KADOKAWA Technology Review
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毒舌OHSU准教授が語る、がん個別化医療の「幻想と現実」
生命の再定義 The skeptic: What precision medicine revolution?

毒舌OHSU准教授が語る、がん個別化医療の「幻想と現実」

遺伝子情報に基づく適確医療に対する世間の注目が集まっているが、当初に期待したほどの成果をまだ挙げられていないことも確かだ。舌鋒鋭い批判で知られる腫瘍専門医のビナイ・プラサド准教授によれば、個別の遺伝子治療の利点が誇張されることで、公衆の誤解を招き、ひいては患者の不利益になっているという。 by Stephen S. Hall2018.11.27

ポートランドにあるオレゴン健康科学大学医学部のビナイ・プラサド准教授は、まだ比較的若く、学界の出世階段を登っているところだ。しかし、個別医療などをはじめとする現代生物医学の研究に対する舌鋒鋭い批判から、「プロの小言屋」としてすでに広く定評がある。プラサド准教授は、高名な医学雑誌や科学雑誌に寄せた論評や、約2万5000人のフォロワーがいるツイッターアカウントで、腫瘍の中の特定の突然変異に基づいて患者に医薬品を投与する適確医療(「精密医療」とも呼ばれる)の使用を推進する根拠(または根拠が不足している点)について疑問を呈している。プラサド准教授はほかにも、抗がん剤の薬価高騰や、現代の研究を混乱させている金銭面での利害対立も批判している。

プラサド准教授は、医療界の小言屋として、新しい視点をいくつかもたらしてくれている。インド系移民の両親を持ち、オハイオ州ユークリッド(クリーブランドの東郊都市)に生まれたプラサド准教授は、シカゴ大学医学部に進学する前は、哲学に興味を持っていたという。腫瘍専門医として査読(ピアレビュー)を経た論文を多く執筆しているが、とりわけ、ゲノム情報に基づいた治療が、がん患者に大して効果がないことを示唆する証拠を集めた論文が多い。プラサド准教授は、ネット上での険のある発言から、汚い言葉で相手をこき下ろすなどと非難されてきたが、自身が「ツイートリアル(tweetorials:ツイッターのつぶやきによる指導)」と呼んでいる、高名な研究の構想や研究データに対する詳細な分析は非常に人気が高い。

以下の、ベテラン医療系ライターのステファン・S・ホールとの対談でプラサド准教授は、適確腫瘍学(プレシジョン・オンコロジー)や、消費者直販型の遺伝子検査に対する理解の欠如、新薬を市場に出すのに本来かかる費用について強く非難している。

——個別医療を支持する人は、数十年にわたり、個別医療に革命が起こるのを待ち望んできました。現実はどうでしょうか?

多くの人が同意すると思いますが、ヒトゲノム計画の頃に作った予測の大部分が具現化していません。また、個別医療の効果はおそらく過大評価されていると思います。

——大げさな予測を立てることの何が危険なのでしょうか?

科学と医学には、お互い矛盾する部分があると思います。一方で、優秀な科学者は、科学が難しいことを理解しています。ブレークスルーは常に起こるべきではありませんし、ブレークスルーが常に起こることもありません。ブレークスルーが起こるのは、まれなのです。科学は難解です。極めて基本的な過程の理解に何年も費やすのですから。

その一方で、私たちはしばしば、大げさな予測を立てて、困難で非現実的だが、今後数年間に達成されるかもしれないビジョンを持ちたい衝動に駆られます。専門家は今後もこういった行動をとり続けると思います。

大げさな予測は科学に対する公衆の誤解を招きます。人々は、ブレークスルーが常に起こらない限り、資金を提供すべきではないと考えるようになるのです。しかし、それは間違っています。科学には多くの資金が必要です。現在の投資額よりずっと多い金額が必要なのです。

——そのことは患者の不利益になりますか?

医療行為やテクノロジー、科学の価値についての美辞麗句は、患者の不利益になると思います。治療や介入の効果の可能性についての理解を歪めて、自主性を奪ってしまうからです。例を1つあげましょう。

がん患者はしばしば、副作用が強く出る薬を投与されますが、患者はこの医療行為を受けることで生存率があがると信じています。患者たちは誰もが日々、薬物治療を受け続けるべきだろうか、副作用を我慢してまで受ける価値があるのだろうかと決断を下しています。薬の効果をきちんと理解した上で、偏りのない判断をしたのであれば、それは正しい決断です。しかし、誇大広告と誤報に取り囲まれた環境では、実際には、患者の意思を尊重した決断を下すことが妨害されていると思います。患者から選択肢を取り上げているようなものです。私は、こういったことが頻繁に起こっているのではないかと本当に危惧しています。

——少なくとも2006年頃から患者への個別の遺伝子治療が始まっているにもかかわらず、がん患者のほとんどは、こうした治療の恩恵を受けていないことを示す研究を最近発表されましたね。なぜそう思うのでしょうか …

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