KADOKAWA Technology Review
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小型衛星向け、新世代の液体燃料プラズマ推進装置
NASA
宇宙 Insider Online限定
A new thrust technology for nanosatellites could make them more efficient

小型衛星向け、新世代の液体燃料プラズマ推進装置

小型衛星の推進装置として、化学燃料ロケットより小型かつ軽量で高効率のプラズマ推進装置が搭載されることが多くなっている。しかし、現在のプラズマ推進装置は、制御が難しいうえに効率も低く、エンジン自体を損傷することもある。そこでパデュー大学の研究者らは、高効率の液体燃料パルスプラズマ推進装置を設計した。 by Emerging Technology from the arXiv2019.09.09

1964年、ソビエト連邦は火星に向けてゾンド(Zond)2号という宇宙船を打ち上げた。ゾンド2号のミッションは「赤き惑星」の周回軌道に乗って火星表面の写真を撮影することであり、大気中にメタンが存在する証を探し、探査機を放出して火星面に着陸させることだった。

打ち上げから数カ月後、ゾンド2号に搭載したトラブルがちな電源装置が機能しなくなった。ソビエト当局は宇宙船と連絡を取れなくなり、二度と通信することは叶わなかった。このミッションは今日、火星に関わる多くの失敗の1つであったと広く認識されている。

しかしゾンド2号には別の目的もあった。この宇宙船には、姿勢制御のための革新的な推進装置が6つ取り付けられていたのだ。プラズマ・ジェット・エンジンとして知られるこれらの装置は、それまで宇宙で使用されたことがなかった。しかし打ち上げ後の様々なテストにおいて、ゾンド2号はプラズマ・ジェット・エンジンが宇宙で動作する可能性を示した。

それ以降、さまざまな宇宙船で、この形式の推進装置(および、イオン推進機を使った少々異なる装置)が採用されている。これらのエンジンは従来の化学燃料の推進装置と比べると、仕組みが単純で軽量、かつ効率が良いという大きな利点がある。

化学燃料の推進装置よりかなり小型でもある。そのため小型衛星を製作する者にとって好都合だ。質量が10キログラム未満の小型衛星は宇宙探査機としてますます一般的になっており、そのほとんどはルービックキューブよりもやや大きい程度だ。

しかし、プラズマ推進エンジンも完璧ではない。搭載した推進剤をプラズマ化して流れを制御するのは難しいうえ、エネルギーを浪費するプロセスであり、ときにはエンジン自体が損傷することもある。したがってプラズマ推進装置を改善する方法を見つけることは、小型衛星を製作する者にとって大きな関心事となっている。

インディアナ州ウェスト・ラファイエットにあるパデュー大学のアダム・パテルたちの研究チームもその問題に取り組んでいる。パテルたちは、従来と同じくらい小型でありながら、信頼性と効率を向 …

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