中国の量子通信技術を支える単一光子検出器の仕掛けが明らかに
中国の人工衛星「墨子号」は、量子暗号をはじめとする量子技術の分野で目覚ましい一連のブレークスルーを達成している。この成果には、中国科学技術大学の研究チームが開発した、バックグラウンドノイズを巧妙に回避する強力な単一光子検出器が重要な役割を果たしている。 by Emerging Technology from the arXiv2019.11.07
単一光子の新たな用途として、量子情報を詰め込んだ単一光子の伝送に注目が集まっている。この手法は「量子通信」と呼ばれており、物理法則に基いて盗聴者への情報漏洩を確実に防げるものだ。
量子通信の課題の1つは、量子情報を世界中に送信する方法を見つけ出すことにある。量子情報は壊れやすいため、伝送手段を見つけるのは簡単なことではない。光子と環境の間のあらゆる相互作用で量子情報は破壊される。光子は伝送する量子情報を保ちながら、大気または光ファイバーを100キロメートル以上移動することはできない。
そこで、中国の物理学者が考え出した回避策が、光子を軌道上の衛星に照射し、衛星中継で地球上の別の場所に送るというものだ。この方法なら、厄介な大気中の移動を最小限に抑えられる。高高度の地上局から光子を送信すれば、光子はほとんど真空の世界を移動する。
しかし、問題が1つある。量子通信には単一光子を見つけて測定できる検出器が必要だ。近年になって物理学者は、それが可能な単一光子検出器を設計・製作しており、その感度は年々向上している。
ただし、感度が高まったことで、あらゆる種類の背景雑音(バックグラウンドノイズ)の影響を受けやすくなり、光子自体からの信号がかき消される可能性がある。宇宙は、高エネルギー粒子、極端な温度、太陽などの光源からの外来光など好ましくないノイズに満ちている。
そういった環境で機能する単一光子検出器を製作することはかなり難しい。物理学者がしばらく前からこの問題に頭を悩ませてきたとしても、驚くほどのことではない。
中国科学技術大学(安徽省合肥市)のヤン・メンの研究チームは最近、この問題を解決したとする研究を発表した。ヤンの研究チームはこれまで2年間、軌道衛星を使って、彼らが開発した機械のテストも実施しており、順調に機能していると語っている。
研究チームの検出器は、特別な状況下の半導体チップで発生する「なだれ降伏(アヴァランシェ・ブレークダウン)」と呼ばれる現象を利用する。シリコンなどの半導体は、電界の作用で自由電子と正孔が物質の結晶格子内を移動することで導電する。
通常の状態では、電荷を運ぶ自由電子と正孔は格子に束縛されているため移動できない。そのような状態の物質は絶縁体として機能する。
しかし、結晶に熱を当てたり光を当てたりすることで電子が解放されると、電子は物質の結晶配列内を移動して電流を生成する。このような状態では、物質は …
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