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中国テック事情:AI人材争奪戦、トップ研究者はどこで働く?
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
Four things you need to know about China’s AI talent pool 

中国テック事情:AI人材争奪戦、トップ研究者はどこで働く?

世界トップクラスのAI専門家の4分の1以上が中国出身の研究者だ。かつては多くが米国に移動していたが、最新の分析では国にとどまる研究者が増えている。 by Zeyi Yang2024.04.11

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

MIT テクノロジーレビューは2019年、中国で人工知能(AI)分野の人材が急増していることを示す報告書を取り上げた。そこで示されていた最も重要な調査結果は非常に興味深いものだった。中国出身のエリートAI研究者の数は過去10年間で10倍に増えていたが、そのうち中国にとどまって働いている人は比較的少なかった。大半は米国に移住していたのだ。

その後、AI産業が最も活気あるテクノロジー部門へと大きく変化した重要な期間において、世界のAI人材構成がどのように変化したかを明らかにする最新分析を、同報告書を作成したシンクタンクが新たに発表した。

米中関係専門のシンクタンク、マクロポーロ(MacroPolo)は、AI分野の世界最高峰の国際学術会議とされるNeurIPS(ニューリップス)で採択された実績を持つトップ研究者の出身国、学歴、現在の勤務先を調査した。2019年に開催されたNeurIPSを分析した結果は、「The Global AI Talent Tracker(グローバルAIタレント・トラッカー)」としてまとめられた。

その最新版として今回発表されたのが、3年後の2022年12月に開催された「NeurIPS 2022」の分析結果である。

公開されたマクロポーロのこの報告書をぜひ読んでほしい。国際的な人材の流れが、すばらしいデザインのインフォグラフィックにまとめられている。

今回は、報告書の執筆陣に聞いた、最新の報告書の中で特に注目すべき点について紹介しよう。現在の世界のAI人材の状況について、最も知っておくべき4つの点を以下に示す。

1.  中国はAI人材を育成する上でますます重要な国になった。

2019年の時点でも、中国人研究者はすでに世界のAIコミュニティで重要な役割を担う存在になっており、トップクラスのエリートAI研究者の10分の1を占めていた。2022年にはその割合は26%へと増加し、トップである米国の座に近づきつつある(米国人研究者の割合は28%)。

「タイミングが重要です」。マクロポーロのシニア・リサーチ・アソシエイトで、今回の報告書の筆頭著者の1人であるルイハン・フアンは話す。「過去3年間、中国は大学システム全体でAIプログラムを大幅に拡充してきました。なぜなら、中国はその人材を吸収するAI産業も構築していたからです。現在では約2000のAI関連専攻があります」。

こうした大学と産業界の取り組みの結果、AI産業に就職するコンピューター科学や他のSTEM分野を専攻する学生が増え、中国の研究者が最先端のAI研究を支える中心的存在になっている。

2. AI研究者は現在、大学院の学位を取得した国にとどまる傾向にある。 

これは直感で理解できることかもしれないが、それにしてもその割合は驚くほど高い。米国の大学院に進学したAI研究者の80%が米国にとどまり、中国の大学院に進学したAI研究者の90%が中国にとどまっていた。

AI開発の主導権をめぐって主要国がしのぎを削る時代において、この発見は、大学院レベルの教育機関に投資し、海外の学生を呼び込むという、各国が研究能力を拡大するために使える手立てを示している。

これは、米中関係においては特に重要だ。米中関係の悪化は学術分野に影響を及ぼしているからだ。報道によると、トランプ政権時代の政策が根強く残っているため、近年、かなりの数の中国人大学院生が米国国境で尋問を受けたり、入国を拒否されたりしている。パンデミック期間に課された国境管理措置とともに、このような敵意は、より多くの中国人AI専門家が米国で学び、働くことを妨げている可能性がある。

3. 米国は依然として圧倒的に多くのAI人材を惹きつけているが、中国はその米国に追いつきつつある。

2019年と2022年の優秀なAI研究者の勤務地ランキングでは、米国がトップだった。しかし、米国と他国、特に中国との差が縮まっていることも明らかだ。2019年には、トップAI研究者の5分の3近くが米国で働いていたが、2022年にはその割合は5分の2へと減少している。

「エリート人材は一般的に、活気あふれる最先端の環境で働きたいと考えています。彼らはすばらしい仕事をして、それに対して報酬を得たいと思っています」。マクロポーロのシニア・リサーチ・アソシエイトで、筆頭著者の1人であるAJ・コルテーゼは説明する。「今のところ、一流の教育機関から企業まで、トップクラスの人材を惹きつけるAIエコシステムを持っているという点では、米国がまだリードしています」。

2022年には、トップAI研究者の28%が中国で働いていた。この割合の高さは、中国国内のAI分野の成長と、それが生み出した雇用機会を物語っている。2019年と比較すると、AI研究を生み出す上位機関に中国の大学3校と企業1社(ファーウェイ)が新たに加わっている。

中国のAI企業の多くが、まだ米国の同業他社に遅れをとっていると考えられているのは事実だ。たとえば、中国は生成AIモデルのリリースにおいて、米国に数か月遅れをとっている状況だ。ただし、中国も追いつき始めてはいるようだ。

4. 現在、トップクラスのAI研究者は自分の国で研究したいと考える傾向が強くなっている。

これはおそらく、今回のデータにおける最も驚くべき最大の変化だと私は考えている。中国のAI研究者たちと同様、より多くのインドのAI研究者が、自国にとどまって仕事をするようになっている。

実際、この傾向は世界的にあてはまるようだ。以前は、AI研究者の半数以上が母国とは異なる国で仕事をしていた。今では、母国で仕事をする研究者の方が多くなっている。

これは、AI研究でリードする米国に追いつこうとしている国々にとって朗報だ。コルテーゼによると、「ほとんどの国が『頭脳流出』よりも『頭脳獲得』を望んでいることは言うまでもありません。特に、AIのような複雑で高度な技術分野の場合はその傾向が強いものです」 。

自国の才能を保持するだけでなく、他国から研究者を呼び込むことができる環境や文化を作り出すのは容易なことではないが、現在多くの国がそれに取り組んでいる。数年後のレポートがどのようなものになっているか、ある程度は想像することはできそうだ。

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1. 香港で国家安全維持に関する厳しい法律が可決された。これによって、中国政府の統治に対して抗議を行うことがより難しくなる。(BBC

2. フランスでは、環境への悪影響を理由に、シーイン(Shein)や同様のウルトラ・ファスト・ファッション企業に対し、同国で販売される商品1点につき最大10ユーロもの高額な罰金を科す法案が可決された。(日経アジア

3. ファーウェイは、最先端テクノロジーを利用せずに先端チップを製造する手法の特許を申請した。(ブルームバーグ

4. テスラは上海工場に対し、通常週6日半の生産を週5日に減らすよう指示した。中国でのEV販売の減速が原因と考えられる。(ブルームバーグ

5. ティックトック(TikTok)は依然として多くの問題を抱えている。米国大統領選における激戦区である3つの州で、ほとんどの人が名前を聞いたこともないバイトダンスの副社長、張富平を攻撃する新しい政治広告(謎の新興非営利団体が費用を負担)がテレビ放映されている。(パンチボウル・ニュース

  • ティックトックはまだユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)とライセンス契約で合意に達していないため、ユーザーは動画の代替サウンドトラックを見つけるために工夫せざるを得なくなっている。(ビルボード

6. 中国は、月の裏側を探査するミッションの信号を中継するのに役立つ通信衛星を打ち上げた。(ロイター通信

中国でいまもっとも話題の生成AI技術

中国メディア『新浪科技』によると、最近中国で最も注目されている生成AIアプリは「Kimi」だという。中国の「ユニコーン」スタートアップ企業である月之暗面(Moonshot AI)がリリースしたKimiは最近、漢字200万文字を超える長文入力に対応できるようになったと発表し、大きな話題となった(ちなみに、中国語入力に関しては、オープンAIのGPT-4 Turboは現在10万文字、20万トークンのClaude 3=クロードは約16万文字の入力に対応している)。

このアプリが話題になっている理由の一部は、最近強化されたマーケティングによるものだ。中国のユーザーは現在、人気のある名著をこのKimiに入力し、どれだけ文脈を理解できるかをテストするのに大忙しだ。脅威を感じたバイドゥ(Baidu:百度)やアリババといったハイテク大手が所有する他の中国AIアプリもこれに追随し、近々500万文字、あるいは1000万文字の漢字入力に対応すると発表した。しかし、大量テキストの処理は話題にはなるものの、非常にコストがかかる。これは企業が向かうべき商業的な方向ではないと懸念する見方もある。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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