「足りないのは、信頼」
100万ドルのAI賞受賞者
バージレイ教授が語ったこと
米人工知能学会(AAAI)の「スクワールAIアワード」の初代受賞者として、MITのレジーナ・バージレイ教授が選ばれた。2014年に乳がんを患ってから、がんの検知と新薬開発のための機械学習アルゴリズムを専門に取り組んでいる同教授に、AIへの期待と課題について聞いた。 by Will Douglas Heaven2020.10.01
マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータ科学・人工知能研究所(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory:CSAIL)のレジーナ・バージレイ教授が、人工知能(AI)分野における特に優れた研究を表彰する米人工知能学会(AAAI)の新しい賞「人類の利益に貢献するAIのためのスクワールAIアワード(Squirrel AI Award for Artificial Intelligence for the Benefit of Humanity)」の初代受賞者に決まった。バージレイ教授のキャリアは自然言語処理(NLP)から始まった。2014年に乳がんを患った同教授は、がんの検知と新薬開発のための機械学習アルゴリズムを専門に取り組むようになった。
授賞式は2021年2月に実施される。同アワード受賞者に贈られる100万ドルの賞金(ノーベル賞や、コンピューター科学分野におけるチューリング賞に匹敵する)は、中国のオンライン教育企業「スクワールAI(Squirrel AI)」が提供した。
今回の受賞、そしてAIへの期待と課題について、バージレイ教授に電話で話を聞いた。
※以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にするため、要約・編集されている。
◆◆◆
——受賞おめでとうございます。今回の受賞は、あなた自身、そしてAI全般にとってどんな意味がありますか?
ありがとうございます。いまだにAIが従来の仕組みを変えられていない分野は数多くありますが、それを変えられる可能性があります。私たちは機械翻訳やレコメンド・システムをいつも利用していますが、これらを突飛なテクノロジーだと考える人はいませんし、当たり前のように受け入れています。
しかし、保健医療をはじめとする、人々が幸福な生活を送るためには欠かせない分野において、AIは社会的に受け入れられていません。今回の賞とそれに付随する注目の高まりによって、人々の考え方が変わってAIの可能性を理解してもらえるようになり、AIコミュニティが次のステップに進む後押しとなることを期待しています。
——次のステップとはどういったものですか?
蒸気から電気への移行期において、初期の段階では電気を産業に持ち込む試みはあまりうまくいきませんでした。なぜなら、単純に蒸気エンジンのコピーを作ろうとしていたからです。現在、AIでも同じようなことが起こっていると思っています。医療だけでなく、教育、材料設計、都市計画など、さまざまな分野にAIをどう組み込んでいくかということに取り組む必要があります。当然ながら、より良いアルゴリズムの構築をはじめ、テクノロジー側でも改善すべき点はあります。しかし、厳しい規制が敷かれた環境にAIテクノロジーを持ち込もうとしている中で、私たちはどのようにして持ち込むかについて真剣に考えては来なかったのです。
現在AIが盛況なのは、失敗のコストが非常に低い分野です。グーグルが誤った翻訳やリンクを提示しても、さほど問題にはなりません。別の方法を試せばいいからです。しかし、医師の場合はそうはいきません。患者の治療や診断を誤れば、深刻な問題が起こるでしょう。実際のところ多くのアルゴリズムは、さまざまな物事において人間よりも優れた仕事をができます。し …
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