KADOKAWA Technology Review
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洋上ロケット発射が急加速、
目指すは宇宙基地のマック
Costfoto/NurPhoto via AP
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The dream of offshore rocket launches is finally blasting off

洋上ロケット発射が急加速、
目指すは宇宙基地のマック

ロケット打ち上げの頻度が急増している現在、既存の宇宙基地は操業能力の限界に達しつつある。今後、洋上プラットフォームからのロケット発射が本格化することで、規制の網を逃れ、宇宙ミッションが劇的に増加するかもしれない。 by Becky Ferreira2025.02.14

宇宙に何か送り込みたい?それなら順番待ちが必要だ。地球外への旅の需要はいま急増しており、フロリダのケネディ宇宙センターのような世界屈指の多忙な宇宙基地でさえ、操業能力の限界に達しつつある。全世界の軌道投入の実施回数は過去4年間で2倍以上に増加し、かつて年間約100件だったのが、今や250件にのぼる。この数字は今後10年間でさらに膨れ上がると予想され、民間宇宙セクターの急成長がこれを後押ししている。

渋滞緩和のため、宇宙ミッションを計画する組織の一部は、次なる宇宙への玄関口として海に注目しはじめている。中国は2019年以降、10以上の宇宙ミッションで洋上発射を実施しており、直近では2025年1月に実施した。イタリアの宇宙プログラムはケニア沖の洋上発射台の再稼働を発表し、ドイツの宇宙計画関係者は北海での洋上宇宙基地建設の展望を語る。米国でも、洋上発射というアイデアはスペースX(SpaceX)などの主要企業が注目しており、こうした背景からスペースポート・カンパニー(Spaceport Company)という新たなスタートアップ企業が誕生した。

荷船や石油掘削装置のような洋上プラットフォームからのロケット発射には、数々の利点がある。何よりもまず、発射台建設の候補地を劇的に増やすことができる。とりわけ赤道付近の候補地は、極よりも遠心力が大きく、天然の加速機能が得られるため重要だ。同時に、洋上発射は人口稠密地や繊細な生態系から遠く離れた場所で実施されるため、より安全性が高く、環境影響が小さい可能性がある。

洋上発射は過去数十年の間に散発的に実施されてきた。しかし、洋上宇宙基地への関心の復活は、規制、地政学、環境に関する、洋上発射に特有のトレードオフをめぐる数々の疑問を提起する。発射能力に制限がなくなる可能性が出てきたことで、新たなテクノロジーや産業が勃興し、私たちの生活は根本的な転換を迎えるかもしれない。そんな未来を垣間見せるものでもある。

「数十、数百、ひょっとしたら数千の宇宙基地が存在する未来を実現するためのいちばんの方法は、洋上に建設することです」。洋上発射基地の普及に挑むスペースポート・カンパニーの最高経営責任者(CEO)兼創業者、トム・マロッタは語る。「宇宙基地建設に必要な数千ヘクタールの土地を、地上で何度も繰り返し確保するのはきわめて困難です。一方、同じ船を何度も繰り返し製造するのはとても簡単です」。

洋上発射の歴史

洋上宇宙基地というビジョンは、ロケットそのものと同じくらい長い歴史を持つ。海から発射された最初の大型ロケットは、第二次世界大戦中にドイツが開発した悪名高いV2だった。のちに米国に採用され、1947年9月6日、米国海軍がバミューダの南で、空母ミッドウェイからこのミサイルを発射したのだ。

記念すべき最初の発射は、やや評価の分かれるものとなった。当時18歳でミッドウェイに配置されていた技師のニール・ケイシーはのちの回想で、ミサイルの軌道が右舷方向に危険なレベルで傾き、空母の司令中枢である艦橋に向かったことを明かした。

空母ミッドウェイ博物館の展示によれば、「ロケットの軌道は問題なく追跡できました」と、ケイシーは語ったという。「もう少しで艦橋を直撃するところでした」。

危うく大惨事になるところだったにもかかわらず、発射試験は成功とみなされた。洋上プラットフォームからのロケット発射が技術的に可能であることが実証されたからだ。これにより、軍艦や潜水艦といったさまざまなミサイル搭載船舶の開発が活発化し、以来こうした船舶がひっきりなしに海を行き交うようになった。

もちろん、ミサイルは地上の標的を攻撃するために設計されており、宇宙を目指すわけではない。しかし1960年代前半、米国のロケット技術者ロバート・トルアックスが、壮大なビジョンを追求しはじめた。それが「シードラゴン(Sea Dragon)」である。

高さ約150メートルのシードラゴンは、実現すればアポロ計画のサターンV(Saturn V)やスペースXのスターシップ(Starship)を超える、規格外の史上最大のロケットとなったはずだ。このようなロケットの離陸の衝撃に耐えられる地上発射台は存在しない。これほど巨大なロケットは、海面下からのみ発射可能だ。クジラのブリーチング(大ジャンプ)のように海面を割って姿を現し、渦を残して飛び立っていくのだ。

トルアックスがこの驚愕のアイデアを提案したのは、1963年にロケット・ミサイル製造企業エアロジェット・ジェネラル(Aerojet General)に勤めていた頃だった。彼は小規模なプロトタイプでの実験さえ実施した。その1つが「シービー(Sea Bee)」で、サンフランシスコ湾の水中から発射された。シードラゴンが実現することはなかったが、このコンセプトは数十年にわたり、宇宙を夢見る人々の想像力をかき立ててきた。直近では、海中発射のシーンがアップルTV+のシリーズ『フォー・オール・マンカインド(For All Mankind)』で描かれた。

トルアックスは不気味なくらい、未来の宇宙飛行のトレンドの多くを予見していた。実際、各国政府や民間企業はその後、海がもたらす利便性を活用できる洋上発射プラットフォームの開発に乗り出した。

「赤道付近の発射拠点はもっともニーズがあります」と、アラブ首長国連邦にあるアメリカン大 …

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