KADOKAWA Technology Review
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CIAが人材確保でシリコンバレー対抗策、知財収入で年収2倍に
CIA
CIA’s new tech recruiting pitch: More patents, more profits

CIAが人材確保でシリコンバレー対抗策、知財収入で年収2倍に

優秀な人材の確保に悩むCIAがシリコンバレーに対抗する新たな戦略を発表した。開発した技術を特許申請し、知財から得られる利益の一部を職員に分配するという。 by Patrick Howell O'Neill2020.10.07

米国で最も有名な諜報機関には、とても勝ち目のない「シリコンバレー」という大きな競争相手がいる。

米国中央情報局(CIA)は長らく、最先端技術を研究、開発し、実現する場所であり続けてきた。そして現在も、CIAには人工知能(AI)やバイオテクノロジーといった分野をリードしていきたい考えがある。とはいえ、これらの分野で才能ある人材を確保し、維持していくのはさまざまな面で困難を伴う。特に、諜報機関であるCIAは、年収や名声、知財といった面でシリコンバレーにかなわないからだ。

こうした状況を打破するためにCIAが打ち出したのが、新しい最先端技術開発チームである「CIAラボ(CIALabs)」だ。CIAラボは、働き手にインセンティブを与えることにより、技術的な才能を持った人材の確保および維持を目指す。9月21日に発表されたこの新たな戦略により、CIA職員は取り組んでいる知財特許を初めて公に申請し、そこから得られた利益の一部を受け取れるようになる。残りの利益はCIAの取り分となる。CIAのドーン・メイヤーリエックス科学技術本部長は、理想的なシナリオでは、CIAの研究開発部門は自前で予算を賄えるようになると述べる。

メイヤーリエックス科学技術本部長は、「CIAラボは特に技術的な観点から見て、米国の優位性の維持に役立つものです」と述べる。「これは、国家および経済の安全保障にとって非常に重要です。また、地球上の誰もがテクノロジーを利用できるように底上げすることで、先端技術を民主化します」。

CIAが、自ら開発に関わった技術の商業化に動くのはこれが初めてではない。CIAはすでに自前のベンチャーキャピタルであるインクテル(In-Q-Tel)を運営している。インクテルは、グーグル・アースの基幹技術を提供しているキーホール(Keyhole)をはじめとする複数の企業を支援している。メイヤーリエックス科学技術本部長は、CIAは同じ目標を持つ他の多様なベンチャーキャピタリストとも関係を維持していくと述べた。

さらにCIAは、民間セクターや学術機関では難しい、基礎研究や高コストな研究開発に取り組むため、情報高等研究開発活動(Intelligence Advanced Research Projects Activity:IARPA)をはじめとする他の政府機関とも緊密に連携している。CIAラボは、より多くの科学者や技術者の確保および維持に的を絞り、学術機関や産業界の研究パートナーになろうとしている点で、これまでのCIAの活動とは異なる。

CIAラボで新たな技術を開発した職員は特許やライセンスを申請し、発明の総収入の15%を、年間15万ドルを上限として受け取れるようになる。CIAにおいては大半のケースで年収が2倍になり、シリコンバレーとの競争力向上につながる可能性がある。

CIAラボは、AI、データ分析、バイオテクノロジー、新材料、高性能量子コンピューティングなどの分野に注目している。

メイヤーリエックス科学技術本部長によると、CIAに差し迫った直面の課題の1つとして、収集するデータ量に圧倒されていることが挙げられるという。例えば、ドローンに搭載されているさまざまな種類のセンサーは、1秒間に数え切れないほどのデータを収集している。CIAは、比較的小型で低消費電力のセンサーに大規模な計算能力を持たせたいと考えている。そうすれば、収集したデータをデバイス上ですばやく整理してから中央システムに送信できるようになるからだ。

当然ながら、CIAが長きにわたって米国の権力の根本を支えてきたことを考えると、新たな技術を開発するという取り組みは、必然的にそれがどう利用されるのかという疑問にぶつかることになる。もちろん、CIAが発明した技術の中でも、議論にならないものもある。メイヤーリエックス科学技術本部長が例として挙げたのは、今では広く利用されているリチウムイオン電池だ。CIAは冷戦中、革新的な電源としてリチウムイオン電池の開発に貢献したという。だが、9.11以降、対テロ戦争の時代になると、CIAは違法性が指摘されているにもかかわらず、暗殺を技術的に可能にするドローン技術の開発に資金を投じている。

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