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太陽圏の境界示す三次元地図、IBEXのデータから作成
Werner Heil / NASA
New research maps the boundary of Earth’s heliosphere

太陽圏の境界示す三次元地図、IBEXのデータから作成

太陽圏観測衛星「IBEX」のデータを使用して新たに作成された、太陽圏の三次元全体地図が発表された。太陽圏は、宇宙から飛来する有害な放射線から地球を保護するシールドの役割を果たしており、その構造を博することは実用目的にも役立つ。 by Tatyana Woodall2021.07.14

天文学者たちは2009年、米国航空宇宙局(NASA)の太陽圏観測衛星「インターステラー・バウンダリー・エクスプローラー(IBEX:Interstellar Boundary Explorer)」を使用して、太陽系と星間空間の間を漂う奇妙なリボン状の構造を見つけた。

このリボンは望遠鏡でも肉眼でも見ることができず、IBEXによる発見は、太陽圏(ヘリオスフィア。太陽風で形成された泡のようなシールドを指す)の詳細を理解するための初の試みの一つとなった。

2021年6月発行の学術誌アストロフィジカル・ジャーナル(Astrophysical Journal)に発表された新たな研究で、太陽圏の全体的な境界の地図が示された。集められたデータは、太陽物理学研究の新時代の導き手として活用されるだろう。

「宇宙空間の粒子を検出する装置のほとんどは荷電粒子を検出しています」と、ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所の上級科学者であり、この研究論文の筆頭著者であるダニエル・ライゼンフェルド博士は言う。しかしIBEXは独特だ。

IBEXは高エネルギーの中性原子(ENA:Energetic Neutral Atoms)を検出できる。これは元々太陽から放出されたイオンが、星間電子と衝突して電気的に中性になったものだ。このような原子は宇宙のいたるところで発見できるので、ENAの流束を時系列的に観測することは強力なイメージングツールとなり得る。

IBEXが発見した謎めいたリボンの正体は何だったのだろうか。その後の研究で科学者たちは、そのリボンが夜空を照らし出すENAの巨大な帯であることを見い出した。

IBEXが収集したENAのデータは太陽磁場が変化する11年周期のちょうど1周期分に当たる。研究チームはこのデータを利用して、地球や他の惑星を有害な放射線から守るシールドになっている太陽圏の三次元全体地図を作り上げた。

「地球は宇宙線や銀河宇宙線から常に空爆を受けています」とライゼンフェルド博士は語る。こうした放射線は、ヨーロッパやアジアと米国間の旅行でしばしば南極や北極の付近を飛行する航空機に、わずかながら影響を与える場合がある。

他の恒星において太陽圏に該当するものはアストロスフィアと呼ばれる。他の惑星のアストロスフィアを研究するには、まず太陽圏を理解する必要があると研究者らは言う。

「今まさに発展中の物理モデルの多くがIBEXミッションの発見に基づいています」と話すのは、アラバマ大学ハンツビル校のニコライ・ポゴレロフ教授(宇宙科学)だ。ポゴレロフ教授は、「観測目的だけではなく、実用目的にも利用されるでしょう」と付け加える。

ライゼンフェルド博士の地図は太陽圏の正確なモデルというわけではないが、太陽に関連する他のミッションの起点となるだろう。現在、NASAのマーシャル宇宙飛行センターでは宇宙船「ソーラー・クルーザー(Solar Cruiser)」の計画を作成しており、2025年中に「IMAP(Interstellar Mapping and Acceleration Probe)」ミッションでの打ち上げが期待されている。

太陽の軌道上を周回する宇宙探査機「ソーラー・オービター(Solar Orbiter、2020年2月に打ち上げられた太陽観測衛星)」からの画像で地図をすでに作成している科学者たちもいる。だが、ソーラー・オービターの目標の1つは、宇宙の天気を予測するだけでなく、太陽の極の上空に停止し、IBEXが成し遂げたのと同じように、次の10年間に渡って三次元地図を作成できるようにすることだ。

NASAの太陽物理学部門のプログラム科学者であるロシャナク・ハキムザデ博士によると、ソーラー・オービターは、太陽の回転運動やコロナ質量放出の詳細を知るために役立つだろうという。コロナ質量放出は太陽表面での強力なプラズマの噴出で、CME(Coronal Mass Ejection)とも呼ばれる。

一方で、ソーラー・クルーザーは、液体水素と水素ガスを組み合わせて進む従来の宇宙船と異なり、ソーラーセイル(太陽帆)・テクノロジーを利用する。IMAPから切り離された後は太陽光の輻射圧を使って宇宙空間を進む。帆の面積は1700平方メートルで、これまでの中で最大となる。

「私たちは、宇宙探査をより実行可能で経済的なものにしようとしています」と、アラバマ大学の宇宙力学および宇宙調査研究所所長のロハン・スード助教授は言う。

スード助教授のチームはマーシャル宇宙飛行センターと共同で、ソーラー・クルーザーの軌道設計に注力している。地球と太陽の間で重力が互いに打ち消し合う地点であるL1ラグランジュ点の付近に配置して太陽を観測する予定だ。

今後の太陽関連のミッションが、宇宙全体に対する人類の理解をさらに深めてくれるかどうかは依然として議論の余地がある。しかしスード助教授は、太陽系がどのように進化を続けているかに関する重要なヒントが得られるだろうと述べている。

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MITテクノロジーレビューの新進ジャーナリスト・フェローとして、宇宙、生命工学、AI分野の取材を担当。MITテクノロジーレビューに参加する以前は、ニューヨーク・タイムズ学生ジャーナリズム研究所での執筆、WOSU-NPRでのラジオ番組制作などを経験。大学新聞の編集長として、スポーツ文化からメンタルヘルスまで幅広く取材した。
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