過熱するNFTブーム、
最後に笑うのは誰か?
ブロックチェーン技術を利用してアーティストのデジタル作品などに資産価値を与える「NFT(非代替性トークン)」が注目されている。だが、NFTは本当にアーティストに利益をもたらすのだろうか、それとも、裕福な暗号通貨保有者をさらに裕福にするだけなのだろうか。 by Abby Ohlheiser2021.03.30
アンナ・ ポデッドウォルナがNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を知ったのは、1カ月ほど前にアーティスト仲間が彼女のインスタグラムに勧誘のメッセージを送ってきた時だった。まるでねずみ講の誘いのようで、ポデッドウォルナは非常に不快に感じたが、この友人が善意で送ってくれたものだと考えることにした。NFTとは基本的に、アート作品を含む暗号通貨対応のあらゆる種類のデジタル資産を売買する方法である。ポデッドウォナはコンセプトアーティストであり、イラストレーターでもあるため、NFTに興味を持ってもよかったのかもしれない。「友人は、考えられる中で最も残念な言い方をしただけだったのです」と彼女は言う。
ポデッドウォルナはビデオゲーム会社に雇われてプロジェクトに取り組んでおり、収入のほとんどはそこから得ている。だが、副業として自分のアート作品も制作している。そのため、ポデッドウォルナは、NFTに対する当初の印象をよそに、NFTで何らかの代替的な収入が得られるのかどうかを調べ始めた。
ポデッドウォルナは未だに態度を決めかねているが、先週、誰かが彼女の代わりに意思決定を試みた。Web上のほぼすべての場所のURLをデジタルトレーディングカードのように販売するNFTのマーケットプレイス「マーブル・カーズ(Marble Cards)」で突然、ポデッドウォルナの作品へのリンクのリストが表示されるようになったのだ。このようなNFTは、必ずしも作品そのものを売ろうとしているわけではないが、エントリーにはポデッドウォルナの作品と名前が大きく掲載されており、あたかも彼女が許可したかのような印象を与えていた。だが、ポデッドウォルナがその件についてツイートすると、間もなく削除された。
https://twitter.com/_akreon_/status/1371598538828832768
NFTは今や、インターネット上でクリエイターとして生計を立てている人にとって、避けて通れないテーマとなっており、暗号通貨やブロックチェーン技術の専門用語にまみれた概念を理解しようとする動きが活発化している。NFTは、名声の民主化を図り、クリエイターが自分の運命をコントロールできるようにするデジタル革命の一部であると期待する者もいる。また一方では、暗号通貨による環境への影響を指摘する者もいれば、デジタルアーティストであるビープル(Beeple)の作品集のJPGデータがクリスティーズのオークションで6900万ドルで落札されたというニュースを見て、非現実的な期待を抱く者もいる。
NFTに対する世間の関心の高まりは、「価値ある」デジタルアートの定義を変えつつある。だが、同時に、昔からアーティストを悩ませてきた、紛らわしい誇大広告や、金持ちコレクターの気まぐれ、盗用といった問題を再び引き起こしている。デジタルアーティストはすでに、作品を盗用してユーザー手作りのTシャツショップで商品として販売する違法行為などと戦っている。NFTが注目されることで、アーティストがチェックしなければならないことが増えてしまっただけのことだ。
現在高まっている関心が消えないうちにNFTの分野に参入したいのであれば、実務面、物流面、そして倫理面での難問を解決する必要がある。自身のデジタル作品を、親しみやすく熱心な新しい購買層に向けて、収益性の高い商品として提供するアーティストもいるが、その背景にはある疑問が浮上してくる。NFTブームはデジタルアーティストに利益をもたらしているのだろうか。それとも、アーティストは、裕福な暗号通貨保有者をさらに裕福にする手助けをしているだけなのだろうか。
「あの感覚はすばらしいです」
ロサンゼルス在住のフォトグラファー兼アニメーターのエリー・プリッツは、数カ月前に「ファウンデーション(Foundation)」という招待制のNFTマーケットプレイスの創業者であるケイボン・ テラニアンとの会話でNFTを知った。彼女は別のアーティストから、同サイトのデジタルプリント事業に勧誘されたが、その後、 テラニアンと話をしている中で、NFT販売に言及されたのだった。
「私には理解できないことばかりですが、とても面白そうだと思いました」とプリッツは言う。「あまり情報がなかったのですが、興味を持ったのです。実は、テラニアンこそが私にNFTについて教えてくれた人だったのです」。
NFTはブロックチェーンの一部である一意のデータであり、ブロックチェーン対応の通貨で売買される。我々がよく耳にするNFTの大半は、イーサリアム(Ethereum)に対応している。
イーサリアムを知らない人も、おそらくビットコインについては耳にしたことがあるのではないだろうか。両者はアイデアは同じだが、異なるブロックチェーンを使用している。ビットコインは主に換金を目的とするが、イーサリアムは資産の交換に適している。理論上はどんなブロックチェーンでもNFTを実現できるが、イーサリアムのブロックチェーンはNFT向けに設計されている。多様なオンラインマーケットプレイスで売られており、ユーザーはデジタルなものと交換するためにNFTを「鋳造」、つまり作成できる。
NFTは作品自体の所有を意味するものではない。むしろ、メタデータを購入することで、自慢できる権利を得ることができ、さらに多くの場合、そのNFTを後でより高く売る機会を得られるのだ。
こうした考えは、やっかいであり、多少違和感がある。プリッツは、2月に初めてNFTを鋳造して販売するまでは …
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
- Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません