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ウクライナ侵攻で激震、
ロシアのテック業界は
いかにして崩壊したか
Stephanie Arnett/MITTR
倫理/政策 Insider Online限定
How Russia killed its tech industry

ウクライナ侵攻で激震、
ロシアのテック業界は
いかにして崩壊したか

ロシアにはヤンデックスなど国際的な競争力を持つテック企業が存在していた。しかし、ウクライナ侵攻とそれに伴う国内の情報統制によって、政府は有力なテック企業を破壊。人材は国外に流出し、進出していた他国のテック企業もロシアから撤退している。 by Masha Borak2024.02.08

ウクライナ侵攻が始まってから7日後、ウラジミール・ベルギンは自身と家族の身の回りの品をまとめ、モスクワにある自身のアパートメントの賃貸借契約を解約し、子どもを幼稚園から退園させ、ロシア国外での新たな生活を始めた。それから間もなく、ベルギンはヤンデックス(Yandex)における自身の職、中小企業担当最高商務責任者(CCO)を辞した。ヤンデックスはロシアにおけるグーグルのような存在で、ロシア最大のテック企業である。ウクライナ侵攻によって、ベルギン元CCO自身に関すること、そしてヤンデックスに関すること、そのどちらについてもロシア国内で全てが変わっていくであろうことは明らかだったと、ベルギン元CCOはキプロスにある自身の新しい家で語った。「ロシアでは、何のルールも存在しないという、新しいルールを受け入れなくてはならなくなっています」。

ベルギン元CCOに限らず、ロシアのテック人材は続々と国外に脱出している。ウクライナ侵攻開始から数カ月のうちに、大量のIT人材がロシアから国外へと脱出した。ロシア政府が公開した統計によると、2022年のうちにおよそ10万人のIT専門職がロシアを離れた。これはテック関連の労働人口のおよそ10%に当たる数であり、実際の数字はこれ以上である可能性が高い。IT人材の脱出が起きるのと同時に、1000社以上の外国企業がロシア国内での事業を縮小した。原因の一部は、主要経済大国に課せられるものとしては過去に類を見ないほど広範にわたる制裁であった。

ウクライナへの本格的な侵攻が始まってすでに1年以上が経過している。記録に残っている民間人の死者数は8300人であり、現在も増え続けている。テック人材が何もかも残したままロシアから逃げだしたことは、ロシアが着々とへき地になりつつあることを警告している。つまり、ロシアは世界のテック業界、研究、資金、科学交流、そして重要部品に手が届かなくなりつつあるのだ。一方でロシアのテック業界でも有数の成功者であるヤンデックスでは分裂が始まっており、利益を上げていた事業がフコンタクテ(VK:VKontakte)へと売却されている。VKはヤンデックスの競合で、複数の国営企業が支配しているテック企業だ。

「まるで、自分の国が盗まれてしまったかのような気分です」。こう語るのはVKの幹部で、ロシアに家族を残しているイゴール(本人の希望により仮名を使用)だ。ウクライナ侵攻が始まった時は、瞬く間に20年分のロシアの未来が奪われてしまったかのように感じたと、イゴールは言う。

ロシアでは、テック業界はコネではなく実力で成功できると考えられている数少ない業界の1つだった。またテック業界は、開放的な精神を維持してきた。ロシアの起業家たちは世界中から資金を集め、世界のあちこちで契約を成立させてきた。しばらくの間は、ロシア大統領府もこのような開放的な精神を受け入れているようであり、ロシアに投資してもらうために国際的な企業を誘致していた。

しかし、ウクライナ侵攻が始まるはるか前から、ロシアのテック業界に亀裂が生じ始めていた。10年以上に渡り、ロシア政府はロシアのインターネットと大手テック企業を厳しく管理しようとしてきた。一時期はロシアを未来へと導く希望であったテック業界を脅していたのだ。MITテクノロジーレビューが話を聞いた専門家たちによれば、ロシアによるウクライナ侵攻は既に生じていた傷を悪化させただけだという。ロシア有数のテック企業群は孤立と混沌にさらされた。そして、ロシア国民は厳しく管理されたロシア国内のインターネットへと囲い込まれてしまった。そこではニュースは公式の政府関連の情報源からしか提供されず、言論の自由は厳しく制限されている。

「ロシアの指導者たちはロシアを成長させる道として、まったく異なる道を選んだのです」と話すのは、ルーベン・イェニコロポフだ。イェニコロポフはバルセロナ経済大学院の助教授で、以前はロシアのニュー・エコノミック・スクールで学長を務めていた。イェニコロポフ助教授によれば、孤立は戦略的な選択となったという。

テック業界はロシアにおいて最大とは言えないが、経済を牽引する主要な産業の1つではあったと、イェニコロポフ助教授は言う。2015年から2021年の間、ロシアのIT業界は同国のGDP成長率のうち3分の1以上を稼ぎ出していた。この金額は2021年には3兆7000億ルーブル(478億ドル)に達した。総GDPの3.2%に過ぎないとはいえ、テック業界が後退すればロシア経済は停滞していく。イェニコロポフ助教授はこう述べている。「ロシアの将来の経済成長にとって、最も手痛い一撃の1つとなるのではないかと、私は考えています」。

脱出が始まる

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月24日、モスクワ市中心部の少し南にある、赤レンガとガラスが並ぶヤンデックスのオフィス内は緊迫した雰囲気に包まれていた。当時ヤンデックスでコンテンツ・マーケティング部門の責任者を務めていたアナスタシア・ディズハルデンは、ほかの多くの従業員とともにその場にいた。しかしディズハルデンによると、働いていた人はほとんどいなかったという。ヤンデックスのオフィスの喫煙エリアには、いつもの5倍の人がいた。従業員の一部はウクライナ侵攻が始まったその日のうちに、ヤンデックスを退職した。

ウクライナ侵攻のニュースがヤンデックスのオフィス内を駆け巡る中、ディズハルデンと同僚たちは「クラール」と呼ぶ週一のミーティングに呼ばれた。ディズハルデンによればミーティング中、ヤンデックスの専務取締役兼副最高経営責任者(CEO)であるティグラン・フダヴェルディアンは従業員を安心させるため、ヤンデックスは今後も事業を続けると明言した。

 

ヤンデックスはロシアにとって、誇りと言える会社だった。ヤンデックスは世界を股にかけて事業を展開しており、会社の一部はオランダに登記している。ヤンデックスの技術者たちは、米国の企業と互角に渡り合っていた。ヤンデックスはロシアの検索エンジン市場においてグーグルよりも大きなシェアを占めており、ヤンデックスが提供している90種類のサービス群は、ロシアのデジタル市場の大半を押さえている。ヤンデックスのサービスには、収益を上げているコンテンツ・プラットフォームのゼン(Zen)、そして多くのロシア人が1日の始めにネットで見る、オンラインニュース・プラットフォームのヤンデックス・ニュース(Yandex News)がある。しかし、これらヤンデックスの情報流通経路は、ヤンデックスにとってトラブルの種でもあった。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから数週間の間、1日当たり1400万人がヤンデックス・ニュースを訪れた。過去に類を見ない数だ。しかしヤンデックス・ニュースを訪れた人たちは民間人の死や破壊行為のニュースを目にすることはなかった。代わりに、ロシアの解放者たちはウクライナを「非ナチ化」しているというニュースがあった。ヤンデックス・ニュースに掲載された情報のうちおよそ70%が、ロシア政府が管理している情報源からもたらされた、プロパガンダを後押しするものだった。10年に渡ってロシア政府が、自国の独立系メディアを取り締まってきた結果だ。ロシア政府は侵攻開始後も、公認する情報源に関する新たな法律を制定するなどの取り締まりを続けている。

ディズハルデンは、ヤンデックスが生き残るには、注意深く事を運ぶしかないと分かっていた。「もしヤンデックスが何らかの(反戦に関する)意見を発表すれば、ヤンデックスが終わるかもしれなかたんです」とディズハルデンは話している。

結局ヤンデックスは政府に追従したが、それには代償が伴った。ウクライナ侵攻から3週間後、フダヴェルディアン副CEOはウクライナ侵攻に関する情報を公衆から隠蔽したとして欧州連合(EU)から制裁を受け、自身の役職から退いた。4日後、ヤンデックス株はナスダックで取引停止となった。

2022年6月には、イスラエルに住んでいるヤンデックスの最高経営責任者(CEO)のアルカディ・ヴォロズも制裁を受け、退任した。退任前には従業員に対し、ヤンデックスは従業員に向けた緊急資金を用意していると明かし、従業員を安心させようとした。ディズハルデンの記憶によれば、ヴォロズCEOは「自分たちがどんな国に住んでいるか、私たちは常に把握していた」と述べていたという。

ヤンデックスの元従業員たちの推定によれば、ウクライナ侵攻後の最初の2カ月間だけで、3分の1もの従業員がロシアを離れたという(その多くはリモートでヤンデックスに勤め続けている)。ディズハルデンは家族がウクライナにおり、6月にロシアを後にした。ロシアで働く最後の日、モスクワ川を見下ろすヤンデックスの …

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