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iPadが読書の習慣化に役立つ可能性、鍵はアニメーション
Patricia Prudente via Unsplash
How iPads might actually help kids learn to read

iPadが読書の習慣化に役立つ可能性、鍵はアニメーション

ある研究によると、アニメーション化されたテキストを使うことで、電子書籍が紙の書籍より優れた本になる可能性があるという。

学術誌「発達心理学(Developmental Psychology)」に掲載されたこの研究では、3歳から5歳までの子ども35人を対象に、一連の3つの実験を実施した。実験ではタチャー・ハードの人気児童書『ねこのパジャマ(Cat’s Pajamas)』『ズーム・シティ(Zoom City)』が使われた。最初の実験では、これら2冊を紙の本で読んだグループの子どもと、アイパッドで読んだグループの子どもとで、理解度と再生度を比較するテストを実施した。アイパッドを使ったグループでは、子どもが声に出して読むのをアイパッドが「聞き」、正しく読めればその単語をアニメーションさせた。2つ目の実験では、キンドル(Kindle)のような「静的な」電子書籍とアニメーション化した電子書籍とで比較した。3つ目の実験では、記憶の再生に役立つのが、ページの始まりで動くアニメーションなのか、正しい言葉に反応して動くアニメーションなのかを詳細に調べた。

アニメーションは子どもたちの読書に役立つ。研究では、従来の紙の本を読んだ場合では、読んだ内容を思い出す再生度は47%だった。読み上げによって単語が踊るように動く電子版の場合、再生度は60%に高まった。また、2つ目と3つ目の実験の両方で、単語をアニメーションさせた電子書籍がよい結果となった。

論文の共同執筆者で、カーネギーメロン大学の心理学者エリック・ティーセン准教授は、「ねこ」という単語を例にして、この差を説明する。読書経験が豊富な人が「ねこ」という単語を見ると、脳が自動的に単語と一連のねこのイメージを結びつける。しかし、幼い読者にはこの経験がなく、物語の中でそのねこが持つ役割を理解するよりも、「ねこ」とは何かを理解しようとすることに捕われてしまう可能性がある。ねこのかわいいアニメーションは、読書を楽しくする報酬になる。

では、電子書籍は本を読み始めたばかりの子どもに最適なのだろうか? 必ずしもそうではない。2019年の別の研究は、子ども向けタブレットは子どもと親の間でしばしば主導権争いを起こし、紙の本の読み聞かせは親子によい結果をもたらすとしている。ティーセン准教授はこの考えを支持している。「私たちの推測では、電子書籍は役に立つものの、人間同士の交流ほどではないでしょう」。

親が子どもと1対1で接する時間が短くなり、子どもたちがこれまで以上にテクノロジーにアクセスしやすくなった社会では、電子書籍は一層重要になるだろう。ティーセン准教授は「この研究の目標は、子どもが人間以外のパートナーとの対話によって、人間相手の場合と同じような促進が起きるかどうか、確かめることです」と述べている。

ティーセン准教授は、アニメーションは「物語の不可欠な部分となるよう活用されるよりも、ミニゲームやポップアップ・ボタンのように、少々気を紛らわすもので終わるような形になることが多いようです」という。ティーセン准教授は、たくさんの本を手にすることができ、子どもと過ごす時間がある家族は読書家になることが多いと強調する。とはいえ、電子書籍やタブレットの価格は下がっており、読解力を強化するアニメーション化された電子書籍の開発は、恵まれない状況にある子どもたちの助けになる可能性がある。

ターニャ・バス [Tanya Basu] 2019.12.24, 12:24
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