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「ポストGAFAはBATではない」ジャーナリスト高口康太が考える理由
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Can Chinese tech giants BAT become GAFA?

「ポストGAFAはBATではない」ジャーナリスト高口康太が考える理由

急成長を遂げる中国の巨大テック企業は、グーグルやアップルに代わる存在になるのか? ジャーナリスト・高口康太氏が各社のこれまでの歩みをもとに予測した。 by Yasuhiro Hatabe2020.02.05

「最初に結論をいいます。BATのうちのどれかが『ポストGAFA』となる可能性は非常に低い、と私は考えています」。

2019年8月27日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで開催された「Emerging Technology Nite #14 BATはポストGAFA時代を制するのか? ——『チャイナ・イノベーション』の現在を読み解く」(主催=MITテクノロジーレビュー[日本版]、協力=三井不動産/ BASE Q)。

中国の社会・経済・ビジネスに通じたジャーナリストの高口康太氏は、今回のテーマとなっている問いへの「答え」から話を切り出した。「なぜこの結論に至ったのか、BATといわれる中国の3つの巨大プラットフォーマーの歴史やキャラクターを踏まえて解説したい」といい、中国のテクノロジー業界事情の過去・現在・未来を紐解いていった。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の対抗軸として語られることも多い「BAT」は、検索最大手のバイドゥ、EC最大手のアリババ、メッセンジャーアプリとゲームの最大手であるテンセントの3社を指す。最近では、EC大手のJDドットコムを加えて「BATJ」と呼ぶこともある。

「これらの会社それぞれがエクセレントな企業であるというだけでなく、豊富な資金を生かして新しいスタートアップ企業を買収する、あるいは出資してパートナー関係を結ぶ形で中国に面白いサービスを生み出している。その揺籃(ようらん)としての機能が注目されている」と高口氏は話す。

日本でも近年、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)によるスタートアップ投資の動きは盛んだが、中国では特にその動きが激しい。中国のスタートアップ投資の仕方は特徴的で、出資先を完全に支配下に置くのではなく、広く多数の企業に少しずつ出資して株式を取得しておく形が多い。「そのため、BATのうちどれか1つのグループに属するわけでなく、同時に2社から出資を受けたり、元々バイドゥ系だった企業が後にテンセント系に鞍替えしたりするケースもある」(高口氏)という。

中国では上場基準が厳しく、また中国政府の意向で上場のタイミングが思い通りにいかないケースが少なくない。そのため、スタートアップにとって「BATのどこかに買収してもらう」という出口が主要な選択肢となっているのだ。昨年7月に中国版ナスダックとも呼ばれる新しい証券取引所「科創板」がスタートし、上場基準が緩和される方向にあるとの向きもあるが、少なくともこれまでは、BATが中国のイノベーションを孵化させ、大きく育てる原動力となってきたことは事実だ。

PCインターネット時代、ドットコム・バブル期に生まれたBAT

BAT3社のうちもっとも早く創業したのは、テンセント(1998年創業)だ。その翌年1999年にアリババ、次いでバイドゥが2000年に創業する。高口氏は、BATそれぞれの創業者と事業の特徴、これまでのあゆみを解説した。

ポニー・マーらが創業したテンセントは、「メッセンジャー」で伸びた企業である。最初は「QQ」というICQに似たチャットソフトで成長し、皆が名刺に「QQ番号」を記載するほどの社会インフラに成長させた。「QQスペース」というSNSも人気を博した。

アリババは、先日引退したジャック・マーが英語教師を辞して創業した会社だ。「世界にできない商売をなくす」をスローガンとして掲げ、ECを中心に商売人をサポートするという基本理念の下、アリババ経済圏を広げていった。

バイドゥの創業者、ロビン・リーは米国ニューヨーク州立大学でコンピューターサイエンスの修士を修めた後、検索企業ライコスで働いていたこともある人物。検索技術を中国へ持ち帰り、成功を夢見て起業した。インターネット上のMP3ファイル(海賊版含む)を探せるMP3検索で一気に中国国内の人気を高めた。

8月末時点での時価総額は、アリババが4528億ドルで世界7位、テンセントが4009億ドルで8位と続く。バイドゥの時価総額はこの2社より1桁少なく、順位を大きく落としている状況だ。ちなみに世界1位はマイクロソフト、2位〜5位をGAFAが占め、6位に投資会社のバークシャー・ハサウェイがランクインしており、その後にアリババ、テンセントが付けている。

BATが経験した2つの苦境

「中国のIT企業は、今までに2回、危機を迎えている」と高口氏はいう。1つ目の危機はドットコム・バブルの崩壊、2つ目は2010年頃から始まるモバイルシフトだ。

テンセントもご多分にもれず、この2回のタイミングで危機に陥った。ドットコム・バブル崩壊時にはキャッシュがなくなり倒産寸前まで追い込まれたが、南アフリカのインターネットおよびメディア企業・ナスパーズの出資を受けて生き延びた。このナスパーズは現在もテンセントの筆頭株主であり、莫大な利益を上げたといわれる。

またモバイルシフトでも、テンセントは本格的な危機を迎える。「中国版ツイッター」と呼ばれる「ウェイボー」の広がりに押され、「QQ」の人気が急落してしまったのだ。しかしテンセントはその後、モバイル時代に即したプロダクト開発に注力し、2012年にリリースした新しいメッセンジャーアプリ「ウィーチャット」が爆発的なヒットとなり、世界11億人が使うアプリに成長している。

ドットコム・バブルがピークの頃に創業したアリババも、バブル崩壊で一気にキャッシュを失い苦境に追い込まれたが、どうにか持ちこたえた。10年後のモバイルシフトでは、EC企業JDドットコムの台頭でもう一度苦しみを味わったが、モバイルシフトに成功して生き残った。2016年以降、「五新」(ニュー・リテール、ニュー・ファイナンス、ニュー・エネルギー、ニュー・テクノロジー、ニュー・マニュファクチュア)をコア戦略に据え経済圏をさらに拡大。現在、アリババのアプリにアクセスするユーザーの8〜9割はスマホ経由だという。

バイドゥは、ドットコム・バブルが弾けた当時はまだ本格的なサービスを開始する前だったため、特に困ることもなく切り抜けられた。ただ、モバイルシフトでは大きな問題に直面する。スマートフォンの時代、人々は「検索」しなくなったためだ。テンセントがウィーチャット、アリババがタオバオとアリペイというスーパーアプリを持てたのに対し、バイドゥは他のサービスに人を送り込むツールを生み出せなかったのである。

プラットフォーマーは祖業以外のジャンルでは成功できない

「BATの共通点は、PCインターネット時代に創業したプラットフォーマーであり、ドットコム・バブルの崩壊で生き延びた会社だということ」と高口氏は指摘する。バブル崩壊後にモバイルシフトを迎える前の約10年で急速に成長し、他の会社を買収したり出資できるほどの「巨人」になりえたのがこの3社だったということだ。

「しかし、それだけ大きくなった企業でも安泰ではなかった。実際、バイドゥは現在、かなり苦しい状況にある。中国はそれだけ市場が不安定で、生き馬の目を抜くような状況にある」と高口氏はいう。

アリババのジャック・マーは、「102年続く企業を目指す」と常々口にしてきた。1999年の創業から102年後の2101年まで存続できれば、3世紀にわたって生き残れるという意味だ。逆にいうと、どんなに栄えた企業であっても、中国市場で長期にわたって存続するのが難しいことを物語っている。

「そしてもう一つ、これはGAFAにも共通していえることですが、創業時の事業からかけ離れたジャンルの領域では成功できない」と高口氏は指摘する。確かに、これだけ大きくなったグーグルでさえも、SNSでは成功できていない。テンセントもモバイルシフトはしたものの、メッセンジャーの分野が今もメインだし、アリババもECに始まり、物流や工場の分野にも手を広げているが、商売人のサポートという自分たちの基礎の部分からは離れていない。バイドゥは、検索を離れてVRやAIの分野へ移行しようと試みているが、いまのところ大きな成功には至っていない。

高口氏は「したがって、今回のテーマ『BATはポストGAFA時代を制するのか?』の問いに答えるなら、GAFAの牙城を崩すのはBATではないだろう。BATが全く新しい分野で成功する可能性も低い」と結論づけた。

「ただし、既存のジャンル以外の領域に、中国発のIT企業が新しいジャンルを築く可能性はある」と高口氏はいい、現在中国で台頭しつつある「TMMD」と称される4社(バイトダンス、美団点評、シャオミ、ディディ)の名を挙げた。彼らは、モバイルインターネット時代に生まれた新しいプラットフォーマーである。そのほか、DJIもドローンで大きな躍進を遂げている。

「新しいテクノロジーの波に乗って、中国あるいはインド、アフリカなど別の新興国から、まったく新しいジャンルのサービスをつくる企業が出てくる可能性は高い。そうした企業が、ポストGAFAとしてのプラットフォーマーになるのではないか」と高口氏は予測した。

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クレジット photo yahikoworks
畑邊 康浩 [Yasuhiro Hatabe]日本版 ゲスト寄稿者
フリーランスの編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリー。
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MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.3/Spring 2021
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