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コンピューティングは
どこに向かうのか?
米国史から考える未来
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Where computing might go next

コンピューティングは
どこに向かうのか?
米国史から考える未来

コンピューティングが今後、どこに向かうのかを予測するには、テクノロジーの歴史を振り返るのが役に立つかもしれない。テクノロジーの進歩には常に人間が関与しており、コンピューティングの歴史は米国史のミニチュア版なのだ。 by Margaret O’Mara2021.11.16

コンピューティングの未来がわずかでも過去と似た道をたどるとすれば、その道を左右するのは、コンピューティングそのものとはほぼ無関係の事柄だろう。

テクノロジーは何もないところから降って湧くわけではない。テクノロジーの起源は、時間、場所、機会にある。島のように孤立した研究所など存在しない。機械の能力と制約を決定するのは、物理化学の法則だけではない。機械のテクノロジーを支援する者、テクノロジーを構築する者、テクノロジーが成長する場所にもよる。

コンピューティングを取り上げた一般書では、この分野の奇才や天才に焦点を当てて、独自の方法で運営される型破りな世界を描写するのが長年の通例になっている。シリコンバレーの推進者や支援者は、ガレージ・スタートアップや向こう見ずな資本家が活躍するイノベーションの地という神話を不朽のものにした。だが、現実は異なる。コンピューティングの歴史は、近代史、特に米国史のミニチュア版なのだ。

第二次世界大戦中に米国が核兵器などの武器の開発を空前の勢いで推進したことから、科学とテクノロジーに対する公的支出が急増した。その資金を利用した取り組みは、一世代のテクノロジストを養成し、1946年に完成した世界初の完全デジタルコンピューター「ENIAC(エニアック)」をはじめとする複数のコンピューティング・プロジェクトを発展させた。この資金の流れは最終的に、多くが永続的なものとなり、戦前には想像もつかなかった規模の基礎研究や応用研究の資金源となった。

冷戦の戦略的優先事項となったことから、鉄のカーテンの両側でトランジスターを利用したテクノロジーの開発が急ピッチで進められた。科学の進歩に対して楽観的な時代のさなかに核の優位性を高めるための熾烈な競争が繰り広げられ、政府はコンピューティングの最大の研究スポンサーかつ最大の単一の顧客となった。単科大学も総合大学も工学者や科学者を大量に輩出した。電子データ処理は、米国の「組織人間(Organization man)」の時代と、パンチカードによって構築され、分類された国家を特徴付けた。

特に、1957年10月にソ連がスプートニク衛星を打ち上げて米国を出し抜いた後には、宇宙開発競争によって北カリフォルニアののどかな農業地帯でシリコン半導体産業が急速に発展し、最終的にテック起業家の中心地は東海岸から西海岸へ移動した。白いワイシャツに細いネクタイを締めた細身で背の高いエンジニアたちが、米国人宇宙飛行士を月に送った巨大な機械を、小型の電子機械に変えたのだ(あまり知られていないが、アポロ計画にはもちろん重要な役割を果たした女性もいる)。

ショックレー・セミコンダクター(Shockley Semiconductor)で上司だったウィリアム・ショックレー(トランジスターの発明者の一人)に反旗を翻し、同僚と共に新しい会社を興した半導体の先駆者、ゴードン・ムーアは、1965年、集積回路のトランジスターの数は毎年2倍に増えるものの、コストはほぼ変わらないだろうと予測した。この「ムーアの法則」は的中した。コンピューティング能力が向上し、安くなるにつれて、車からコーヒーメーカーに至るほぼすべてのものの内部機構が機械からデジタルに置き換わった。

戦後の米国の空前の繁栄の受益者でありながら、米国の戦争に反対し、米国の文化に苛立ちを覚えていた新世代のコンピューティング・イノベーターたちがシリコンバレーに押し寄せた。彼らは髪を長く伸ばし、シャツをズボンから出して歩いた。メインフレーム・コンピューターは体制側の道具と見なされ、宇宙にロケットを飛ばすことよりも地上で偉業を成し遂げることのほうが重視された。小さいことが美しいとされた。

笑みを浮かべた若者が自作のデスクトップ端末の上にかがみ込み、ガレージでマザーボードを組み立てた。スティーブ・ジョブズという新たに大富豪の仲間入りを果たした人物が、パーソナルコンピューターは知性の自転車のようなものだと説明した。周囲に漂わせるカウンターカルチャーの雰囲気とは裏腹に、彼らは情け容赦なく商売敵と戦う経営者でもあった。政府の投資が減少し、民間の富が増大した。

米国防総省の高等研究計画局(ARPA)が資金を提供して構築した「アーパネット(ARPANET)」は、商用インターネットになった。ダイヤルアップ・モデムのピーガー音により、何百万台ものホームコンピューターがワールド・ワイド・ウェブ(WWW:World Wide Web)に接続されるようになり、以前は政府の資金援助を受けた研究者だけがアクセスできた壁に囲まれたネットワークが、通信やビジネスのための壮大な新しいプラットフォームとなった。この奇妙で刺激的な世界を実現したのが、ネットスケープ、イーベイ、アマゾン・ドット・コム、ヤフーなどの奇妙な名前を持つ非常に若い会社だった。

2000年の節目の前には、大統領が「大きな政府の時代は終わった。未来はインターネット上に広がる広大な世界にある」と宣言した。ウォール街はテック企業の株に殺到したが、間もなくそれをやめた。数カ月の間に巨万の富が築かれ、失われた。バブルが崩壊した後には、新たな巨人たちが出現した。コンピューターは小さくなり、ポケットにスマホが入り、キッチンに音声アシスタントが置かれるようになった。デバイスの数は増加し、それらが生成するデータは巨大なデータバンクや、増大するクラウドのサーバー・ファームに格納された。

海のように膨大なデータを与えられ、ほとんど規制に束縛されることもなく、コンピューターはどんどん賢くなった。自律自動車が市街地を走り回り、ヒューマノイドロボットが研究室から研究室へ飛び回った。アルゴリズムがソーシャルメディアのフィードを調整したり、顧客とギグワーカーのマッチングをしたりした。データとコンピューティング能力の爆発的な増大に後押しされて、人工知能(AI)が「先の先を行くもの(new new thing)」になった。シリコンバレーは、もはやカリフォルニア州内の単なる地名ではなく、グローバル産業の代名詞となっていた。テック業界の富と力は、米国を本拠地とする5社の企業に、かつてないほど密に集中し、合計時価総額は日本のGDPを上回った。

それが進歩と富の創造がたどった軌跡だった。それを必然的な結果として、羨望の対象と考える人もいた。そして2年前、再興したナショナリズムと経済を破壊する新型コロナ感染症のパンデミックが始まった。サプライチェーンは混乱に陥り、人と資本の移動は制限され、世界の秩序が再編成された。スマホが路上で起こった殺害事件と米国連邦議会で発生した暴動を記録した。AIを搭載したドローンが上空から敵を探査し、地上の敵に戦争を仕掛けた。テック企業の大御所たちは、議会の委員会で厳しい表情を浮かべて証言したが、最近になって疑念を抱くようになった議員たちの耳に彼らの主張は空々しく響いた。

人間とコンピューティングとの関係は突然変化してしまった。

この70年で科学と工学は驚異的なブレークスルーを遂げた。その変化の速さと規模を知ったら、20世紀半ばに生きた祖先たちは驚嘆しただろう。しかし、全員のデスクにネットワーク接続コンピューターが置かれることで社会に有益な影響がもたらされるとする技術楽観主義的(テクノ・オプティミズム)な確信は、悲劇的と言えるほど見通しが甘かったことがすでに判明している。最近の情報化時代は、啓発を促進するよりも、不和を煽動すること、社会格差や経済格差をなくすどころかむしろ悪化させている。

テクノロジー産業は、コンピューティングの長足の進歩によって生みだされ、富を獲得した。しかし、人類にとって最も深刻な健康面の課題や気候変動の問題に対処できるほど力強く、実用的な未来の選択肢を提示できていない。シリコンバレーのリーダーたちは、スペースコロニーを約束すると同時に海 …

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