KADOKAWA Technology Review
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AI研究者はそろそろ
「見えない労働者」問題に
向き合うべきだ
SAIPH SAVAGE
人工知能(AI) Insider Online限定
AI needs to face up to its invisible worker problem

AI研究者はそろそろ
「見えない労働者」問題に
向き合うべきだ

最近の人工知能(AI)の華々しい成果の背後には、米国の最低賃金にも満たない賃金で、機械学習モデルに入力するデータのラベル付けなどの作業を請け負うギグワーカーたちの存在がある。こうした「見えない労働者」の現状について、ウェストバージニア大学のサイフ・サベージ博士に話を聞いた。 by Will Douglas Heaven2020.12.24

最も成功し、最も広く使われている機械学習モデルは、その多くが何千人という低賃金のギグワーカーの助けを借りて訓練されている。世界中で、何百万人という労働者が、アマゾンのメカニカル・タークといったプラットフォームから収入を得ている。このようなプラットフォームのおかげで、企業や研究者は、オンラインのクラウドワーカーにこまごまとした作業を外注できるのだ。ある推計によると、米国だけでも100万人以上の人々が、毎月こうしたプラットフォーム上に掲載された仕事をして収入を得ており、約25万人が、この方法で収入の少なくとも4分の3を稼いでいるという。だが、世界でも指折りに裕福なAI研究所のために作業を請け負っている労働者も多いというのに、こうしたギグワーカーに支払われる賃金は最低賃金以下であり、労働者がスキルを磨ける機会も皆無だ。

サイフ・サベージは、ウェストバージニア大学ヒューマン・コンピューター・インタラクション研究所の所長を務めている。サベージ所長の専門分野はシビックテック(市民自身がテクノロジーを活用して社会的な課題を解決する取り組み)で、デマ対策やギグワーカーの労働条件改善支援といった課題に力を入れている。サベージ所長は12月6日 ~12月12日に開催された世界最大級の人工知能(AI)カンファレンス「神経情報処理システム(NeurIPS:Neural Information Processing Systems)」で「AI分野における見えない労働力にとっての仕事の未来」と題して招待講演をした。その前日、MITテクノロジーレビューはズーム(ZOOM)でサベージ所長にインタビューを実施した。

※以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にするため、要約・編集されている。

◆◆◆

——AI分野における見えない労働者は、どんな種類の仕事をしているのですか?

データのラベル付け作業が多いです。特に画像データが多いですね。ラベルが付けられたデータを教師あり機械学習モデルに入力することで、AIは世界についてもっとよく理解できるようになるのです。ほかには、音声の書き起こしといった作業も多いです。例えば、あなたがアマゾンのアレクサに話しかけるとしましょう。そんなあなたの言葉を、労働者が文字に一つひとつ書き起こしているかもしれません。そうした作業のおかげで、音声認識アルゴリズムは、人が何を言っているかをよりよく理解できるようになるのです。ウェストバージニア州の田舎でクラウドワークの仕事をしている人たちに会って話を聞いたことがあります。こうした人たちはアマゾンに雇われ、多数の会話を読み上げる仕事をしています。アレクサがその地域の人の話し方を理解できるようにするためです。また、ヘイトスピーチやペドフィリアだらけのWebサイトにラベルを付ける作業に雇われている人もいます。こうした作業のおかげで、グーグルやビング(Bing)で画像を検索しても、そうした情報を目にせずに済んでいるのです。

こうした作業をする人たちは、アマゾンのメカニカル・タークなどのプラットフォームで雇われています。大きなテック企業の中には、メカニカル・タークの社内版のようなプラットフォームを使っている所もあります。例えばフェイスブックやマイクロソフトは、独自のプラットフォームを持っています。両者の違いは、メカニカル・タークは誰でも利用できるということです。研究者やスタートアップは、コンセントに差し込んだら電力を得られるのと同じように、こうしたプラットフォームに接続することで、見えない労働力を利用できるのです。

——見えない労働者たちは、どんな問題を抱えているのでしょうか?

私はクラウドワークは必ずしも悪いことだとは思っていません。もしろ、良いアイデアだと思っています。クラウドワークのおかげで、企業は …

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