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「ディープ」よりも厄介だった2020年の「チープ」フェイク問題
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Don’t underestimate the cheapfake

「ディープ」よりも厄介だった2020年の「チープ」フェイク問題

2020年は米大統領選挙におけるディープフェイクの氾濫が大きく懸念されていた。だが、この1年を振り返ると、むしろ問題になったのは、「チープフェイク」画像があらゆる場面で拡散され、メディアに対する人々の信頼を揺るがしたことだ。 by Nina Schick2020.12.31

11月30日、中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は、自身のツイッターのプロフィールに1枚の画像を貼りつけた。その画像には、オーストラリアの国旗の上に立ち、少年の喉元に血まみれのナイフを突きつけ、狂喜にまみれた笑みを浮かべている兵士の姿があった。少年は顔を半透明のベールで覆われ、子羊を抱えている。この画像とともに、趙報道官は「オーストラリアの兵士による、アフガニスタンの民間人や捕虜の殺害に衝撃を受けました。我々はこのような行為を強く非難し、責任を負わせるよう求めます」というコメントを投稿した。

趙報道官の投稿は、オーストラリア国防軍による最近の発表に関連したものだ。発表では、2009年から2013年にかけて、オーストラリア軍兵士25人がアフガニスタンの民間人や捕虜合わせて39人の殺害に関与していたことを裏づける「信頼できる情報」があるとしている。画像には、オーストラリア軍の兵士が罪のないアフガニスタンの子どもの喉を切り裂こうとしていることを示そうという趣旨が見てとれる。世界を騒がせる画像だ。

ただし、画像がねつ造されたものであることを除けば、それほど騒ぐことでもない。よく見れば画像に説得力はなく、フォトショップの初心者が作ったようなものだからだ。これが、いわゆる「チープフェイク」と呼ばれる画像だ。チープフェイクは、その名のとおり粗雑に操作・編集され、虚偽のラベルが貼られた上で、不適切なコンテキストで使われる。デマを広める目的で世に送り出されるメディア(静止画や動画)のことだ。

チープフェイクは今や、国際的な大事件の中心になった。オーストラリアのスコット・モリソン首相は、中国は「まったくもって恥を知るべき」と述べ、「不快な」画像を拡散したことに謝罪を要求した。中国政府は謝罪を拒否し、逆にオーストラリアを「野蛮」と呼び、オーストラリア軍によるアフガニスタンでの戦争犯罪疑惑から「世間の目をそらそうとしている」と非難している。

この事件から、政治的な重要な教訓を2つ導き出せる。1つは、中国政府が、自国の外交官が欧米のオンライン・プラットフォーム上でチープフェイクを使って行なった、積極的なデマ拡散を容認したことだ。中国は従来こうした事柄に対し、慎重な姿勢をとってきた。中国は良心的で責任ある超大国だ、とアピールしたい意図があるからだ。今回のこの新しいアプローチは、中国がこれまでの姿勢の変更を示すものとして重要な出発点になる。

だが、より広い視点で見ると、この小競り合いは、政治的手段としての視覚的デマ(偽動画・偽画像)の重要性が高まっていることを示している、というのが2つめの政治的教訓だ。この10年の間に、操作されたメディアはますます広がりを見せ、これが政治的現実を作り変えるようになった(例えば、チープフェイクがミャンマーのロヒンギャ・イスラム教徒大量虐殺を後押ししたり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関するデマを広めたことを考えてみるといい)。世界の超大国がソーシャルメディア上でチープフェイクを公然と共有するようになった今、高度になるばかりの視覚的デマを大国(あるいはその他の国)が戦略的に展開しないようにするには、どうすればよいのだろうか。

ジャーナリストや科学技術者は、もう何年も「ディープフェイク」の危険性について警告してきた。大まかにディープフェイクを説明すると、ディープフェイクは人工知能(AI)によって操作または作成された「合成メディア」の1種だ。つまり、ディープフェイクはチープフェイクの「より優れた」後継者であると理解してもよい。

テクノロジーの進歩により、視覚的デマの質が向上し、同時に、そうしたデマを誰でも簡単に作れるようになった。スマートフォンのアプリを使ってディープフェイクを作成できるようになったことから、高度な視覚的デマをほぼ誰でも、ほぼ無料で作成できるようになったのだ。

空振りだった警告

ディープフェ …

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