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What innovators need to do now for a decarbonized society

所 千晴教授:脱炭素社会へ向けてイノベーターに今求められること

SDGs(持続可能な開発目標)の達成やカーボンニュートラルの実現へ向けて需要が高まりつつあるのが、製品のリサイクルに必要な資源分離技術だ。早稲田大学と東京大学で、分離技術の研究を進める所 千晴教授に、研究の現状とイノベーターの条件を聞いた。 by Noriko Higo2021.08.27

MITテクノロジーレビューが主催する世界的なアワード「Innovators Under 35(イノベーターズ・アンダー35)」の日本版「Innovators Under 35 Japan」が、今年も開催される。8月31日まで、公式サイトで候補者の推薦および応募を受付中だ。

今年新設される「エネルギー/持続可能性」分野の審査員の1人を務めるのが、早稲田大学理工学術院/東京大学大学院工学系研究科の所 千晴教授だ。資源循環型社会の実現へ向けて、資源の分離技術の研究開発に取り組んでいる所教授に、研究の現状とイノベーションへの考えを聞いた。

◆◆◆

最適な方法を選んで、使用済み製品から資源を分離する

——所先生のご専門は資源循環(リサイクル)のための分離技術開発ですが、具体的にはどのような研究ですか。

所 千晴(Chiharu Tokoro)
早稲田大学理工学術院教授、東京大学大学院工学系研究科教授
1998年、早稲田大学理工学部卒業。2003年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)取得。早稲田大学助手、専任講師、准教授を経て、2015年より早稲田大学教授。また、東京大学生産技術研究所特任教授を経て、2021年より東京大学教授。早稲田大学ダイバーシティ推進室長。日本学術会議第三部会員、「学術の動向」編集委員長。化学工学会、粉体工学会、環境資源工学会、エコデザイン推進機構理事。JX金属株式会社社外取締役。JST未来社会創造事業研究代表。

資源をリサイクルするためには、使用済みの製品から資源になるものを分離して、バラバラにする必要があります。その際の最適な方法を研究しています。

対象によって、機械的にバラバラにする方法もあれば、電気や熱をかけてバラバラにする場合もあります。あるいは、薬剤をかけて取り外すということもあります。それぞれに合った方法を検討し、なるべく省エネルギーで、経済的に分離することを目指しています。対象に合わせた方法を取るので、知識としては物理も化学も使います。また、私たちは関わっていませんが、同じ分野の研究者の中には、バイオ技術を使って目的を達成しようと研究している人もいます。

ただし、大学は学術機関ですから、個々の製品から資源となるものをただ分離できればいいということではなく、「なぜそうなるのか」という機構解明も重視しています。機構をしっかり解き明かして、理論化した上で幅広く使える技術にしていくところまでが私たちの研究です。一般化することで、あらゆるものに応用できるようになり、技術が社会実装されて発展していくことに繋がると信じています。

——長年研究を続けていらっしゃいますが、この研究分野の「進化」について教えてください。

対象があまりに複雑なので、ピュアな化学や物理に比べるとどうしても現象論的になりがちで、学問的な進化という意味ではややゆっくりしている傾向はあるかもしれません。

ただ、今は高度な分析装置やシミュレーション技術があるので、だいぶ変わってきました。以前は、実験しても不安定で、なぜ毎回異なる結果になるのかわからないケースがありましたが、分析装置とシミュレーションを組み合わせることで、複雑な現象をパズルのように解明して、素反応に落とし込んで理解するということができるようになってきています。

太陽光パネルやリチウムイオン電池の分離技術に注力中

——資源循環のための分離技術開発は、現代社会でニーズの高い研究の一つだと思いますが、その中でも今、所先生が特に注力されていることはありますか。

おっしゃるように、SDGsやカーボンニュートラルは今盛んに言われていて、社会の要請は非常に強いですね。そういったところに直接貢献している製品、具体的には太陽光パネルやリチウムイオン電池のリサイクルには力を入れています。

社会全体で環境負荷の低減を目指していても、電気を作るには銅が必要ですし、リチウムイオンにはコバルトやニッケルといった特定の金属が必要になります。今後も資源の需要や消費が増えていく中で、特定の金属資源がいずれ足りなくなるのではないかと私は懸念しています。私だけではなく、世界中の懸念ですね。

だからこそ、限られた金属資源を循環利用することはとても重要になると考えています。金属資源の不足という問題が顕在化する前に、なんとかしたいと注力しているところです。

——分離技術の研究の「難しさ」はどこでしょうか。

一つは総合工学なので、幅広い知識が必要になる点ですね。もちろん、それは難しさではあるけれども、非常に面白いところでもあります。

もう一つは、これまではどうしても受け身にならざるを得なかった点です。今まで世の中の価値観は、すべて「安くて高機能の、他と差別化された製品を作る」というところにありました。リサイクルは、ゴミになってからそちらで考えてください、というスタンスが多かったんです。「どうしてこういう(リサイクルしづらい)製品を作るんだろう?」という疑問があっても、私たちは後追いで分離する方法を一生懸命考えるしかできませんでした。

ただ、製造する側は処理のことまで考えなくていい、という時代はそろそろ変わるのではないかと期待しています。

——製造側からの依頼で、所先生がリサイクルしやすい製品作りについてアドバイスされることもありますか。

幸いなことに、最近は製品を作る側の資源循環に対する意識が高まってきていて、相談を受ける機会は増えています。ただ、「こういう製品を作ったらリサイクルできますか?」という聞かれ方が多いですね。最初からリサイクルのしやすさを視野に入れて製品を作るところまでは、まだ至っていないというのが実感です。

——所先生が考える研究の「ゴール」について教えてください。

私たちが今進めている、太陽光パネルやリチウムイオン電池の分離技術については、この5年以内にきちんとした結果、つまり技術を含めたリサイクルのシステムを完成させたいと考えています。私たちの技術ありきではないですが、さまざまな技術がある中で、私たちの技術も一つの選択肢になればうれしいですね。

それによって新しい資源循環ループができて、省エネ型のリサイクルが現実性をもって実現するということが、研究の一つのゴールです。一方で、その5年の間に恐らくは処理しなければならない新しい対象が出てくるでしょう。そういった意味ではエンドレスかもしれません。

また、もう一つの「ゴール」は、さまざまな処理の方法を学術的に体系化することです。社会全体でリサイクルの機運がここまで高まっているので、私たちはこれまでの研究成果をできるだけ一般化して、製造側に伝えていかなければならないと考えています。

今はまだ、製造側に「これとこれをこうやって貼ったら、後でリサイクルできますか?」と聞かれたら、「やってみないとわからないですね」という状況です。そうではなくて、「これとこれなら、こういう力を加えれば外せます。でもこの素材は外せません」と情報提供できるようにするのがゴールだと考えています。こちらは、5〜10年くらいはかかりそうですが、でもできるだけ急がないといけないですね。

取材はオンラインで実施した。

社会の行動変容に対して科学ができること

——先生ご自身の研究以外で、関心を持っている社会の課題はありますか。

リサイクルとも関わってきますが、SDGsやカーボンニュートラルの流れが、この先どういう方向に進んでいくのかということに関心があります。昨年、国が2050年のカーボンニュートラルを打ち出したことで、どの企業も組織も競うように「カーボンニュートラル宣言」をしています。また、SDGsの目標達成は2030年です。

2030年くらいまでは再生可能エネルギーの活用などが具体的に考えられていると思いますが、その先となると技術的な見通しはついていない。新たなイノベーションへの期待はありますが、適正な方向に進むだろうか、どこかにひずみは出ないだろうかといったことを心配しています。

実は、エネルギーの世界では世の中がひっくり返るようなイノベーションは恐らくない、と私は考えているんです。今の技術開発の延長と複数の技術の組み合わせになるだろうと。それよりも、社会の行動変容のほうが影響は大きいかもしれません。イノベーションは、必ずしも技術の話だけではなくて、社会の価値観が変わって行動変容を促すことのほうが、よほど大きなイノベーションになるかもしれません。

——そうした社会の行動変容を促すために、科学が働きかけられることはあるでしょうか。

科学として、どこまではできてどこからはできないのかという上限・下限をきちんと示すことが、私たちの役割だと考えています。簡単なことではありませんが、それでもデータに基づいて示し続けなければいけない。そして、誤解なく認識してもらった上で、社会が上限・下限のどこを選ぶのか、あるいは上限・下限を超えるためにどんな行動を取るのかを選択するということなのでしょう。

3.11(東日本大震災)のときも、今回の新型コロナでも、科学がデータに基づいて上限・下限を示すことは非常に難しいと感じています。それでも、科学者はその努力を続けていかなければいけないですね。

自分の研究を社会にアピールした「Under 35」の時代

——今回、所先生には「Innovators Under 35 Japan」の審査員をお願いしていますが、先生ご自身の35歳当時について教えてください。

私は、31歳のときに早稲田大学で自分の研究室を持たせてもらいました。といっても、最初は机と椅子しかない状況で(笑)。理系ですから研究には装置を揃えなくてはならないし、実験には資金も必要です。また、資金を得るには自分の研究がどのように社会に役立つかのかをアピールしていかなくてはなりません。

30代前半から35歳の頃は、資金集めに走り回りながら、一方で毎年大量に入って来る学生を教育して、一緒に研究成果を出していくということに一生懸命でした。ただ、必要に迫られてですが、30代前半という早い段階で自分の研究を外に向かってわかってもらうための努力をしたことはよかった。研究の着想や発想、成果、それから人脈など、その当時積み上げていったもののすべてが今に繋がっていると思います。

——最後に、所先生が考える「イノベーター」の条件を教えてください。

まず、そこに正義感があること。誰もが納得する正義感。別の言葉で言い替えるなら、ミッションや使命感でしょうか。

新しいことに挑戦するときには、必ずいろいろな壁にぶつかります。それを乗り越えるには、「なぜ自分はこれに挑戦するのか」という根本に立ち返るはず。そのときにいちばん大事になるのが、確固たる正義感です。自分はこれで世の中をよくするんだ、これで世の中に役立ちたいんだという強い思い。みんなが共感する正義感がコンセプトとしてあって、それが求心力になると思います。

そして、その次に自分の強みだったり人脈だったり、幅広い知識、行動力といったものが必要になってくる。

私は、研究についても同じだと思っています。なぜこの研究をやるのか、この研究で世の中をどう変えたいのか。私自身、その気持ちの根底にはあるのは、やはり強い正義感だからです。

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肥後紀子 [Noriko Higo]日本版 フリーランスライター
ライター・編集者
日本発「世界を変える」35歳未満のイノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

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