KADOKAWA Technology Review
×
AIは「動物並み」に賢いか
適応能力や常識を競う
「動物・AIオリンピック」
Ms. Tech; Images: Wikimedia commons
カバーストーリー 無料会員限定
Is AI as smart as a chimp or a lab rat? The Animal-AI Olympics is going to find out

AIは「動物並み」に賢いか
適応能力や常識を競う
「動物・AIオリンピック」

英ケンブリッジ大学などの研究チームが「動物・AIオリンピック」を6月に開催する。コンペでは、動物の知能テストなどに使われている100種類のタスクを人工知能(AI)エージェントに実行させることで、AIを一般家庭や日常で広く使うときに必要となる多様な環境への適応能力や常識的判断の能力を競う。 by Oscar Schwartz2019.04.05

イソップ寓話の1つに、のどが渇いたカラスと少量の水が入った水差しの話がある。くちばしが水に届かず、水差しを倒すこともできなかったカラスは、水差しの中に小石を1つずつ落とし入れてくちばしが届く高さまで水位が上げ、水を飲む。この寓話でイソップは、腕力よりも知性が優ることを示した。

イソップ寓話誕生から2500年を経て、人工知能(AI)がイソップの古代知能テストを突破できるか確認できるかもしれない。6月に開催される「動物・AIオリンピック(Animal-AI Olympics)」で、研究者はアルコリズムを訓練して、これまで動物の認知テストに使用されてきた一連のタスクを習得させる。賞金総額1万ドルのコンペだ。

AIの性能評価では、世界最強の囲碁棋士を打ち負かしたり、ビデオゲームを一から習得する方法を考えたりするなど、単一タスクの習得を基準とすることが多い。 AIはそのような分野で並外れた成功を収めてきた。しかし、ある特定のタスクに優れたAIシステムをまったく別のタスクに適用すると、ほとんどの場合お手上げ状態になる。動物・AIオリンピックで、1つのAIエージェントにこれまで見たことのない100種類のタスクに取り組ませる理由はそこにある。ここでテストされるのはある特定の知能ではなく、単一エージェントの多様な環境への適応力だ。これは、AIを一般家庭や日常生活で広く利用するために必要となる常識的判断、すなわち、汎用知性の一部の形式を実証することになる。コンペ主催者は、あらゆる状況に完璧に適応し、満点を出すAIシステムが出るとは考えていないが、直面するさまざまな問題に臨機応変に取り組めるシステムの登場を期待している。

この動物・AIオリンピックを企画したのは、英ケンブリッジ大学のAI研究所「フューチャー・オブ・インテリジェンス研究所:CFI(Leverhulme Centre for the Future of Intelligence)」のチームと、チェコのプラハに拠点を置く研究機関「グッドAI(GoodAI)」だ。今回のコンペは、動物認知研究者とコンピュータ科学者、哲学者を集めた学際チームにより、人間と動物、機械の考え方の違いと類似点を検討するCFIの「カインズ・オブ・インテリジェンス(Kinds of Intelligence)」というプロジェクトの一環だ。ほとんどのタスクは通常、動物の知能テストに使用されるものだが、人間の領域にも足を踏み入れ、乳幼児の認知テストに使用されている課題も一部含まれる。CFIのポスドク研究者であるマシュー・ クロスビー博士は、将来の課題は人間の認知タスクを多く含んださらに複雑なものにしたいと考えている。

コンペに参加する研究者たちは、物理的な実体のあるロボットを開発するよう求められるのではない。その代わり、コンペのプロジェクトリーダーであるマルタ・ハリー …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
  2. This startup just hit a big milestone for green steel production グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功
  3. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  4. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る