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人類は永遠の夢「不死」を
デジタルで手に入れるのか
生命の再定義 Insider Online限定
Digital immortality: How your life’s data means a version of you could live forever

人類は永遠の夢「不死」を
デジタルで手に入れるのか

自らの死後もデジタル化された「自分」が家族や友人と交流し、助言を与えられる——。そんな「デジタル来世」産業がいま、静かに立ち上がろうとしている。 by Courtney Humphries2018.10.23

ホセイン・ラーナマは、自身の知人である大手金融企業のCEO(最高経営責任者)が抱く、死後も生き続けたいという希望を叶える手助けができると考えている。

ラーナマはこの知人の死後に備えて、デジタルアバターを作成している。バーチャル「コンサルタント」としての役割を期待しているのだ。同社の未来の重役が、買収に応じるべきかどうかを決める際、携帯電話を取り出してチャットウィンドウを開き、故CEOに質問を投げかけるようになるかもしれない。個人データやメッセージのやりとりを分析する人工知能(AI)プラットフォームによって作成されたデジタルアバターが、生前のCEOが買収企業の重役と悪い関係にあったことに気付く。すると、「私はその企業のリーダーのことが好きではありません」と言って画面を赤色にし、反対の意を表明するかもしれない。

気味の悪い話だと思うだろう。だがラーナマは、死後もデジタルの世界で生き続けるという「デジタル来世」の考えを人々が受け入れるようになると信じている。カナダのトロントにあるライアソン大学に拠点を置く研究者兼起業家であり、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの客員教授であるラーナマは、「オーグメンテッド・エターニティ(Augmented Eternity)」というアプリケーションを開発している。死後も自身の代理として人々と対話できるデジタルの人格を作成するアプリケーションである。

高齢世代のほとんどは、うまく機能するAIを構築するのに十分な量のデジタル情報を蓄積できていない。その一方、ミレニアル世代は今後数十年間にわたってデジタルの足跡を残し続けることで、アバター用のAIの構築を可能にするのに十分な量のデータを生み出すことになる、とラーナマは推測している。いまこうしている間にも、死者のデジタル遺品は増え続けている。毎年およそ170万人のフェイスブックユーザーが亡くなっており、死者のオンラインアカウントの中には、削除されるものもあれば、永遠に無言のまま存在し続けるものもある。「人々は日常的に何ギガバイトものデータを生み出しています。私たちはいま、大量のデータ、優れた処理能力および保存能力を持っています」とラーナマはいう。他人とのコミュニケーションのとり方や交流の仕方ついてのデータが十分にあれば、機械学習アルゴリズムは、あなた独自の人格(あるいは少なくともその一部を)推測できるのだ。

デジタル化された「あなた」の見た目はどのようなものだろうか。あるいは、あなたは自分のデジタルアバターにどのような見た目を望むだろうか。先述のCEOの例のようなテキストベースのチャットボット、シリ(Siri)のような音声、デジタル処理された映像、あるいはバーチャルリアリティ環境の中の3Dアニメのキャラクターかもしれない。人型ロボットに組み込まれる可能性もある。

共存する無数の人格

まだデジタルアバターが実現する段階には至っていない。特定の人の性格を捉える技術を開発することが困難なのはもちろんのこと、自然な会話を続けられるソフトウェアを開発することすら難しい。本人と同じやり方で人と交流し、コミュニケーションをとり、意思決定できるソフトウェアなど存在しない。ラーナマによると、前のCEOのアバターは「意思決定を支援するツール」になるが、会社を経営することはできないという。

「現在のAIに欠けているものが1つあります。コンテキストです」(ラーナマ)。ほとんどのチャットボットは会話の内容に基づいて返答するだけだが、人々のコミュニケーションは話し相手や場所、時刻などに応じて変化する。この種のコンテキストを含める必要性が、ラーナマが設立した企業フライビッツ(Flybits)の基盤となった(フライビッツの設立により、ラーナマはMITテクノロジーレビューの2012年版『35歳未満のイノベーター35人』の1人に選ばれている)。フライビッツは、企業がコンテキストから得られる手がかりに基づき、顧客とのコミュニケーションを調整できるプラットフォームを提供している。たとえば銀行は、購入履歴、カレンダースケジュール、あるいは顧客がいま歩いているか電車に乗っているかなどの情報に応じて、モバイルアプリを通じて顧客に異なるメッセージを送ることができる。

気味の悪い話だと思うだろう。だがラーナマは、死後もデジタルの世界で生き続けるという「デジタル来世」の考えを人々が受け入れるようになると信じている。

ラーナマがオーグメンテッド・エターニティを立ち上げた時、その開発に役立ったのがコンテキストだ。デジタルアバターの人格を構築する際、本人の発言内容を知るだけは十分ではない。その発言の背景を知る必要がある。発言者は冗談を言っていたのか、腹を立てていたのか、その日のニュースに反応していたのか。結局このような手がかりが、デジタルの人格を構築する上で極めて重要となる。オーグメンテッド・エターニティのプラットフォームが、フェイスブックやツイッター、メッセージング・アプリなどの複数の情報源からデータを取り出し、そのコンテキスト、感情的側面、意味について分析しているのはそのためだ。

Hossein Rahnama
ホセイン・ラーナマ

数年前、同様のコンセプトがニュースになった。ロシアのソフトウェア開発者であるユーゲニア・クイダが、2015年末に亡くなった親友のロマン・マズレンコのチャットボットを開発した時のことだ。クイダは、グーグルのオープンソースの機械学習フレームワークであるテンソルフロー(TensorFlow)を用いて作られたニューラル・ネットワークに、マズレンコの友達や家族との個人的なメッセージを取り込み、マズレンコのチャットボットを開発した。チャットボットは正確さや洗練さに欠けるものだったとクイダ自身が認めているが、質問に対して不気味なほどマズレンコに似た返事をすることも多かったという。

クイダによると、亡くなった人をデジタルで蘇らせるのを困難にする主な要因は、人間の複雑さだという。「話し相手によって人格はがらりと変わります。要するに人は無数の人格を同時に持っているということです」(クイダ)。たとえば、マズレンコは両親には言わないようなことをクイダに話していた。クイダはマズレンコの家族や友達と話し合い、共有すべきではないデリケートな情報を見出すことができた。企業が現実的に同じことをできるだろうか。

ラーナマはそれと同じことができると確信している。ラーナマによると、コンテキストに応じて会話内容を調整し、誰がどのデータにアクセスできるかをユーザーにコントロールさせることで、オーグメンテッド・エターニティは、多様な人格を併せ持つデジタルアバターの実現への一歩を踏み出すことになるという。つまり、いつの日か、ラーナマの娘が家族用のデジタル人格を持つラーナマのアバターに相談をしたり、元教え子が学者としてのデジタル人格を持つラーナマのアバターに質問したりできるようになるかもしれない。ラーナマはこのことを、消えていく代わりに社会に貢献し続けることで現世に遺産を残す1つの方法としてとらえている。

死者のためだけの技術ではない

一方、デジタルアバターはまだ生きている間も役に立つ可能性がある。AIにより、散在する文書記録に基づくあなたの専門知識を、あなたの知識を持ち人々と対話できるような代理人の役割を果たすアバターに変られるかもしれない。1時間に数百ドルの料金を請求する弁護士は、それよりはるかに安い料金で人々に助言を与える自身のデジタルアバターを提供できる可能性がある。セレブや政治家、他の著名人も公の場での仕事の一部を自身のデジタルアバターに委託できるようになるかもしれない。AIにより、現実の世界では決して会うことができない専門家に相談することもできるだろう。本人の代理として専門知識を共有できる能力が、「インターネット上の新しいビジネスモデルに実際に役立つ可能性があります」とラーナマはいう。汎用品であるシリやアレクサに話しかける代わりに、著名な科学者や政治家、あるいは優秀な同僚に質問できる。自身のアバターを会議に出すことができるのであれば、ビジネスミーティングに参加する必要もなくなる。

米国カリフォルニア州マウンテンビューに拠点を置くスタートアップ企業であるエターナム(Eternime)も、あなたの個人情報を「永遠に生き続け、未来の人があなたの記憶にアクセスできるような、あなたに似た見た目の知的なアバター」に組み込むサービスを提供している。エターナムの創業者であるマリウス・ウルサケは、長年にわたりこのアイデアを推進してきており、すでに4万人以上の人が順番待ちリストに登録している。だが、自己資金で運営されている同社は、いまだに限定的なベータ版しかリリースしていない。ウルサケは、技術面というより行動面の問題があると考えている。「人は何十年後も先に利益を生むような活動にあまり時間を投資しません」。

ビジネスとして軌道に乗るかどうかに関わりなく、ラーナマは、オーグメンテッド・エターニティがプライバシーやデータ所有権に関する議論のきっかけになればと願っている。「私がこの研究プロジェクトを気に入っている理由は、自分が死んだ後に誰が自分の情報を所有するのかといったデータサイエンスやAIをめぐる多くの重大な倫理的問題を扱うプロジェクトだからです」とラーナマはいう。

ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア(Nature Human Behaviour)誌に今年発表された論文で、オックスフォード大学インターネット研究所の倫理学者であるカール・オーマンとルチアーノ・フロリディは、急成長する「デジタル来世」産業の倫理的な枠組みが必要だと主張した。博物館が人間の遺品を扱う際に用いる規範と同じ規範に従ってデジタル遺品を取り扱うべきなのか。そうすべきである場合、企業は非常に限られた方法でしかデータを使用(または悪用)できなくなる。デジタル遺品が「故人の情報的遺体」のようなものである場合、「単に利益などの目的を達成するための手段として使用することはできないかもしれないが、その代わりに固有の価値を有する実体として扱われる可能性がある」とオーマンとフロリディは述べている。

ブラックミラーを通して見る人間性

デジタル来世に関するほとんどすべての議論において、英国のテレビシリーズであるブラックミラーの「ずっと側にいて(原題:Be Right Back)」のエピソードが話題に挙がるとオーマンは指摘する。夫と死別した若い女性が、亡くなった夫のデジタルアバターと交流するというエピソードだ。話が進むにつれて、女性はためらいながらも夫のチャットボットにテキストメッセージを送るところから、最終的には夫そっくりのロボットを購入するまでに至る。

このエピソードに関する議論においてよく見落とされる点は、そのアバターを作った企業の役割だ。現実の世界では、人々はそのような企業に対して懐疑的になるべきだとオーマンは述べる。デジタル化された死者が持つ生きている人を操る力は強大だ。自分がかつて愛し、失った人よりも自分に製品を売るのがうまい人はいない。そのため、デジタルアバターが本人よりも話し好きで、押しの強い、お世辞ばかり言うタイプになる可能性がある。もし開発者がそのようなデジタルアバターを作るのがベストだと考えた場合、誰が彼らを止めるのだろうか。

このブラックミラーのエピソードで、アバターは彼女から定期的に亡くなった夫に関するさらなるデータを引き出し、より高額なアバターを彼女に売る。結局、彼女が「殺す」ことができないほど夫そっくりのアバターになってしまう。不老不死のデジタルアバターをめぐる美辞麗句は、人々の記憶に残りたいという人間の願望に焦点を合わせたものになっている。だが、大抵の人は最愛の人が自分の死を受け入れられることを望んではいないだろうか。

コートニー・ハンフリーズは、さまざまな出版物に向けて科学や環境に関する記事を寄稿するフリーライターです。

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クレジット Photographs by Tony Luong
コートニー ハンフリーズ [Courtney Humphries]米国版 契約編集者
コートニー ハンフリーズは、MIT Technology Reviewの契約編集者で、生物学や健康、文化について、ボストングローブ紙やサイエンス誌、ネイチャー誌、ワイアード誌、ニュー・サイエンティスト誌、さまざまな刊行物でフリーランス・ライターをしています。『スーパードーブ:鳩はどのようにマンハッタンから世界を征したか』(スミソニアン・ブックス刊、未邦訳)の著者です。
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