KADOKAWA Technology Review
×
Facebookログイン終了のお知らせ(2026/3/31 予定)
遺伝子疾患を持つ胎児に出生前治療、倫理的問題点は?
Courtesy Photo
生物工学/医療 無料会員限定
This toddler is the first to have been treated for her disease before she was born

遺伝子疾患を持つ胎児に出生前治療、倫理的問題点は?

遺伝子疾患を持つ胎児を対象とした治療の症例が報告された。治療開始を早めることで、やがて子どもへと成長する胎児のQOLを改善できる可能性を高めらるのが狙いだ。胎児に実験的治療を試すことには倫理的課題は何か? by Jessica Hamzelou2022.12.08

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

エイラ・バシールちゃんは、両親いわく「奇跡」なのだそうだ。月齢15カ月になる、おしゃべりでいつも笑顔のこの子は、持病の遺伝子疾患の医学的治療を生まれる前に受け始めた、初めての人。そう、この分野の先駆者なのだ。

エイラは、遺伝子疾患を持つ胎児10人を対象に医学的療法をテストする臨床試験の、1人目の被験者だ。治療開始を早めることで、やがて子どもへと成長する胎児の生活の質(QOL:Quality Of Life)を改善できる可能性を高められる、というのがこの治療法の意図である。

だが、胎児を対象とした臨床試験は数多くの倫理的疑問を投げかける。同意ができない脆弱な胎児に対し、どのように治療を試みるべきだろうか? そして、これは妊婦にとって何を意味するのだろうか?

エイラを授かる前、両親はすでに2人の娘をポンペ病で亡くしていた。ポンペ病は心臓と筋肉に影響が及ぶ可能性がある、稀な遺伝子疾患だ。ザラは2歳で、サラは生後わずか6カ月で亡くなった。

「今回の妊娠では(両親は)別のことを試したいという気持ちを強く持っていました」。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児科医・胎児外科医である、ティッピ・マッケンジー教授は語る。マッケンジー教授は現在、胎児を対象とした医学的療法を研究しており、他の複数の組織に散らばるメンバーとともに、ポンペ病のほか7種類の疾患を持つ胎児を対象とした小規模な臨床試験を実施している。

これらの8種類の疾患はすべて、ある酵素の欠損により生じる。ポンペ病の場合、不足している酵素が細胞から老廃物を排出するうえで非常に重要な役割を担う。この酵素がないと有害な物質の蓄積につながり、やがて臓器障害を引き起こす。ザラとサラは、2人とも心臓病を発症した。

この疾患を持つ赤ちゃんや子どもは、酵素補充療法という治療を施される。これは不足している酵素を人工的に作り、注入するものだ。大きな効果をもたらす可能性があるが、時に少しだけ遅すぎる場合がある。例えば、生まれた時点ですでに甚大な臓器障害を抱えている子どももいる。

また、出生前の治療開始を支持する議論として、胎児においては人工酵素へのアレルギー反応が生じる可能性が低いとの見方がある。胎児には免疫寛容と呼ばれるものがあり、「異物」に対して強い免疫反応を示す可能性が低い。

マッケンジー教授らのチームは、胎児酵素補充療法の可能性をマウス実験で探ってきた。そして先日、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine)で発表された症例報告によると、エイラの症例は現在、酵素補充 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. This company claims a battery breakthrough. Now they need to prove it. すべてのパラメーターが矛盾——「出来すぎ」全固体電池は本物か?
  2. OpenAI’s “compromise” with the Pentagon is what Anthropic feared アンソロピック排除の裏で進んだオープンAIの軍事契約、その代償は
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
AI革命の真実 誇大宣伝の先にあるもの

AIは人間の知能を再現する。AIは病気を根絶する。AIは人類史上、最大にして最も重要な発明だ——。こうした言葉を、あなたも何度となく耳にしてきたはずだ。しかし、その多くは、おそらく真実ではない。現在地を見極め、AIが本当に可能にするものは何かを問い、次に進むべき道を探る。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る