AIブームを支える
「データセンター銀座」は
砂漠地帯にあった
生成AIブームの到来で米国ネバダ州北西部が世界最大級のデータセンター集積地へと変貌しつつある。同時に、米国で最も深刻な干ばつに見舞われている同州では、水不足への懸念が高まっている。 by James Temple2025.06.13
- この記事の3つのポイント
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- 米国ネバダ州でAIデータセンターの建設が急増している
- データセンターは大量の水と電力を消費する可能性がある
- ピラミッド湖パイユート族など地元関係者は水資源への影響を懸念している
米国ネバダ州の都市・リノ東部に広がる高地砂漠で、建設作業員たちが黄金色に輝く丘陵地帯を整地し、データセンター都市の基礎を築いている。
「バージニア・レンジ」と呼ばれる山脈の麓に広がるこの丘陵地帯に、デトロイト市の面積を上回るビジネスパーク「タホ・リノ・インダストリアル・センター(以下、TRIセンター)」がある。ここでは、グーグル、トラクト(Tract)、スイッチ(Switch)、エッジコア(EdgeCore)、ノーヴァ(NOVVA)、ヴァンテージ(Vantage)、パワーハウス(PowerHouse)といった企業が一様に、巨大な施設を運営したり、建設・拡張したりしている。
マイクロソフトはTRIセンター内に1平方キロメートル弱の未開発地を購入し、その近隣のシルバースプリングスにもさらに広大な土地を取得した。アップルは、トラッキー川を挟んでTRIセンターの対岸にある同社のデータセンターを拡張している。オープンAI(OpenAI)は、ネバダ州でのデータセンター建設を検討していると発表している。
人工知能(AI)モデルの訓練と運用、そしてクラウドへの情報保存のために計算機資源を大量に確保しようと企業が競争した結果、この砂漠地帯でのデータセンター建設が急増している。ネバダ州で住民が暮らす地域からは距離があるため、広く認知されることもなく、適切な監視を免れるのではないかと懸念する声もある。
こうした開発の全体像や潜在的な環境影響については、まだ明らかになっていない。その主な理由は、施設の規模、エネルギー需要、水使用量といった情報が、企業秘密として厳重に管理されているからだ。これらの企業のほとんどはMITテクノロジーレビューの問い合わせに応じず、プロジェクトに関する追加情報の提供も拒否した。
しかし、昨年末まで長年にわたってTRIセンターのプロジェクト・マネージャーを務めていたクリス・トンプソンは、「現在、多くの建設工事が進行しています」と話す。「私が最後に聞いた数字では、現在建設中の面積は約120万平方メートルに達しているとのことでした。非常に大規模なものです」。
120万平方メートルというと、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルをほぼ5棟平らに並べた面積に相当する。さらに、ネバダ州で電力供給をほぼ独占するNVエナジー(NV Energy)が提出した公的文書から、この地域を中心に進められている12件のデータセンター・プロジェクトが、今後10年以内に合計で約6ギガワットの電力容量を必要としていることが明らかになった。
この計画が予定通りに進めば、「世界最大の小都市」として知られるリノ大都市圏は、世界最大級のデータセンター市場のひとつになるだろう。さらに、持続可能かどうかも定かではないこの爆発的な成長段階にある単一産業のために、ネバダ州の電力供給能力を約40%も拡大する必要が生じる可能性がある。エネルギー需要から推計すると、これらのデータセンター・プロジェクトは年間で数十億〜数百億リットルもの水を消費する可能性があることが、この記事のために実施した分析から判明している。
米国で最も乾燥した州のわずかな一帯に、膨大なエネルギーと水を消費するデータセンター群が密集して建設されていることに対し、水資源の専門家、環境団体、そして地域住民の間で懸念の声が高まっている。この地域は、気候変動の影響によって米国内で最も急速に気温が上昇している場所でもある。懸念を示す人々の中にはピラミッド湖パイユート族も含まれており、彼らの居留地内にあるピラミッド湖は、地域の主要な水源であるトラッキー川の終着点に位置している。
ネバダ州の広範な地域では、長年にわたって深刻な干ばつが続いている。農家や地域社会は、州内の地下水資源を自然の補充速度を超えるペースで汲み上げており、多くの帯水層が枯渇しつつある。さらに、地球温暖化の影響で、河川や低木、土壌からますます多くの水分が奪われている。
「企業に対してデータセンター用にさらなる地下水の採取を許可するということは、適切な水資源管理がなされているのか、疑問に思います」。ネバダ州とユタ州全域で水資源保護に取り組む非営利団体、グレートベイスン・ウォーター・ネットワーク(Great Basin Water Network)のカイル・ローリンク事務局長は言う。
「データセンターの需要によって水政策が左右されるような、主客転倒の状況に陥るのは避けたいのです」。
データセンターの誘致
1850年代後半、リノ南東部のバージニア・レンジに連なるコムストック・ロードの一角で米国初の大規模な銀鉱床が発見され、全国から金銀を求めて探鉱者が集まった。しかし、1990年代後半には、コムストック・ロードのあるネバダ州ストーリー郡には住民はほとんどおらず、経済的な展望も乏しかった。ちょうどその頃、メディアに姿を現さない不動産投資家のドン・ロジャー・ノーマンが、セージブラシという低木に覆われたこの丘陵地帯に新たな投資機会を見出していた。
ノーマンは数千万ドルを投じて数百平方キロメートルの土地を買い集め、後にTRIセンターとなる地域に工業プロジェクトを誘致するため、開発許可の取得に奔走した。彼のパートナーには、カウボーイハットをかぶった不動産ブローカーのランス・ギルマンがいた。ギルマンは、後に近くの売春宿「マスタング・ランチ」を買収し、郡政委員にも就任した。
ストーリー郡は1999年、TRIセンター内での大半の商業・工業プロジェクトについて、企業が開発を事前承認された状態で実施できる条例を可決し、開発プロセスにかかる期間を数か月から数年短縮した。この制度は、ウォルマート、テスラ、レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)といった、大規模プロジェクトを迅速に立ち上げたい企業との契約締結につながった。そして今では、この迅速な許認可制度が、ギガワット規模のデータセンター誘致を後押ししている。
1月の青空が広がる涼しい午後、NAIアライアンスで産業不動産部門を統括する商業不動産ブローカーのブライアン・アーモンが、私をこの地域のプロジェクト視察に案内してくれた。主にTRIセンター周辺を車で巡るツアーだった。
州間高速道路80号線を降りて州道439号線(通称USAパークウェイ)に入ると、ギルマンはクレーンやブルドーザー、捨石を使った基礎を指さした。そこではさまざまなデータセンターの建設工事が進行中だった。TRIセンターのさらに奥へ進むと、アーモンは、セメント壁とセキュリティゲートの上に設けられた台地に建つ、スイッチの施設の近くで車を停めた。それは、アーチ型の屋根を持つ低層で細長い建物だった。スイッチはラスベガスに本社を置くデータセンター企業で、発表によれば同社のデータセンター・キャンパスは第1期だけで100万平方メートルを超え、最終的にはその7倍の規模に拡張される予定である。
次の丘を越えると、私たちはグーグルの駐車場でUターンした。検索エンジン大手の既存データセンターの背後にはクレーン、テント、鉄骨、建設機械が立ち並び、同社が2017年に取得した約4.9平方キロメートルの区画の大部分を埋め尽くしていた。
グーグルは昨年8月、ネバダ大学リノ校でのイベントにおいて、このデータセンター・キャンパスとラスベガスにある別の施設の拡張に4億ドルを投じる計画を発表した。
トンプソンによれば、開発主体であるタホ・リノ・インダストリアル有限責任会社(TRI)は、TRIセンター内の開発可能な全区画をすでに売却済みだという(ただし、暗号資産関連のテナントによる高リスクな計画の失敗により、いくつかの区画は再販売が可能な状態になっている)。
なぜこれほど多くのデータセンターがこの地に集まっているのかと尋ねると、アーモンはまず迅速な許認可制度を挙げたが、ほかにも多くの魅力があると語った。例えば、土地が安価であること。NVエナジーが比較的低コストで電力供給契約を結ぶ姿勢を示していること。砂漠地帯としては夜間や冬の気温が比較的低く、それがエネルギーや水の使用量の削減につながること。さらに、ミリ秒単位の遅延が問題となるアプリケーションにとって有利なシリコンバレーなどのテックハブへの近さ、そして少なくとも大部分において、施設の稼働を停止させるような自然災害が発生しにくいこと、などである。
「この地域は地震活動が活発です」とアーモンは明かす。「しかし、それ以外はすべて良好です。竜巻も洪水も、壊滅的な山火事もありません」。
さらに、手厚い税制優遇も大きな魅力である。
ネバダ州には法人所得税がなく、州内に拠点を構えるデータセンターに対しては、特別な大幅減税措置も導入されている。この優遇措置には、10~20年間にわたり固定資産税を最大75%減税する制度や、施設向けに購入された機器に対して課される売上税および使用税の同程度の減税が含まれる。
データセンターの運営に必要な常勤従業員は少ないが、これらのプロジェクトは数千人規模の建設関連雇用を生み出してきた。ネバダ州北部開発局の事務局長であるジェフ・スティッチによると、データセンターは地域経済のカジノ依存からの多様化にも貢献し、州・郡・市に莫大な税収をもたらしているという。実際、ネバダ州知事経済開発局によれば、アップル、グーグル、ヴァンテージが手がける3件のデータセンター・プロジェクトだけでも、寛大な減税措置を適用したとしても、州に約5億ドルの税収をもたらす見込みだという。
ただし、公衆衛生への影響、温室効果ガス排出、膨大なエネルギー消費、水資源への圧力といった負の側面を踏まえたとき、こうしたデータセンターがネバダ州民にとって本当にそれ以上の価値をもたらしているのかどうかは、依然として議論の余地がある。
雨陰
カリフォルニア州の東端に沿ってそびえるシエラネバダ山脈の花崗岩の峰々は、太平洋から吹く風を上昇させて冷却し、空気中の水蒸気を雨や雪に変える。この降水は山脈の支流、河川、湖に流れ込む。
しかし、同じ気象現象が、風下となるネバダ州の広範囲にわたって雨量が少なくなる「雨陰」を生じさせ、広大で乾燥したグレートベースン砂漠を形成している。ネバダ州の年間平均降水量は約250ミリで、全米平均の約3分の1にすぎない。
トラッキー川は、シエラネバダ山脈の雪解け水が流れ込むタホ湖から始まり、山脈を下ってリノとスパークスの平野を蛇行しながら流れる。そして、TRIセンターから数キロ離れた場所にある、開拓法に基づいて建設されたダービーダムで二手に分かれる。水の一部はさらに東の農業地帯へと導かれ、残りは北へ流れてピラミッド湖に至る。
川の流路には、貯水池、運河、浄水施設などの人工インフラが整備されており、地域の企業、都市、町、そして先住民族に水を供給している。しかし、ネバダ州の人口と経済は拡大を続けており、限られた水資源への需要が増大している。
米国西部では、20年以上にわたって異常な乾燥が続いており、ネバダ州は2020年代の大半、記録上最も暑く、最も広範囲に及ぶ干ばつに見舞われた。一部の科学者は、これが新たな「メガ干ばつ」、広範囲かつ長期的に継続する深刻な干ばつの兆候ではないかと懸念している。
現在、ネバダ州の約50%の地域が中程度から非常に深刻な干ばつ状態にある。さらに、州内にある数百の地下水盆のうち半数以上が「過剰割り当て」の状態にある。つまり、文書上で認められている水利権の総量が、実際に地下に存在すると推定される水量を上回っているということだ。
気候変動によってネバダ州の降水量が将来的に増えるのか減るのかは不明である。しかし、降水パターンはより不規則になると予測されており、短期的な集中豪雨と、より頻繁で長期化する深刻な干ばつの間を激しく振動するようになるだろう。
さらに、将来的には降水の多くが雪ではなく雨として降るようになり、シエラネバダ山脈の積雪期間は今後数十年で数週間から数か月短くな …
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