KADOKAWA Technology Review
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チャットGPT革命で
雇用、経済はどう変わるか?
Stephanie Arnett/MITTR
人工知能(AI) Insider Online限定
ChatGPT is about to revolutionize the economy. We need to decide what that looks like.

チャットGPT革命で
雇用、経済はどう変わるか?

チャットGPTの登場によって始まった生成AIのゴールドラッシュは、知識労働者や情報労働者にも大きな影響を与える可能性がある。だが、必ずしも「雇用を奪う」といったネガティブな面だけに目を向ける必要はない。生産性の向上やアップスキルにつながるとの報告もある。 by David Rotman2023.04.27

それが単なる夢物語であるかはさておき、ここ数カ月間で人工知能(AI)のゴールドラッシュが始まった。チャットGPT(ChatGPT)のような生成AIモデルがもたらすビジネスチャンスを狙う動きだ。アプリ開発者、ベンチャーキャピタルの支援を受けたスタートアップ、さらには世界有数の大企業が、昨年11月にオープンAI(OpenAI)が発表したセンセーショナルな文章生成ボットが何をもたらすのかを理解しようと躍起になっている。

世界中の企業の役員室からこんな悲鳴が聞こえるようだ。「うちのチャットGPT戦略は? どうやったらこれで金を稼げるんだ?」

しかし企業や経営者がこのテクノロジーに勝機を見いだしている一方で、労働者や経済全体に与えるであろう影響はまだまだ明らかになっていない部分が多い。チャットGPTや最近発表された他の生成AIモデルには、物事をでっち上げる傾向などの欠点があるものの、文章作成からグラフィック制作、データの要約や分析まで、これまでは人間の創造力と思考力の領域と考えられていたあらゆる仕事を自動化できると期待されている。しかし経済学者たちは、雇用や全体的な生産性にどのような影響が出るのか確信が持てないでいる。

過去10年でAIをはじめとするデジタルツールが驚異的な進歩を遂げた。しかしそのことによって、我々の豊かさが向上し、幅広い経済成長を促すことができているかというと、残念な結果しか残っていないのが実情だ。一部の投資家や起業家は巨万の富を得たが、大部分の人々はその恩恵を受けていない。自動化によって職を失う人さえ現れるようになった。

生産性の向上は、国をより豊かにし、繁栄させるために重要であるはずだが、2005年頃から米国をはじめとする多くの先進国(英国はその傾向が最も強い)ではがっかりさせられるような結果しか出ていない。全体的な経済が伸び悩み、多くの人々の賃金が低迷しているのだ。

その間、情報サービス業などの一部の業界でのみ生産性が向上した。米国の都市ではサンノゼ、サンフランシスコ、シアトル、ボストンなど一部の都市だけが恩恵を受けている。

所得や富の不平等は、米国など多くの国ですでに問題になっている。チャットGPTはこの不平等をさらに悪化させるのだろうか?それとも、改善させるのだろうか?切望されていた生産性の向上を、チャットGPTは実現できるのだろうか?

オープンAIは、人間並みの文章作成能力を持つチャットGPTだけでなく、ユーザーの要望に応じて画像を生成する「ダリー2(DALL-E 2)」を公開している。どちらも、膨大な量のデータで学習させた大規模言語モデルを使う。膨大な量のデータで学習しているという点は、アンソロピック(Anthropic)の「クロード(Claude)」やグーグルの「バード(Bard)」といった競合テクノロジーも同じだ。チャットGPTのベースとなっているオープンAIの大規模言語モデル「GPT-3.5」や、競合するグーグルが開発した大規模言語モデルであり、バードを動かしている「ラムダ(LaMDA)」といった、いわゆる基盤モデル(Foundational Model)は、近年急速に進化している。

能力も高まる一方だ。より多くのデータで学習し、モデル内で微調整可能な変数であるパラメーターの数も飛躍的に増加している。3月初頭、オープンAIは最新版となる「GPT-4」を公開した。同社はGPT-4の規模について明言を避けているが、「GPT-3」が前世代の「GPT-2」と比べておよそ100倍となる約1750億のパラメータを持っていたという事実から、ある程度は推測できるだろう。

2022年末に登場したチャットGPTは、多くの人々にとってすべてを変えてしまう存在だった。チャットGPTは、レシピやトレーニング計画、さらには驚くべきことにコンピューター・プログラムのコードまで、人間が書いたかのような作品をすばやく作成でき、その操作方法も極めて簡単だ。多くの人にとって取っ付きやすいチャットモデルは、増え続ける起業家やビジネスパーソンなど、専門家とは言えない多くの人々にとって、AI革命が本物の可能性を秘めていることを示す明らかな証拠となっている。チャットGPTに限らず、ここ数年、学術界や一部のハイテク企業もAIの進歩で盛り上がっている。しかし、その進歩は高度で難解なものだ。チャットGPTは、より具体的で実用的だと言える。

ベンチャー・キャピタリストをはじめとする投資家たちは、生成AIに取り組む企業に数十億ドルを注ぎ込んでおり、大規模言語モデルの力を借りたアプリやサービスは日に日に増え続けている。

大手では、マイクロソフトがオープンAIと同社のチャットGPTに100億ドルを投資したという報道が流れている。マイクロソフトはチャットGPTが、長年低迷していた「ビング(Bing)」検索エンジンに新たな命を吹き込み、マイクロソフト・オフィス(Microsoft Office)に斬新な機能をもたらすと期待している。セールスフォースは3月上旬に、同社の人気製品である「スラック(Slack)」にチャットGPTアプリを導入すると発表した。さらに同社は、2億5000万ドル規模のファンドを立ち上げ、生成AIスタートアップに投資することも発表した。このような企業は、コカ・コーラからGM(General Motors)まで後を絶たない。誰もがチャットGPTに賭けているのだ。

その一方、グーグルは、新たに開発した生成AIツールをGメールやグーグル・ドキュメントなど、すでに広く普及している同社製品の一部で使用すると発表した。

それでも、決定的なキラーアプリはまだ登場していない。企業がこのテクノロジーの活用法を模索する中、経済学者らは、新世代のAIから最大限の利益を得るにはどうすべきかという点について、再考できる貴重な機会が訪れたと述べている。

「このテクノロジーは実際に試すことができる。だからこそ、このような機会が訪れたのです。今では、コーディングのスキルが無くても、このテクノロジーを利用できます。大勢の人が、このテクノロジーが自身の業務のやり方や、仕事の先行きにどのように影響するかを想像し始めました」。サンフランシスコの非営利団体「パートナーシップ・オン・AI(Partnership on AI)」でAI・労働・経済分野の研究主任を務めるカーチャ・クリノヴァは説明する。

「問題は、誰がその恩恵を受けるのか、そして誰が取り残されるのか、ということです」。生成AIによる雇用への潜在的な影響を概説し、経済格差是正のための活用方法を提言する報告書を作成しているクリノヴァ主任は、このように語る。

楽観的な見方は、「多くの労働者にとって役立つツールであることが実証され、彼らの能力や専門知識が高まり、経済全体の活性化につながる」といったものだ。これまでは、創造的な能力と論理的思考を要する高賃金の仕事は、自動化の影響を受けないと考えられていた。悲観的な見方には、企業がこのような高賃金の仕事をなくしてしまうためだけに生成AIを利用するというものがある。その結果、一部のハイテク企業やハイテクエリート層をさらに潤わせる一方で、全体的な経済成長にはほとんど繋がらないという結果に終わる可能性が高い。

スキル不足の人々をサポートする

チャットGPTの職場への影響という問題は、単なる机上の空論ではない。

オープンAIのティナ・エロンドウ、サム・マニング、パメラ・ミシュキンが、ペンシルベニア大学のダニエル・ロック助教授と共同で実施した最新の分析では、GPTのような大規模言語モデルが、米国の労働者の80%に何らかの影響を与える可能性があることが明らかになった。さらに、GPT-4などのAIモデルや今後現れるソフトウェアツールは、19%の職種に重大な影響を及ぼし、こうした職種における業務の少なくとも50%が「危うくなる」可能性があると推定している。また、これまでに人類が経験してきた自動化の波とは異なり、最も影響を受けるのは、高収入の職種であるとも述べている。最も厳しい状況に置かれる職業としては、ライター、Webデザイナー/デジタルデザイナー、金融アナリストなどが挙げられる。もしあなたが転職を考えているとしたら、ブロックチェーン・エンジニアもお勧めできない。

「(生成AIの)導入が今後進むことは間違いありません。それは単なる目新しさから来るものではありません」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)の労働経済学者で、テクノロジーが雇用に与える影響に関する研究の第一人者であるデビッド・オーター教授はこう述べる。「法律事務所がすでに使い始めていますが、これはほんの一例です。生成AIは、自動化できる業務の幅を広げたのです」。

オーター教授は、かつては高収入だったさまざまな製造業や定型的な事務職を、高度なデジタル・テクノロジーがいかにして淘汰してきたかを何年もかけて記録してきた。しかしオーター教授は、チャットGPTや他の生成AIの出現が、その図式を一変させたという。

AIは、これまでも一部のオフィスワークを自動化してきたが、それはコンピューター・プログラムで表現できる、決まった手順を繰り返すような作業だった。それが今では、文章を書いたり、グラフィックを制作したりと、我々が創造的なものと見てきた作業もできるようになった。「生成AIは、私たちが簡単には自動化できないと考えてきた数多くの作業をコンピューター化する扉を開くものです。それは、注意を払っている人なら誰にでもわかることです」とオーター教授は述べる。

しかし、チャットGPTが大規模な失業を引き起こすことを懸念しているわけではない。オーター教授が指摘するように、米国には山ほど職があるからだ。懸念されるのは、企業が比較的賃金の高いホワイトカラーの仕事を、この新たな形態の自動化で置き換えることで、こうした労働者をより低賃金のサービス業に追いやり、その一方で新たなテクノロジーを巧みに使いこなせる一部の人々がすべての利益を独占してしまうことだ。

このようなケースでは、テクノロジーに精通した労働者や企業がすぐさまAIツールを導入することで、生産性を高めて職場や業界で優位に立つかもしれない。そして、もともとスキルが乏しく、テクノロジーに関する見識もない人々は、さらに取り残されることとなるだろう。

しかし、オーター教授はもっと前向きな可能性も考えている。より多くの人々が、より高いレベルの教育を受け、専門知 …

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