KADOKAWA Technology Review
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「韓国のアマゾン」、自慢の爆速配送を支える労働環境の闇
Coupang, LLC
ビジネス・インパクト Insider Online限定
This company delivers packages faster than Amazon, but workers pay the price

「韓国のアマゾン」、自慢の爆速配送を支える労働環境の闇

ほぼすべての注文が24時間以内に届くと謳う韓国の電子商取引大手クーパン(Coupang)が驚異的な成長を遂げている。だが、その華々しい成功は、労働者の犠牲の上に成り立っている。 by Max S. Kim2021.08.19

2020年10月12日の早朝、27歳のチャン・ドクジュンは、韓国の電子商取引大手 クーパン(Coupang)での夜勤を終えて帰宅し、すぐにお風呂に飛び込んだ。チャンは、南部の都市、 大邱(テグ) にある同社の 倉庫で1年ちょっと働いていた。仕事は、配送拠点に出荷する商品をいっぱいに詰めたクレートの運搬である。浴室から1時間半以上も出てこないことが気になった父親がドアを開け、お風呂の中で意識を失っていたチャンを発見した。チャンは腕を胸でぎゅっと抱きしめるようにして体を丸めていた。急いで病院に運んだものの、脈拍と呼吸がなく、医師により午前9時9分に死亡が確認された。検視官の判断による死因は、心臓発作だった。

私がこの話に注目したのは、チャンが、2020年に亡くなった3人目のクーパンの労働者だったからである。同社の成功の本質については懸念の声が高まっているが、チャンの死はその懸念をますます深めることとなった。しかも、クーパンは驚異的な成功を遂げている企業である。わずか数年の間に、韓国企業で雇用数3位の企業と成長した。倉庫の広大なネットワーク、3万7000人の従業員、ドライバー部隊、一連の人工知能(AI)ツールを活用し、競争の激しい韓国の電子商取引市場で圧倒的な地位を築いたのである。クーパンは韓国なら国中どこにでも存在する。国民の半数が同社のアプリをダウンロードしており、その「ロケット配送」サービス(注文の99.3%が24時間以内に届くと同社は謳っている)により、「アマゾンをも凌ぐ」という名声も得た。

AI利用によるクーパンの配送時間の短縮は、特に驚きに値する。なにしろ、同社独自のアルゴリズムが、配送トラックへの荷物の最も効率的な積み方からドライバー向けの正確なルートや配送の順番まで、すべて計算しているのだ。 倉庫では、 AIが購入を予測し、アウトバウンドの荷物の発送締切時間を計算する。この仕組みによりクーパンは、60セントのフェイスマスクから9000ドルのカメラに至る何百万個という商品について、すべて1日以内に届けると約束できるのである。こうしたイノベーションこそが、クーパンが自信満々で自社のことを「電子商取引の未来」と銘打っている理由であり、最近のNASDAQへの上場で840億ドルという評価を受けた原動力でもあった。840億ドルは、アジア企業による米国での新規公開株(IPO)としては、2014年のアリババ以来最大 である。

だが、クーパンで働く労働者にとって、こうしたイノベーションや効率性はどんな意味があるのだろうか?

それは、昨年の夏、チャンの死亡事件が起こる前から私が抱いていた疑問だった。その疑問は、クーパンの倉庫作業員や配達員たちに会ったときに湧き上がった。チャンは自分の母親に対し、労働者は「使い捨ての道具」のように扱われていると語っていたという。私が会った労働者は全員、クーパンのアルゴリズムによるイノベーションがもたらす非人間的な影響を経験していた。ある人は、猛烈ともいえる作業のペースについて語った。労働者は超人的な配達時間で配達するよう求められているからだ。仕事中にトイレに行くことすら難しいという人もいた。クーパンが同社のオンデマンド配送サービスである「ロケット配送」の提供を開始した2014年、クーパンは、最下層の労働者にも平均以上の福利厚生付きの安定したキャリアを約束していた。ところが、その途中のどこかで、労働者は、韓国の労働関係ジャーナリストであるキム・ハヨンが言うところの「AIの手足」とならざるを得なくなってしまったようだ。

こうした批判の多くが、アマゾンの労働条件について報告されていたことと酷似していたのも偶然ではない。クーパンは2010年にグルーポン(Groupon)のような割引プラットフォームとして設立されたが、2014年にアマゾン式の垂直統合型フルフィルメントモデルへと切り替わった。そして、「韓国のアマゾン」になると誓った。その過程で、クーパンはアマゾンとまったく同じ労働問題にぶち当たった。

過酷なオンデマンドの仕事

ロケット配送が機能しているのは、確実性のおかげだ。つまり、顧客のもとに時間通りに届けるためには。配送品がいつ倉庫を出なければならないかをクーパンのアルゴリズムが正確に決める、という約束である。同社の倉庫では、こうした発送締切時間が約2時間ごとにやってくる。

「働いてみてわかったのは、優先されているのが、ロケット配送の締切時間を守るということだけだったということです」と語るのは、元倉庫作業員のゴ・ゴンだ。「私たちはただのロボットでした」と言う。ゴは2020年5月、医療休暇を取ってクーパンの仕事を休んだ。締切時間に間に合うよう走っている最中に、左のハムストリングを断裂してしまったのだ。ゴはその後、解雇されてしまった。

アマゾンと同様に、クーパンでも「時間あたりのユニット(Unit-per-hour:UPH)」という指標を用いていた。従業員の生産性をリアルタイムに測定し、倉庫内の過酷なペースを維持するための指標である。労働者は公式には8時間のシフトごとに1時間の休憩時間(法律で定められた最低休憩時間である)が与えられるが、昨年9月に会ったあるドライバーが教えてくれたところでは、休憩時間も作業を続ける人がほとんどだという。さもないとスケジュールを守れないというのだ。このドライバーはもうクーパンでは働いていない。クーパンの広報担当者は、MITテクノロジーレビューに対する電子メールでの声明の中で、倉庫におけるUPH追跡は今はしていないと述べている。だが、最近話を聞いた現役の労働者によると、一部の倉庫管理者はいまだにこの方法で公然と作業効率を監視しているという。「UPH という言葉はほとんど使われなくなりました。ただ、遅すぎると怒鳴りつけられることは今でもあります。おそらく、何らかの具体的な証拠に基づいているのだと思います」。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が拡大するなか、クーパンは大きな利益を上げたが、効率性への過度な固執の犠牲者は増えるばかりとなった。2019年から2020年にかけて、クーパンとその倉庫で起こった労災事故は、それまでのほぼ2倍の982件となった。チャンの心臓発作による死亡事故以降も、さらに3人のク …

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