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脳への理解なくして
真の人工「知能」は作れない
ジェフ・ホーキンス
Patrick T Powers
人工知能(AI) Insider Online限定
“We'll never have true AI without first understanding the brain”

脳への理解なくして
真の人工「知能」は作れない
ジェフ・ホーキンス

「パームの父」として知られる神経科学者でテック起業家のジェフ・ホーキンスは、現在の人工知能(AI)に疑問を持っている。40年近くにわたって神経科学とAIの2つの世界を行き来してきたホーキンスは、知能の仕組みを解明したといい、世界中のAI研究者に議論を呼びかけている。 by Will Douglas Heaven2021.04.08

人工知能(AI)の探究は常に、少なくともある意味では、考える機械を作ることを目指してきた。しかし、人工知能と生物学的知能がどの程度似通ったものであるべきかという問題については、何十年にもわたって意見が分かれている。AI構築の初期の取り組みでは、人間の思考法に大まかな着想を得た意思決定プロセスと情報記憶システムが含まれていた。現在の多層ニューラルネットワークは、相互に接続されたニューロンが脳内で発火する仕組みに大まかな着想を得ている。しかし、大まかな着想とは、一般的にそこまでのものでしかない。

AIに関わる大半の人々は細部にあまり関心がない、と語るのは、神経科学者でテック起業家のジェフ・ホーキンスだ。ホーキンスは、そうした状況を変えたいと思っている。40年近くにわたって神経科学とAIの2つの世界を行き来してきたホーキンスは、インテルのソフトウェア・エンジニアとして数年間働いた後、知能の仕組みを理解したいと考え、1986年にカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)で神経科学の博士課程に進んだ。しかし、そのような大局的な研究課題を指導できる人はいないと知らされ、ホーキンスの野心は壁に突き当たった。失望した彼は、バークレーからシリコンバレーへと活動の場を移し、1992年にパーム・コンピューティング(Palm Computing)を設立した。その会社で、現在のスマートフォンの先駆けとなるパームパイロット(PalmPilot)を開発した。

しかし、脳に対するホーキンスの興味は消えることがなかった。15年後、彼は神経科学に立ち返り、レッドウッド神経科学研究所(Redwood Center for Theoretical Neuroscience、現在はUCバークレー内にある)を設立した。現在はシリコンバレーを拠点に神経科学を研究する企業、ヌメンタ(Numenta)を経営している。ホーキンスと彼のチームは、知能に関連づけられるもののすべてをつかさどる新皮質という脳の部位を研究している。この数年間でいくつものブレークスルーを成し遂げたヌメンタは、生物学的知能で学んだことを機械へ応用するため、脳からAIへと焦点を移した。

ホーキンスのアイデアは、アンドリュー・エンらAI分野の著名人に影響を与え、各方面から称賛を集めている。3月2日に出版されたホーキンスの新しい著作『A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence(千の脳:知能の新原理)』(未邦訳)に、熱のこもった序文を寄せている英国の進化生物・動物行動学者、リチャード・ドーキンス博士もその1人だ。

ホーキンスへのロング・インタビューでは、人間の脳に対する研究成果がマシン・インテリジェンスに何をもたらすかについて話してもらった。すべての答えを持っていると主張するシリコンバレーの起業家はホーキンスだけではないし、彼が導き出した結論に誰もが同意することもないだろう。しかし、ホーキンスのアイデアは、AIを大きく変える可能性を秘めている。

なお、以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にするため、要約・編集されている。

◆◆◆

——現在、AIが間違った方向に進んでいると考える理由は何ですか?

複雑な質問ですね。私は、現在のAIを批評する人間ではありません。現在のAIはすばらしいと思いますし、便利な存在です。でも、それが「知能」だとは思いません。

私の主な関心は脳にあります。私は数十年前、脳に夢中になりました。AIを作るようになる前から、長年にわたってある考えを抱いてきました。それは、何よりも先に、知能とは実際にどのようなものなのかを解明するべきだということです。そのための最善の方法が、脳を研究することなのです。

1980年ごろ、AIへのアプローチが真の知能につながることはないと感じました。そして、AIに関するあらゆるフェーズでも同じように感じました。それらは私にとって、新しいものではなかったのです。

深層学習の最近の進歩は劇的ですし、印象的ではありますが、根本的に何かが欠けているという事実を払拭するものではありません。私は、知能とは何かということを知っていると思っています。脳が知能を働かせるメカニズムについても知っているつもりです。AIは、脳がやっていることをしていません。

——AIを構築するには、何かしらの方法で脳を再現する必要があるということですか?

いいえ、脳の直接的なコピーを作ることではないと思います。脳のエミュレーションにはまったく関心がありません。しかし、似たような原理に従って動作するマシンを構築する必要はあります。我々の目の前にある知能システム(intelligent systems)の唯一の見本は生物学的システムです。それを研究しない理由はありませんよね?

例えば、私があなたにコンピューターを初めて見せて、あなたは「すごい! こんなものを作りたい」と言ったとしましょう。にもかかわらず、そのコンピューターの仕組みを理解し …

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