中国テック事情:TikiTok「1時間制限」より厳しい中国の過剰規制
ティックトックは、18歳未満のユーザーに対して、1日あたりの使用時間を1時間に制限すると発表した。しかし、中国政府は、国内版であるドウインに対して、はるかに厳しい規制を課している。 by Zeyi Yang2023.04.17
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
米国人と中国人は、お互い認めたがらない割にはよく似ている。たとえば、ティーンエージャーがティックトック、あるいはその中国国内版であるドウイン(Douyin:抖音)を使いすぎているのではないかとの懸念は、どちらの国でも共通のものだ。
ティックトックは3月1日、18歳未満のユーザーに対して、デフォルトで毎日60分の使用時間制限を設けると発表した。13歳未満のユーザーであれば、30分延長するには両親にコードを入力してもらう必要があり、13歳から18歳までのユーザーであれば、自分で延長できる。
この対策にどれほど効果があるのかは、実際にやってみないとわからない(たとえば、ティックトックに登録するときに年齢を偽ることももちろん可能だ)。それでも、ティックトックは、子どもがティックトックなどのソーシャルメディアに過度にのめり込んでいることを懸念する多くの親や、政策立案者の要請に応える姿勢を、明確に示したことになる。2022年のデータでは、ティーンエージャーは1日平均103分もの時間をティックトックに使っていた。これは、スナップチャット(72分)、ユーチューブ(67分)を上回る長さだ。ティックトックは、摂食障害および自傷行為についてのコンテンツを若いユーザーに促進していることも判明している。
議員らもこうした懸念を共有している。米国では、複数の上院議員が、未成年によるティックトックのようなアプリへのアクセスを制限する法案の策定を目指している。
しかし、ティックトックを運営するバイトダンス(ByteDance)は、今回初めて使用時間制限についての要請を受け取ったわけではない。実際のところ、少なくとも2018年から、中国でも同様に政府からの圧力を受けてきているのだ。
ドウインは2018年、ペアレンタル・コントロール機能を導入し、未成年のユーザーが生配信に出演することを禁じ、ユーチューブ・キッズと同じようにホワイトリストに登録されたコンテンツしか表示しない「ティーンエージャー・モード」を公開した。さらに2019年には、ティーンエージャー・モードを使用しているユーザーに対して、1日あたり40分の使用時間上限を設け、さらに使用できる時間帯も午前6時から午後10時の間のみとした。さらには、2021年には、14歳未満のユーザーは必ずティーンエージャー・モードを使用しなければならない旨が定められた。つまり、バイトダンスが中国国外でティックトックに対して導入し始めている対策の多くは、すでにドウインで徹底的にテスト済みだったというわけだ。
ティックトックがスクリーンタイムの上限を設けるのにこれほど長い時間を要したのはなぜだろうか。一部の右派の政治家および有識者は、バイトダンスおよび中国政府が実際に悪意を持って導入を遅らせたのではないかと指摘している(元グーグル社員でヒューマン・テクノロジー・センター=Center for Humane Technology technologyの共同創設者であるトリスタン・ハリスは、「ほとんど、テクノロジーが子どもの発達に悪影響を及ぼしていると認識して、中国国内版のティックトックはホウレンソウのように無害化しておきながら、中国国外にはアヘンのように有害なバージョンのティックトックを提供し続けたようなものではありませんか」と60ミニッツで語っている)。だが、私はティックトックとドウインの差は、何らかの陰謀の結果であるとは思わない。中国政府がすばやく強力にデジタル・プラットフォームを規制していなければ、ドウインはおそらくティックトックと非常に似たものになっていただろう。
中国の政治体制においては、新たなテックプラットフォームが悪影響を及ぼすことになれば、政府はすばやく対応できる。たとえば、ティーンエージャーがソーシャルメディアにのめり込むなど、社会から幅広い懸念が示されれば、それに対応する。また、検閲を難しくする新たな製品を規制するなど、より政府の利益追及を目的に対応することもある。しかし、結果はどちらも同じで、中国政府はプラットフォームに対して迅速に変更を要請でき、それに対する反発もほとんどない。
それは、ティーンエージャーを中毒状態に陥らせるとしてしばしば批判されるもう1つのテック製品、つまりビデオゲームに対して、中国政府がどのようにアプローチしているかを見れば、はっきりとわかるだろう。中国政府は長年、ビデオゲームを批判しており、2021年には厳しい制限を導入した。18歳未満は、週末および祝日の午後8時から9時の間しか、ビデオゲーム(日本版編注:オンラインゲーム)をプレイできない。この時間枠以外にはプレイできないよう、ゲーム企業がブロックしなければならないと定められたのだ。違反があれば、ゲーム企業が処罰の対象となる。そのため、多くのゲーム企業は、この規則をユーザーに守らせるために、高価な本人確認システムを構築・導入しなければならなかった。
2021年にゲーム規制が導入された際、ソーシャルメディア産業もヒヤッとしたに違いない。なぜなら、多くの中国人からはすでに、ドウインのようなショート動画アプリにはビデオゲーム並みの中毒性があるという声が上がっていたからだ。いつソーシャルメディア産業にも規制のメスが入ってもおかしくない状況に思われた。
ソーシャルメディア産業にも規制が入る可能性は、現在さらに高まっているようだ。2月27日、中国の国家ラジオテレビ総局は、「ショート動画に規制を課して未成年のユーザーが中毒に陥ることを予防する」ための取り組みについて話し合うために会議を招集したと発表した。この会議について報じられたことで、中国のソーシャルメディア・プラットフォームに対して、中国政府が現在の対策には満足しておらず、プラットフォーム側が新たな対策を考え出さなければならないというメッセージが送られた形だ。
では、新たな対策とはどのようなものになる可能性があるのだろうか。スクリーンタイムおよびコンテンツに関する規則がさらに厳しくなる可能性がある。しかし、発表ではその他にもいくつか興味深い方向性への言及があった。たとえば、クリエイターに対してティーンエージャー向けのコンテンツを提供するための免許の取得を求めたり、政府がアルゴリズムそのものを規制する方法を開発したりすることだ。事態が進んでいくにつれて、中国ではドウインおよび類似のプラットフォームに対して制限を課すためのさらに革新的な対策が導入されることになるだろう。
米国については、中国ですでに導入されているレベルの規制をソーシャルメディアに導入することすら、いくつかの大きな改革を必要とすることになるだろう。
中国では、ティーンエージャーが両親のアカウントを使用してドウインで視聴または投稿する事態を絶対に防ぐために、すべてのアカウントがユーザーの実際の本人確認情報と紐付けられている。さらに、バイトダンスは、生配信コンテンツの作成においては、顔認識テクノロジーを使用したモニタリングを実施しているという。もちろん、こうした対策があれば、ティーンエージャーが抜け道を見つけてしまうことを防ぐことにつながる。しかし、すべてのユーザーに対してプライバシー上の問題が生じることにもなる。子どもが何を視聴できるのかをコントロールするというだけの目的で、全員がプライバシーの権利を犠牲にすることを選ぶことはないのではないかと、私は考えている。
コントロールとプライバシーのトレードオフがどのような状況を生み出したのか、中国の前例を見てみよう。2019年まで、ゲーム産業においては、ルール上は未成年のゲーマーに対して1日あたりのプレイ時間の上限が設けられていたが、その上限をリアルタイムで守らせることはできていなかった。しかし、現在では、ゲーマーについての中央集権的なデータベースが構築されており、そこにテンセント(Tencent)やネットイース(網易)などの巨大ゲームパブリッシャーが開発した顔認識システムが導入されているため、全てのゲーマーの本人確認を数秒で実施できるようになっている。
コンテンツ分野では、ドウインのティーンエージャーモードを有効化すると、いたずら動画、「迷信」についての動画、もしくはダンスクラブまたはカラオケクラブのようにティーンエージャーが入れない「娯楽施設」の動画など、いくつものタイプのコンテンツが表示されなくなる。コンテンツはバイトダンスの従業員によって選別されていると思われるが、中国のソーシャルメディア企業は検閲漏れがあったとしてしばしば処罰の対象となっている。つまり、どのコンテンツがティーンエージャーの視聴に適しているかの判断は、究極的には中国政府によって下されるということだ。ドウインの一般向けのバージョンですら、「結婚および愛について不健全で一般的ではない見解」を示すものであるとの論拠で、LGBTQを擁護するコンテンツが頻繁に削除されている。
コンテンツモデレーションと文化検閲の境界は、危険なほど曖昧なのだ。人々がそれぞれの子どものさらなる保護を求める中で、ソーシャルメディアの制限はどのようなものであるべきか、そしてそれを実現するにあたって何を犠牲にする用意があるのか、いくつかの難題に答えを出すことが求められることになりそうだ。
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中国版チャットGPTで成功できる人物は?
中国版のチャットGPTを開発しようとするスタートアップ企業が数多く現れる中、中国メディアが作成したインフォグラフィックでは、中国の有名創業者を比較して、その競争に誰が最も勝ちそうであるか予想している。分析では、4つの項目が比較されている。学術界での評判および影響力、一般企業のエンジニアとの協力の経験、中国の政治およびビジネスの世界での人脈、ならびに人工知能(AI)チャットボットの軍拡競争への参戦への関心をどれほど宣言しているかである。
この分析で勝者とされたのは、中国の検索エンジン「ソゴウ(Sogou:捜狗)」の最高経営責任者(CEO)を務める王小川(ワン・シャオチュアン)と、マイクロソフトおよびバイドゥの元取締役である陸奇(ルー・チー)の2人だ。王は、清華大学(工学分野で中国トップ)およびテンセントの関係者の中で太い人脈を築いている。そのため、王ならスター級の人材を素早く集めてチームを作れる可能性がある。それに対して、陸の場合は、マイクロソフトのビングおよびバイドゥの自動運転技術ユニットに携わった経験が大きなアピールポイントになっている。さらに、陸は現在、ワイ・コンビネーター中国のトップも務めており、オープンAIの最高経営責任者(CEO)でワイ・コンビネーターの前社長でもあるサム・アルトマンとも交流がある。
あともう1つ
最近、中国で、ある映像が拡散された。運転手が自身の電気自動車の前でひざまずき、自身の顔をスキャンしている動画だ。車のシステムのあるアプリで顔認識による本人確認が求められたが、車内にはカメラがなく、車の前面に搭載されている車外カメラが唯一の選択肢だったという。
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- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。