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 合成したクモの糸でネクタイを作った? だから何?
Synthetic Spider Silk for Sale in a $314 Necktie

合成したクモの糸でネクタイを作った? だから何?

夢の新素材として期待された人工のクモの糸を使った314ドルのネクタイが限定発売中だ。素材の特徴を活かさない製品の登場に、何の意味があるのか? by Katherine Bourzac2017.03.13

今後実現が期待できるテクノロジーといえば、カーボン・ナノチューブ製の軌道エレベーターや体を内側から治すナノ・ロボット、クモの糸製の防弾ベストなどがある。ただし、クモ由来の素材で作った製品ならすぐに手に入る。クモの糸製ネクタイが314.15ドルで限定発売されたのだ。

ボルト・スレッズは、世界で初めてクモの糸をネクタイとして商品化した、と金曜日に開催された「サウス・バイ・サウスウェスト」カンファレンス(テキサス州オースティン)で発表した。ボルトのデビッド・ブレズラー最高科学責任者(CSO)は、ネクタイ製造により、クモの糸製の繊維や生地を大量生産できることを示したいという。

しかし、伊勢丹メンズ館やブルーミングデールズ(米国の高級デパート)でクモの糸製の商品がすぐに並ぶわけではない。ネクタイは土曜日から、ボルトのWebサイト上で50本のみ予約受付中だ。ブレズラーCSOは、ネクタイは展示用であり、もっと多くの人に使える商品は後日発表するというが、商品の詳細については口を閉ざした。

クモの糸の性質は、バイオマテリアル研究者はもちろん、一般の人々までしばしば注目してきた。クモの糸のタンパク質構造は丈夫な結晶構造と柔軟性がある部分とが混在しており、非常に優れた性質がある。より合わせたクモの糸を研究所で試験したところ、最上級の糸は、鋼鉄やケブラー(防弾ベストの素材)に匹敵する強度を示した。クモの糸はさまざまな用途に活用できるだけでなく、クモの種類ごとに固有の組成がある。

Synthetic spider silk production at Bolt Threads.
クモの糸の製造現場(ボルト・スレッズ)

現在、多くのスタートアップ企業がクモの糸を研究所で人工的に再現しようとしている。そうした会社の多くは、ボルト同様、自然界のクモの糸のタンパク質の遺伝子配列をもとに、微生物発酵槽で培養し、タンパク質を繊維状に紡いで製造している(ボルトの製造方式については“Spinning Synthetic Spider Silk.”参照)。

出だしでつまずいた例もある。昨年5月、スパイバー(本社山形)は、ノース・フェイスがクモの糸製パーカーを日本国内向けに1000ドルで発売する、と大々的に発表した。しかし9月下旬、スパイバーは「素材の品質をより安定させるために製造工程を改善する」として発売延期を発表した。スバイバー代表者からのメールによれば、スバイバーは製造工程での改良を続けており、製品発売のタイミングはコメントできないという。

タフツ大学で絹を研究しているフィオレンツォ・オメネト教授は、ボルトが発表したネクタイは「研究所で合成された天然素材で製品開発ができると実証した」点で重要な意味があり、生地などへの応用を含めたバイオ製造業の今後を示すという。

ボルトのブレズラーCSOは、合成したクモの糸を何に活用するかの想定は、時代とともに移り変わるという。「クモの糸の長所をもとに弊社が想定する活用方法は、技術的素材」たとえば防弾ベスト用の繊維である一方、ボルトのネクタイに使われたクモの糸は、製造が難しい特別な繊維は使っていないという。

人工のクモの糸は、誇大広告の段階を過ぎて現実的な評価に落ち着く時が近づいているようだ。他の多くの新素材と同様。研究所で大発見の直後には用法をあれこれ想定するものだが、その後は詳細な研究と市場の動向が組み合わさり、夢の素材ではなくなる。

ただし、クモ由来の素材に使い道がないわけではない。ブレズラーCSOは、ボルトが大規模な製造を開始すれば、次はクモの糸のタンパク質をもとに、染料を吸収しやすく、染色時の水の使用量を大幅に抑えられる素材を使い始めるという。さらに生物分解性のクモの糸でできた装飾品もできるかもしれない。そうなれば、生分解性を活かしたクモの糸製の医療用インプラントや衣料品も登場するだろう。

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キャサリン ブルザック [Katherine Bourzac]米国版 契約編集者
カリフォルニア州サンフランシスコを拠点に活動するフリーランスのジャーナリスト。MIT Technology Reviewの契約編集者で、以前は材料科学担当編集者でした。材料科学やコンピューティング、医療についての記事を書いています。お気に入りは、ナノマテリアルならカーボンナノチューブで、準粒子ならプラズモンです。職業ジャーナリスト協会北カリフォルニア支部の理事も務めています。2004年に、MITのサイエンスライティング講座を修了しています。
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

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