく、強欲に突き動かされていたと主張した。ブロックマン社長は同社に一切出資していないにもかかわらず、現在は300億ドル近い価値の株式を保有していると指摘した。
これに対しブロックマン社長は、「ミッションの達成が常に私の第一の動機です」と反論した。「今もそれは変わりません」。
モロ弁護士は法廷のスクリーンにブロックマン社長の個人的な電子日記を映し出し、舞台裏で何を考えていたかを陪審員に示そうとした。2017年、営利事業体の条件についてマスクと交渉していた際、ブロックマン社長は億万長者になりたいという願望を記していた。「財務的に、10億ドルに到達するには何が必要か?」
「なぜ290億ドルを受け取って、人類のために受託者義務を負っていた非営利団体に寄付しなかったのですか?」
モロ弁護士はブロックマン社長の個人的な利益に対する道徳的憤りを演出するように、声を荒げて問い詰めた。
さらにモロ弁護士は、2017年11月のブロックマン社長の日記の記述を取り上げた。そこには、マスク抜きでオープンAIを営利企業に転換することへの葛藤が記されていた。「彼から非営利団体を奪うのは間違いだ。彼なしにB型企業に転換するのは、かなり道義的に問題がある」。ブロックマン社長とマスクはかつて、社会的使命を追求する営利企業であるB型企業(Bコープ)の設立を検討していた。
ブロックマン社長はこう説明した。「ミッションには実際に沿うことになるが、自分を鏡で見るのが辛くなるという意味でした」。
モロ弁護士はまた、オープンAIと取引関係を持つ複数の企業の株式をブロックマン社長が保有していることを明らかにし、信頼性を損なおうとした。AIチップ企業のセレブラス(Cerebras)、クラウドプロバイダーのコアウィーブ(CoreWeave)、核融合スタートアップのヘリオン・エナジー(Helion Energy)などである。アルトマンCEOもまた、自身が投資するヘリオンやロケットメーカーのストーク・スペース(Stoke Space)を含む企業との取引にオープンAIを誘導しようとしたとして、利益相反の疑いが指摘されている。
オープンAIの元最高技術責任者(CTO)であるミラ・ムラティと元取締役会メンバーのヘレン・トナーはいずれもビデオ証言に登場し、2023年のアルトマンCEOの一時解任について、彼の虚偽の疑いのある経歴から信頼できなかったと述べた。証拠として提出されたムラティ元CTOとアルトマンCEOのテキスト・メッセージのやり取りには、状況を把握し主導権を取り戻そうとするアルトマンCEOの必死な様子が記録されていた。
マスクはテスラに競合AIラボを設立しようとしていた
ブロックマン社長による2日間の証言に続き、2023年にオープンAIの取締役会を退いたシヴォン・ジリスが、黒いジャケットと黒いジーンズ姿で証言台に立った。落ち着いた様子ながらも、わずかに緊張の色が見えた。オープンAIのサラ・エディ弁護士は、なだめるような口調で、マスクがオープンAIの共同創設者たちをテスラ内の新たなAI研究所に引き抜こうとした際に、ジリスがその仲介役を務めたかどうかを尋ねた。エディ弁護士は、マスクがオープンAIを提訴しているのは、AI競争における競合相手を弱体化させるためにすぎないと主張した。
ジリスは、2016年にオープンAIで非公式な顧問として働いていた際にマスクと出会い、「一度限りの」ロマンティックな関係を持ったと述べた。2017年にはテスラと、マスクの脳インプラントである企業ニューラリンク(Neuralink)に加わり、2020年にはオープンAIの取締役にも就任した。彼女は体外受精(IVF)によってマスクの子どもを妊娠したが、ビジネス・インサイダーが2022年にその関係を報じるまで、マスクとの関係をオープンAIに開示していなかった。
ジリスに宛てたメールによれば、2017年12月までに営利事業体設立をめぐる交渉が行き詰まったことを受け、マスクはオープンAIがAGIを構築する可能性は低いと結論づけ、テスラ内にAI研究所を設立する方向へと方針転換していた。
エディ弁護士は、2017年にジリスがテスラの同僚へ送ったFAQ文書の草稿を法廷で示した。これは同社がNeurIPS(ニューリップス、神経情報処理システム学会)で開催予定だったイベントに関するもので、そこには「本イベントの目的は、テスラがグーグル・ディープマインドやフェイスブックAIリサーチ(FAIR:Facebook AI Research)に匹敵する世界トップクラスのAI研究所を構築していることを発表することである」と記されていた。
ジリスは陪審員に対し、マスクがまだオープンAIの取締役会に在籍していた当時、その構想中のAI研究所を率いるようアルトマンCEOを勧誘しようとしていたと述べた。さらにジリスのテキスト・メッセージによれば、マスクはテスラに引き抜いたオープンAIの研究科学者アンドレイ・カルパシーに対し、「オープンAIから引き抜くべき優秀な人材のリストを送るよう」依頼していたという。
「私がテスラAIに集中すれば、オープンAIが有力な勢力になれる可能性はほとんどない」。マスクはオープンAIを去る直前の2018年、ジリスにこんなテキスト・メッセージを送っていた。テスラのAI研究所は結局、実現しなかった。
エディ弁護士はジリスに、オープンAIとマスクの双方のために働いていた際、どちらに忠誠を誓っていたかと尋ねた。「人類にとって、AIの最善の結果に対して忠誠を誓っていました」とジリスは陪審員に答えた。
来週の予定は?
来週は元主任科学者のイリヤ・サツケバーと、マイクロソフトのCEOサティア・ナデラが証言する予定だ。マスク側とオープンAI側の弁護士がそれぞれ最終弁論をし、陪審員はその翌週から評議に入る。その後、裁判官が判決を下す際の指針となる、勧告的評決を提示することになる。
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- AIジャーナリズムのためのターベル・センター(Tarbell Center for AI Journalism)の支援を受けて執筆している、MITテクノロジーレビューのAI担当記者。これまでに、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)で労働とテクノロジーをテーマに取材し、フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌では韓国政治について執筆していた。ジャーナリズムに転身する以前は、米カリフォルニア州で企業弁護士として勤務。