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Why is the quantum computing startup company attracting so much attention?

量子技術集団「QunaSys」が巨大企業から注目される理由

創業からわずか4年。量子コンピューター向けソフトウェアの開発で業界をリードし、名だたる巨大企業から引っ張りだこのスタートアップが、楊天任CEO率いる「キュナシス(QunaSys)」だ。2022年3月にはシリーズBラウンドで12億4000万円の資金を調達し、事業拡大を加速している。社員30人ほどの小さなスタートアップになぜ巨大企業が注目するのか。楊CEOとのインタビューからその理由を探った。 by Hideo Ishii2022.12.20

「藤井先生との出会いが、私の人生を変えました」

量子時代のコンピューティング
この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介

キュナシス創業というターニングポイントについて楊CEOはそう振り返った。楊CEOは、大学では機械学習に取り組んでいたが、ベンチャー企業を起業するつもりはまったくなかったという。しかし、インターン時代にケニアで出会った投資家に、日本を代表する量子コンピューター研究者である藤井啓祐教授(大阪大学)を紹介してもらったことで、彼の人生は大きく変わった。藤井教授と意気投合した彼は、出会いからわずか2カ月でキュナシスを立ち上げることになった。

キュナシスの使命は、「Maximize the Power of Quantum Computing(量子コンピューターのパワーを最大限に引き出す)」であり、材料、化学、製薬など、さまざまな産業分野で量子コンピューターを活用するために、量子コンピューターの研究開発を進めている。キュナシスは、量子コンピューターのアルゴリズムの研究開発から実用レベルのエンジニアリングまで、一貫して取り組んでおり、特にアルゴリズムの開発力が強みだと、楊CEOは語る。「アルゴリズムを作り出す力が圧倒的に優れていることがキュナシスの強みです。量子コンピューター向けのアルゴリズムはすでにいくつかありますが、今あるアルゴリズムは粗いものが多く、正直、実用的ではありません。それをいかに改良していくかが重要です。そういった手法の改良や、アルゴリズムをこう変えれば産業的に役立つのではないかという部分をキュナシスで手がけています」

キュナシスを形作る3本の事業の柱

キュナシスの事業は、「アルゴリズム開発」「クラウドサービス」「コンソーシアム」の3つの柱から構成されている。アルゴリズム開発においては、現在は特に量子化学の分野に注力しており、「VQE(Variational Quantum Eigensolver:変分量子固有値ソルバー)」と呼ばれる分子の基底エネルギーを求めるアルゴリズムを拡張し、薬の設計や有機EL、太陽光発電といった産業用途を見据えた研究開発に取り組んでいる。アルゴリズム開発では、化学メーカーのJSRや三菱ケミカル、ENEOSなど大企業との共同研究も進め、4年間で29報もの論文を発表するなど、着実に成果を出している。また、こうして作られたアルゴリズムを広く活用してもらうために、キュナシスが提供しているクラウドサービスが「カムイ(Qamuy)」である。カムイは、量子化学計算の入力データを量子回路に翻訳し、量子コンピューターのシミュレーターや実機上での計算を実行するための量子化学計算クラウドだ。カムイには、「構造最適化」や「光吸収スペクトル」、「分子動力学」「振動数解析」「バンド構造」などの産業上重要な量子化学計算のアルゴリズムが多数実装されており、量子コンピューターの専門的な知識を持っていない人でも、量子化学計算を利用できるようになっている。キュナシスが、量子化学計算に注力している理由は、発展途上にある現在の量子コンピューターでも十分に役立つからだと楊CEOは説明する。

「量子化学計算が量子コンピューターの最初のアプリケーションとして有望だというのは、業界の共通認識なんです。量子コンピューターはまだまだ発展途上の技術であり、最初から何でもできるわけではありません。ENIAC(Electronic Numerical Integrator and Computer)も弾道計算用として作られたことから分かるように、計算機は特定用途向けから始まって、汎用化していきます。量子コンピューターを汎用的に使えるようになるには、100万量子ビット、あるいはもっと多くの量子ビットが必要だろうと言われています。しかし、そこに到達するまでの1000量子ビットや1万量子ビットで何ができるかと考えると、量子化学計算が一番やりやすい。量子化学計算はその名のとおり、量子的な振る舞いを計算するので、もともと量子力学に基づいて動作する量子コンピューターとの親和性が非常に高いのです。また、量子化学計算は規模が小さい問題でも、厳密に解くのは非常に難しく、現在のスーパーコンピューターでもベンゼン環1つレベルのエネルギーを厳密に知ることはできません。つまり、量子ビットが少なくても役に立つ分野なので、まずは量子化学計算にフォーカスしているわけです」

カムイは、最終的に量子コンピューターの実機を使って計算することを目指しているが、実際にはAWS経由で米国のアイオンQ(IonQ)やリジェッティ(Rigetti)の実機を使うことになる。また、キュナシスはIBMとも連携してデモを作成しており、IBMの量子コンピューターを使えるようになる可能性もありそうだ。ただし、「現状の量子コンピューターはあくまでも生まれたばかりの赤子のようなものであり、今すぐ実用的な問題を解けるわけではない」と楊CEOは強調する。

「私はそこを正しく伝えたいと思っています。現在の量子コンピューターが産業的に役に立つ、スーパーコンピューターでも不可能な計算が実現できたかというと、まったく実現できていません。では、みんな何をしているかと言うと、1つは教育です。今の量子アルゴリズムを正しく知って、その教育の …

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