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Blood Tests That Spot Cancer DNA Offer “Quantitative Peace of Mind” for Survivors

がんのDNA検査は
220億ドル市場へ

「リキッドバイオプシー」は結腸がん完治を予測できるとの研究結果が発表された。 by Antonio Regalado2016.07.07

がんが完治したか、患者の血液検査で判定できるようになった。

米ジョンズホプキンス大学とオーストラリアの研究者によると、「リキッドバイオプシー」と呼ばれる手法で結腸がんの手術を受けた230人の血液を検査したところ、腫瘍の再発可能性がある患者を判定できたという。

サイエンス・トラスレーショナル・メディシン誌が6日に掲載した研究結果によると、がんが完治したか再発の危険性が高いかをリキッドバイオプシーで分類できた。

従来の生検では、腫瘍のかたまりをラボへ送って検査していたが、リキッドバイオプシーでは遺伝子配列を読み取る装置で患者の血液を調べ、死につつある腫瘍細胞が発する突然変異DNAの微小な破片を特定することで、他の医療検査ではわからないがんを検出できる。この結果を受けて、がんの治癒率が最も高い早期発見のためのスクリーニングテストにリキッドバイオプシーが広く使われると期待する学者もいる。

この分野には投資家も注目している。今年初め、患者の細胞をラボに送らず、医師が自分の診察室でがんのスクリーニングテストができるテクノロジーを開発中のスタートアップ企業グレイル(グーグル元役員のジェフ・フーバー代表は妻を結腸がんで亡くしている)が、1億ドルの資金を集めた。

ただし、現在までに、リキッドバイオプシーの検査結果が正確で有用であることを示す大規模な研究報告はない。そこでウォルター・アンド・エライザ・ホール医療研究所(オーストラリア・ビクトリア州)のがん専門医ピーター・ギブス医師と米ジョンズホプキンス大学のバート・ヴォーゲルステイン研究者は、ステージIIの結腸がん(リンパ節のすぐ近くまで大腸がんが進行している状態で、他の部位に転移すると治療が困難になるギリギリの段階)の患者を、リキッドバイオプシーで助けられないか調べることにした。

この段階のがんはある程度進行してはいるものの、まだ他の部位には転移していないため、切開手術で80%が完治する。しかし、わずかなガン細胞が体内に残って腫瘍が成長するとがんが再発する。リキッドバイオプシー以前は、誰が完治し、誰には追加の化学療法が必要かを正確に判断する手段はなかった。

そこで研究チームは、リキッドバイオプシーで判断できるかを研究することにしたのだ。結腸がん治療中の患者の血液を数回採取し、その後約2年間、患者を追跡調査したのだ(患者と担当医には、検査結果は知らされなかった)。

研究結果によると、手術後の血液中に腫瘍のDNAが残っていた患者の79%が再発した。一方、検査結果が陰性の患者の再発率は9.8%だった。つまり、リキッドバイオプシーの検査結果により、すぐにでも追加の治療が必要な患者を医師が特定できるかもしれない。同時に、陰性だった患者は9割の確率で完治したと考えられる。JPモルガンのアナリスト、タイコ・ピーターソンさんは「定量的安心」と呼ぶ。

ピーターソンさんは、この研究は今後非常に価値の高くなると考えている。JPモルガンが昨年9月に公開した市場研究によると、あらゆる形のリキッドバイオプシーは、2020年までに年間220億ドル市場に膨れ上がり、そのうち再発可能性検査のような「予後」検査が4分の1を占めると予測している。

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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