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米通信品位法230条、
現代ネット社会を作った
法律の光と陰
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Section 230, the law that created the modern internet, explained

米通信品位法230条、
現代ネット社会を作った
法律の光と陰

米国通信品位法230条は、現在のインターネットの興隆を招いたともいわれている。サイト運営者は、問題のあるコンテンツが投稿されても、責任を負う必要がないのだ。しかし、現状はテック企業がその免責にあぐらをかいて、適切なコンテンツのモデレート(投稿監視)を怠っているとの批判がある。230条とは何か、何が誤解されているのか、政治的な論点は何かを詳しく解説する。 by Angela Chen2019.10.30

米国通信品位法(CDA:Communications Decency Act)230条は、今日のインターネット、つまりフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどの発展を許した法律の一条項だ。反保守的な検閲からリベンジ・ポルノまで、様々な問題を可能にしている条項だと非難されるようになり、共和党と民主党の両陣営の政治家が改正を求めている。ドナルド・トランプ大統領は最近、230条を制限する大統領令を起草した。大統領令は変更されるか、完全に破棄される可能性はあるが、230条をめぐる議論が続くことが予想される。

230条の正しい規定内容と誤解点、また230条が政治的議論の対象になった理由を以下に示す。

230条とは?

米国で1996年に制定された通信品位法230条は、インターネット企業には、第三者によって提供されたコンテンツに対して、一部の例外を除き法的責任はないとしている。

230条に関する書籍『The Twenty-Six Words That Created The Internet(インターネットを作り上げた230条)』(2019年刊、未邦訳)の著者で、米海軍兵学校のジェフ・コセフ教授(サイバーセキュリティ法)は、230条を説明する典型的な例は、地域ビジネスの口コミWebサイト「イェルプ (Yelp)」だという。レストランに対する誹謗中傷の口コミがイェルプに投稿された場合、230条ではレストランがレビュー投稿者を訴えることは認めるが、イェルプ自体を訴えることはできない。フェイスブックやユーチューブから、最近、Webインフラ企業からサービス提供を打ち切られた「8ちゃんねる(8chan)」に至るまで、230条はすべてのインターネット企業を保護する。

230条ではプラットフォーム事業者、またはプラットフォーム利用者が「卑猥、みだら、挑発的、不潔、過度に暴力的、嫌がらせ、またはそれ以外の理由で好ましくない」と判断したコンテンツを削除した場合、プラットフォーム事業者は責任を負わないと規定している。つまり、ホストしたくないものをホストする義務はプラットフォーム事業者にはない。

230条が導入された経緯

230条は1995年のストラットン・オークモント(Stratton Oakmont)が関与する事件に端を発する。ストラットン・オークモントは、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオが演じた株式仲買人のジョーダン・ベルフォートが創業した株式仲介会社だ。ストラットン・オークモントは、同社が詐欺を働いたという書き込みがプロディジー(Prodigy)の掲示板に表示された後、掲示板を運営していたインターネット・サービス・プロバイダーのプロディジー・サービス(Prodigy Services)を名誉毀損で訴えた。

プロディジーは敗訴した。掲示板のモデレート(投稿監視)をしていたため、ニューヨーク州の裁判所はプロディジーが投稿コンテンツに対して責任があると判断した。皮肉な点は、プロディジーはモデレートを一切しなければ、法的に保護されていたことだ。

この判決に …

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