KADOKAWA Technology Review
×
来れ!世界を変える若きイノベーター。IU35 2025 候補者募集中。
それでもなお、
量子コンピューターが
人類に必要な理由
PsiQuantum
コンピューティング Insider Online限定
Useful quantum computing is inevitable—and increasingly imminent

それでもなお、
量子コンピューターが
人類に必要な理由

人工知能(AI)ブームによって、量子コンピューターの役割を疑問視する声がある。だが、AIは現在の常識に基づくデータで訓練されたものだ。大規模な量子コンピューターが実用化されれば、人類にとって未知の世界が開かれるだろう。 by Peter Barrett2025.02.05

この記事の3つのポイント
  1. エヌビディアCEOの予測に反し、量子コンピューターの実用化は近づいている
  2. 現在のコンピューターやAIでは、物質の量子的性質を正確に計算できない
  3. 量子コンピューターは化学・材料・医療分野に革新をもたらす可能性がある
summarized by Claude 3

1月8日、エヌビディア(Nvidia)のジェンセン・フアン最高経営責任者(CEO)は、実用的な量子コンピューティングの実現にはまだ15〜30年かかると述べ、同時に、量子コンピューターに必要なエラー訂正機能の実装には同社のGPUが必要になると示唆して、株式市場に衝撃を与えた。

しかし、歴史が示すように、優秀な人物でも間違いを犯すことがある。フアンCEOの予測は、有用な量子コンピューティングが実現する時期についても、その将来における同社のテクノロジーの役割についても、的外れである。

私は投資家として量子コンピューティングの動向を注視してきたが、このテクノロジーが急速に実用化へと近づいていることは明らかだ。昨年、グーグルの量子チップ「Willow(ウィロウ)」は、より大規模なコンピューターへとスケールアップするための有望な道筋があることを証明した。このチップは、量子ビット(キュービット)の数が増えるほど、エラー率が指数関数的に減少することを示した。また、現在最速のスーパーコンピューターなら10の25乗年(10セプティリオン年)かかるベンチマークテストを、わずか5分以内で完了させた。既知のアルゴリズムでは商業的に実用化するには不十分な規模であるものの、Willowは量子超越性(従来のコンピューターでは現実的な時間内に達成できないタスクを実行する能力)とフォールトトレランス(エラーが発生するよりも速く修正する能力)の実現可能性を示している。

例えば、私の会社が投資しているスタートアップ企業のサイクオンタム(PsiQuantum)は、2台の量子コンピューターの開発に着手しており、2020年代のうちに商用サービスを開始する予定だ。計画では、それぞれの量子コンピューターがWillowの1万倍の規模となり、材料科学、医薬品開発、自然界の量子的側面に関する重要な問題に取り組むのに十分な性能を備えることになる。これらのコンピューターは、エラー訂正機能の実装にGPUを使用しない。その代わり、エヌビディアの半導体では実現できない速度で動作するカスタム・ハードウェアを搭載する予定だ。

一方で、量子アルゴリズムはハードウェアよりもはるかに速いペースで進化している。製薬大手ベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim)とサイクオンタムの最近の協業では、重要な医薬品や材料をシミュレートするアルゴリズムの速度が200倍以上向上したことが実証された。また、私の会社の別の投資先であるフェーズクラフト(Phasecraft)は、さまざまな結晶材料のシミュレーション性能を向上させ、広く使用されている材料科学アルゴリズムの量子強化バージョンを公開した。このアルゴリズムは、既存のハードウェア上で動作する従来のあらゆるアルゴリズムを凌駕するレベルに迫っている。

こうした進展から、私は有用な量子コンピューティングが実現するのは必然であり、その到来はますます間近に迫っていると確信している。そして、これは朗報でもある。なぜなら、量子コンピューターは、AIや従来型のコンピューターでは決して達成できない計算を実行できると期待されているからだ。

現在、人類は化学についてすべてを理解しているとは言えない。だからこそ、私たちは有用な量子コンピューターが持つ可能性に関心を持つべきなのだ。私たちは、最も重要な医薬品の多 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. It’s pretty easy to get DeepSeek to talk dirty 「お堅い」Claude、性的会話に応じやすいAIモデルは?
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
  3. Google’s new AI will help researchers understand how our genes work グーグルが「アルファゲノム」、遺伝子変異の影響を包括的に予測
  4. When AIs bargain, a less advanced agent could cost you 大規模モデルはやっぱり強かった——AIエージェント、交渉結果に差
  5. OpenAI can rehabilitate AI models that develop a “bad boy persona” AIモデル「問題児」、わずか100件のデータで更生=オープンAI
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る