KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
「脳」とコンピューターは
似ている?違う?
専門家に見解を聞いた
Getty
コンピューティング Insider Online限定
Is your brain a computer?

「脳」とコンピューターは
似ている?違う?
専門家に見解を聞いた

人間の脳を「コンピューターのようなもの」とみなすことはできるのだろうか? 長年、論争の種になってきたこの疑問について、複数の専門家に話を聞いた。 by Dan Falk2021.09.30

「脳=コンピューター」という比喩は、コンピューター時代の幕開けから存在する。機械に記号を処理させることで問題を解決できることが発見されて以来、脳とコンピューターのそれぞれ働きの類似性についてさまざまな議論があった。例えばアラン・チューリングは、機械が「思考する」には何が必要かを問いかけた。チューリングは1950年に、「2000年には『機械が思考すると言っても反論されることはなくなる』」という予測を記している。機械が人間の脳のように思考できるなら、脳の働きが機械に似ているのではないかと考えるのはごく自然なことだった。もちろん、脳の中のどろっとした物質とノートPCのCPUを見間違える人はいないだろうが、外見的な違いを超えた大きな類似点があるかもしれないという考えが示されたのだ。

量子時代のコンピューティング
この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介

それから長い年月が経った現在、専門家の意見は分かれている。人間の生物学的な脳が意識を生み出していることは誰もが認めている。しかし、脳とコンピューターに大きな類似性があると言われている情報処理について、それが何らかの役割を果たしているとしても、どのような役割なのかという点では意見が分かれている。

やや学術的に思えるかもしれない議論だが、実際には現実的な意味合いがある。人間と似た知能を持つ機械を作るなら、人間の脳が実際にどのように働き、どのように機械と似ているのか、あるいは似ていないのかを理解することが少なくともある程度は重要になる。もし、脳の働きがコンピューターとはまったく異なることが明らかになれば、従来の人工知能(AI)に対する多くのアプローチが疑問視されることになるだろう。

この議論はまた、人間の存在意義に対する私たちの感覚を形成するかもしれない。脳自体と、脳が可能にする意識が、類まれなものと考えられている限り、人類は自分たちを非常に特別な存在と考えるかもしれない。しかし、脳は単なる高度な計算機にすぎないと考えるならば、その幻想は打ち砕かれる可能性がある。

脳を「コンピューターのようなもの」と考えるべきだという意見に賛成または反対の理由を、複数の専門家に聞いた。

反対:脳は生物学的なものであり、コンピューターであるはずがない。

何十億年もの進化の過程で「設計」された脳の中身は、IBMやグーグルのエンジニアが開発したノートPCやスマホの中身とはまったく異なることは、誰もが認めるところだ。まず第一に、脳はアナログだ。脳内に存在する何十億個ものニューロンの振る舞いは、デジタルコンピューター内のデジタルスイッチや論理ゲートとはまったく異なる。英国マンチェスター大学生物医学健康学部の生物学者であるマシュー・コブ教授は、「ニューロンは単にオンとオフを切り替えるだけではないことは、1920年代から知られています」と語る。「刺激が増加すると、信号が増加します。刺激されたときのニューロンの振る舞いは、これまでに人類が開発したどのコンピューターとも異なります」 。

モントリオールにあるマギル大学の神経科学者/コンピューター科学者で、モントリオール神経研究所の准教授を務めるブレイク・リチャーズも同意見だ。脳は「すべてのことを離散間隔ではなく、連続時間の中で並列処理する」という。対照的に現在のデジタルコンピューターは、オリジナルのフォン・ノイマン型アーキテクチャーに基づいた非常に特殊な設計を採用している。そのようなコンピューターは主に、個別のメモリスロットに格納されている情報にアクセスしながら、メモリバンクに符号化された命令リストを一つ一つ順番に実行することで機能する。

「そのどれもが脳内で行なわれていることとは似ても似つかないものです」とリチャーズ准教授は言う。(それでも、脳は私たちを驚かせ続けている。一部の神経科学者は近年、個々のニューロンでさえ、コンピューター科学者が排他的論理和(XOR)と呼ぶものに匹敵するある種の計算ができると主張している)。

賛成:脳は「コンピューターのようなもの」とみなせる!実際の脳の構造は関係ない。

アーキテクチャ …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
  2. Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
  3. Space travel is dangerous. Could genetic testing and gene editing make it safer? 遺伝子編集が出発の条件に? 知られざる宇宙旅行のリスク
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る