KADOKAWA Technology Review
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生成AIの次は「双方向」
ディープマインド共同創業者
スレイマンが見据える未来
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
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DeepMind’s cofounder: Generative AI is just a phase. What’s next is interactive AI.

生成AIの次は「双方向」
ディープマインド共同創業者
スレイマンが見据える未来

ディープマインドの共同創業者であるムスタファ・スレイマンは、新会社インフェクション(Inflection)で今年、チャットGPTのライバルとなる「パイ(Pi)」を公開した。独自の信念を持つスレイマンに話を聞いた。 by Will Douglas Heaven2023.09.28

ディープマインド(DeepMind)の共同創業者であるムスタファ・スレイマンは、チャット以上の機能を備えたチャットボットを構築したいと考えている。先日、スレイマンと交わした対話の中で、彼は生成AI(ジェネレーティブAI)は一つの段階に過ぎないと私に語った。次に来るのはインタラクティブ人工知能(AI)だという。インタラクティブAIとは、何らかのタスクを設定すると、他のソフトウェアや人間に呼びかけてそのタスクを実行できるボットを指す。さらにスレイマンは堅牢な規制を求めており、その実現は難しくないと考えている。

かつてないほどの自律性を持ったソフトウェアで溢れかえる未来について夢中になって語っているのはスレイマンだけではない。だが多くの人とは違い、彼には新たな数十億ドル企業のインフェクション(Inflection)がある。インフェクションにはディープマインド、メタ、オープンAI(OpenAI)といった企業から引き抜かれたトップクラスの才能が揃っており、エヌビディアとの契約によって世界最大規模のAI専用ハードウェアを抱えている。スレイマンは口だけでなく行動を起こしている。お金に関しては興味がなく、もっと稼ぎたいという気持ちもないという。

スレイマンは、少なくとも私たちが初めて話をした2016年初頭以来、テクノロジーは善をなすための力であるという揺るぎない信念を持っている。私たちが初めて話をした当時、スレイマンはディープマインド・ヘルス(DeepMind Health)を立ち上げ、英国の国営地域医療提供者の一部と研究協力を始めたばかりだった。

当時私が務めていた雑誌は、ディープマインドが先述の研究協力を始めるにあたって約160万人の患者記録にアクセスした際、データ保護規制を遵守していなかったとする記事を公開しようとしていた。この記事の主張は、後に政府の調査によって裏付けられた。スレイマンは、医療の改善に取り組むディープマインドに対し、私たちが敵対的な記事を公開しようとしている理由が分からなかった。スレイマンの記憶の限りでは、彼は私に、自分は世界に対して善をなしたいだけなのだと言ったという。

その会話から7年を経ても、スレイマンの純真なミッションはまったくブレていない。「目標は常に、いかにして世界に善をなすことができるか、ということ以外にありません」。スレイマンはパロアルトのオフィスからズーム(Zoom)越しにそう語った。英国出身の起業家であるスレイマンは現在、そのオフィスで大半の時間を過ごしている。

ディープマインドを離れたスレイマンは、グーグルに移ってAIポリシーに取り組むチームを率いた。2022年には、インフェクションを立ち上げた。同社は、マイクロソフト、エヌビディア、ビル・ゲイツ、リンクトイン(LinkedIn)の創業者であるリード・ホフマンから15億ドルの支援を受ける、ホットな新興AI企業の1つとなっている。スレイマンは今年、「チャットGPT(ChatGPT)」のライバルとなる「パイ(Pi)」を公開した。スレイマンによると、パイ独自のセールスポイントは感じが良く丁寧な点にあるという。彼は作家で研究者のマイケル・バスカーとの共著で、AIの未来をテーマにした『The Coming Wave: Technology, Power, and the 21st Century's Greatest Dilemma(次に来る波: テクノロジー、電力、そして 21 世紀最大のジレンマ)』(未邦訳)を上梓したばかりだ。

多くの人はスレイマンのテクノロジー楽観主義に冷笑を浴びせるだろう。世間知らずだとさえ言うかもしれない。たとえば、彼のオンライン規制の成功に関する主張の中には、あまりにも的外れに感じられるものもある。それでも彼は、自身の信念を誰よりも真剣に、熱心に信じ続けている。

スレイマンがテック業界の億万長者にしては異色の経歴を持っているのは確かだ。19歳で大学を中退した彼は、ムスリム・ユース・ヘルプライン(Muslim Youth Helpline)という電話相談サービスを立ち上げた。地方政府で仕事をしていたこともある。スレイマンは、そうした活動から得た価値観の多くをインフェクションに持ち込んだという。当時と違うのは、今のスレイマンには彼自身がずっと望んできた変化を、(良きにつけ悪しきにつけ)起こせる立場にあるかもしれない点にある。

なお、以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にし、長さを調整するため、編集されている。

——あなたがキャリアの初期にしていた若者の電話相談や地方政府の仕事は、あまりにも地味で非シリコンバレー的ですが、あなたにとって大事なことであるのは明らかです。それから15年間AIの世界に身を置き、今年はあなたにとって2社目となる数十億ドル規模のAI企業を共同で創業しました。ここまでの活動を結びつけて語ることはできますか?

私は常に、権力、政治といったことに対して興味を引かれてきました。基本的人権の原則は基本的にトレードオフであり、さまざまな対立する緊張関係のなかで常に折衝がなされているものです。人間がそれに対して葛藤し、闘ってきたことは分かっていますし、私たちはみんな、バイアスや盲点だらけです。活動家の取り組み、地方、国、国際的な政府といったものは、すべてが遅く、非効率で、当てになりません。

もし人間の可謬(かびゅう)性がなかったら、と想像してみてください。集団として最善の状態の私たちを真の意味で反映し、究極的には私たちのために、より一貫性があって公平な、より良いトレードオフを実行できるAIを作り上げることは可能だと思います。

——今でもそれがあなたの動機づけになっているのですか?

もちろんです。ディープマインド以降、私は働く必要がなくなりました。本を書いたりする必要も当然ながらありませんでした。お金がモチベーション …

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