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イスラエルの危機
「スタートアップの聖地」は
先進国へ飛躍できるか?
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Israel’s “startup nation” is under threat from the tech giants that nurtured it

イスラエルの危機
「スタートアップの聖地」は
先進国へ飛躍できるか?

「スタートアップの聖地」として知られるイスラエルが世界的企業の進出によって、「侵食」されている。人材不足や知財の海外流出などの問題を乗り越え、先進国へと飛躍できるか? 正念場を迎えている。 by Matthew Kalman2019.05.17

イスラエルのテクノロジー人材が今ほど求められていることはない。地中海に面するこの小さな国では300社を超える世界的なテクノロジー企業が事業を展開しており、そのほとんどがテルアビブから車で1時間以内の場所にある。最初期に事業を始めたのはIBM、インテル、マイクロソフト、モトローラ、シスコだったが、それが大きな波となった。6000社以上のスタートアップ企業がひしめくバブル状態のエコシステムでチャンスをつかもうと、2014年以降、少なくとも21カ国の117企業がイスラエルに研究開発センターを開設した。

世界的な巨大企業が参入するにつれ、給料や家賃、評判も吊り上がった。確かに多国籍企業は、新興テクノロジー集団を牽引し、育んだ。しかし、元々多国籍企業を惹き付ける魅力であった起業家精神、軍事教育、フツパ(ヘブライ語で大胆、厚かましさの意味)が壊れやすいまま混じり合った国の持つ可能性を、気付かぬ間にダメにしているのではないかと心配している人たちがいる。彼らが恐れるのは、イスラエルのデジタル経済が成熟しないまま発展を止めてしまうことだ。

イスラエルのエコシステムは曲がり角を迎えているのか? いや、もしや危機にまで至っているのか? この国の起業家たちはすでに危機を心配している。理由はいくつかある。

理由1. 人材の払底

「最初は、多国籍企業が増えれば増えるほど仕事が増えると思っていました」と話すのは、イーベイ(eBay)・イスラエルのデータ科学責任者、キーラ・ラディンスキー博士だ。イーベイはディンスキー博士が創業した予測アルゴリズムのスタートアップ企業を買収し、イスラエルのコンピューター産業に深く関わるようになった。「何が実際に起こったかと言うと、多国籍企業は地元で成長しようとしているスタートアップ企業や、イスラエル人が地元に残したいと思っている大企業から仕事を奪っているのです」。

このことは数字が証明している。イスラエル銀行(Bank of Israel)の最新の年次報告書によれば、イスラエルのテクノロジー分野で働く資格のある労働者の需要は供給を大きく上回っていると警告している。イスラエルのハイテク分野の労働者総数は30万人以下だが、現在、熟練エンジニアは慢性的に約1万5000人不足している。

しかも状況は何も良くなっていない。2011年から2015年までの間に総人口は8%近く増えたが、外国資本が流れ込んでいるにもかかわらず、テクノロジー産業の従業員数は4%しか増えていない。実は、民間企業におけるハイテク職員の割合は12.6%から11.7%に減っている。

ソール・シンガーとダン・セノアによるベストセラー本『Start-Up Nation』(2009年刊、未邦訳)を契機に生まれた非営利団体「スタートアップ・ネイション・セントラル(Start-Up Nation Central)」が2018年12月16日に発表した報告書も、この傾向を認めている。「テクノロジー分野の人材の需要が急速に増えるにつれ、プログラマー、科学者、エンジニアなどの供給が追い付かなくなっており、人材不足が大きくなってきています」と報告書には記されている。

報告書によれば、イスラエル企業は人材不足の解消のために海外に支社を開いている。「4社に1社は海外に開発チームを持っていて、国としてはウクライナがもっとも好まれています。海外に支社を持つ企業は従業員全体の約25%を海外で雇用しています」。

理由2.  給料の高すぎる従業員たち

イスラエル国内企業の2つ目の心配は賃金のインフレだ。「多国籍企業は給料をつり上げています」とラディンスキー博士は話す。「多国籍企業の給料は非常に高いのです。スタートアップ企業には、多国籍企業が雇うようなソフトウェア・エンジニアを雇う余裕はありません」。テクノロジー業界の賃金はすでに国の平均給与の2倍を超えているが、今も他業界の2倍のペースで上昇している。

こうした息を飲むような状態が突然、公のものになったのは、1年前にアマゾン(イスラエルに直近に進出した巨大企業)がエンジニアに2倍、3倍の給料を提示したときだ。アマゾンはAWS(アマゾン・ウェブサービス)のトレーニング・セミナーに参加した顧客企業の社員にまで転職を呼び掛け、起業家たちに悪印象を与えた。

ネット保険会社「レモネード(Lemonade)」の創業者であるシャイ・ワイニンガー最高経営責任者(CEO)は、「アマゾンがレモネードの社員を積極的に狙い、引き抜こうとしているのを知ったばかりです」とリンクトイン(LinkedIn)への投稿で怒りを表明した。「アマゾンは、こんなやり方をしてスタートアップ企業のエコシステムを支援しているのだと考えているのでしょうか? AWSの採用を考え直します」。数十人のイスラエルの起業家がフェイスブックやリンクトインでワイニンガーCEOへ意見に同意した。ワイニンガーCEOと同じように感じていたのだ。

アマゾンは、賃金を吊り上げることで不当にスタッフを引き抜いているとの批判を否定している。MITテクノロジーレビューに対しアマゾンは、「イスラエルで営業している他の会社と同水準の、競争力のある賃金パッケージを提示しています」と述べたが、それ以上の説明はなかった。

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