宇宙から覗く森の秘密——衛星CTスキャンが測定する炭素貯蔵量
森林は海に次ぐ地球第二の炭素吸収源でありながら、その実態を測定する手段は限られていた。欧州宇宙機関(ESA)とエアバスは、この課題に挑むため、史上最大の宇宙レーダーを搭載した人工衛星「Biomass」を開発。P波帯域を活用し、樹冠下の観測を実現する。 by Jacek Krywko2025.04.24
- この記事の3つのポイント
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- ESAとエアバスが世界中の樹冠下を観測できる衛星Biomassを開発した
- Pバンドレーダーを搭載し森林の炭素吸収量を詳細にマッピングする
- 森林の炭素吸収量の把握に大きく貢献すると期待されている
森林は、地球上で海に次いで2番目に大きな炭素吸収源である。森林が吸収する炭素量を正確に把握するために、欧州宇宙機関(ESA)とエアバスは、長年使用が禁じられていた電波帯域を利用して、世界中の樹冠下を観測できる人工衛星「Biomass(バイオマス)」を開発した。この衛星は4月末にフランス領ギアナから打ち上げられる予定で、宇宙で運用されるレーダーとしては史上最大のものとなる。ただし、今年後半に打ち上げが予定されている米印共同の画像衛星「NISAR(ナイサー)」が、軌道上でその記録に並ぶことになる。
樹木の乾燥質量のおよそ半分は炭素で構成されているため、森林の重さを正確に測定できれば、その森林が大気中から吸収した二酸化炭素の量を推定できる。しかし、科学者たちにはその質量を直接測定する手段がない。
「生物量を測定するには木を切り倒して重さを量る必要があります。そのため、私たちは間接的な測定手法を使っているのです」。Biomassミッションのマネージャー、クラウス・サイパルは語る。
こうした間接的な手法は、森林官が樹木の間を歩き回って樹高や直径を測定するフィールド・サンプリングと、飛行機やドローンに搭載されたライダースキャナーで上空から飛行ラインに沿って樹高を測定するリモートセンシング技術の組み合わせに依存している。この方法は、確立された森林管理システムがある北米や欧州ではうまく機能している。「そこではすべての木が把握されており、多くの測定が実施されています」(サイパル)。
しかし、世界の樹木の大半は、アマゾンのジャングルのような地図化が不十分な地域に存在し、地上で詳細な調査が実施された森林は全体の20%にも満たない。こうした人がほとんど立ち入ることのできない遠隔地の生物量を把握するには、宇宙ベースの森林センシング技術が唯一の実現可能な選択肢である。問題は、現在軌道上にある人工衛星には、樹木のモニタリングに必要な機能が備わっていないことだ。
宇宙から見た熱帯雨林は、まるで緑の絨毯のように見える。なぜなら、見えるのは樹冠だけだからだ。そのような画像からは、樹木の高さや太さはわからない。「センチネル1号」のような人工衛星に搭載されているレーダーは、3.9〜7.5センチメートルの波長を持つCバンドのような短波長の …
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