アポロ月面着陸から50年、
歴史的偉業は何を変えたか?
50年前に月面に降り立ったニール・アームストロングは「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」と語ったが、月着陸は結局、人間社会を変えることに関してほとんど役に立たなかった。だが、人類の宇宙での活動は、人々の生活を大きく変えた。
※本記事は、2019年7月3日に公開した記事の再掲です。
by Konstantin Kakaes2019.07.20
アポロ11号の船長であるニール・アームストロングが、1969年7月20日に人類で初めて月面に降り立ってから50年が経った。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」とはアームストロングの有名な言葉であるが、今となっては、彼は誤解をしていたと結論づけるほかはない。月着陸は一人の人間にとっては大きな飛躍であり、アームストロングの人生はすっかり変わった。しかし、後知恵で考えれば、人類にとっては小さな一歩に過ぎなかった。
人間を月に送ることが人類全体にとって困難な挑戦ではなかったということではない。実際、困難であった。しかし月着陸は結局、人間社会を変えることに関しては、ほとんど何の役にも立たなかった。
著名な宇宙史学者のロジャー・ラウニアスは著書『Apollo’s Legacy』(未邦訳)で、「根本的なレベルでは、大統領がアポロ計画の実行を決定したことは米国にとって、エジプトのファラオがピラミッドの建設を決めたのと同じようなものだ」と記している。月着陸の最も大きな影響は、特定のテクノロジーに関連したことではなく、単なるメタファーである。「人間を月に送れるのに、どうして『X』ができないのか」というものだ。
議論の俎上に上る「X」とはたとえば気候変動や貧困の解決であり、「いずれもテクノロジーの面から解決できる可能性があるものだ」とラウニアスは述べる。「しかしそうした問題は多分に政治的社会的な問題である」。そしてアポロは、政治的・社会的な問題を何一つ解決しなかった。その他の「X」、たとえばがんの治療などの実現は、まったく新しい形の科学的知識を得られるかどうかにかかっている。
対照的に、ピーク時には40万人が携わったアポロ計画の成功は、相互に関連する無数の技術革新を工学的にうまく管理できたことによるもので、科学上の革命によるものではない。12万5千人の人員と、ドルのインフレを計算に入れるとアポロ計画の4分の1の予算が投入されたマンハッタン計画が世界に与えた影響は、原子爆弾の発明だけにとどまらない。これは大きな飛躍であった。おそらく、よい方向だったとは言えないが。
アポロ計画が人類に与えた影響として、同計画に必要とされた複雑なテクノロジー・システムの管理において、人類が大きな成長を遂げたことが挙げられる。現代の航空機やコンピューターは理解不能なほどに複雑だが、それでも動作はする。これはアポロのおかげではないが、理由は同じである。
こうしたシステムのおかげで、1972年以降人類が月に行っていないにもかかわらず、有人宇宙飛行やロボットを使った太陽系探査はゆっくりと着実な進歩を遂げてきた。そのうち最も重要なのは、軌道上を周回する人工衛星によって、地球上の生活が根本的に再編されたことだろう。
宇宙での活動がどれほど拡大したかをざっと理解するには、統計を見るのが役に立つ。2000年以降、米国、ロシア、中国、インド、そしてヨーロッパは1125回 …
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