デザイナーベビーの科学者、
起業家の新妻と描く復活劇
CRISPRベビーを誕生させて服役していた中国人科学者のフー・ジェンクイが出所して約3年、ネット上で再び注目を集める存在になっている。その黒幕となっているのは、29歳のカナダ人起業家でフーの新妻でもあるキャシー・タイだ。 by Antonio Regalado2025.05.29
- この記事の3つのポイント
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- フー・ジェンクイは遺伝子編集ベビーを作った罪で服役した後、科学界への復帰を目指している
- フーは起業家のキャシー・タイと結婚したが、中国への入国拒否などで混乱が生じている
- 2人は遺伝子編集ベンチャーを立ち上げたが、現在は進行が止まっている状態だ
中国の生物物理学者、フー・ジェンクイ(賀建奎)は2022年に刑務所から釈放されて以来、科学界への復帰を目指してきた。フーは、世界初の遺伝子編集された子どもを違法に誕生させた罪で3年間服役した後、自身の評判を回復しようとしている。
フーは都市、仕事、投資家との会議を行ったり来たりしているが、彼の復帰の道のりで目に見える成功を収めているのがXのアカウント@Jiankui_Heだ。このアカウントはフーの考えを世界に広める主な手段となっている。フーがXでの活動を始めた2022年9月以来、このアカウントでは彼の主要な研究テーマについて語られており、その中には遺伝子編集された子どもを増やすという自身の夢に対してより慎重なアプローチを取ることを約束する内容も含まれている。「私は夢を実現します。ただし、それは社会が受け入れた後にです」。フーは2024年8月の投稿でこう述べている。また、彼はゴルフや家族の写真など、自身の日常生活の平凡な画像も投稿していた。
しかし、時が経つにつれてその内容は変化し、世間の注目を浴びるようになった。最初は壮大な文言(「すべての開拓者や預言者は苦しまなければならない」)を添えた一連の自撮り(セルフィー)から始まり、今年の4月には特に乱暴で、荒らしのような内容にまでなり、奇妙なメッセージが投稿された(「おはよう、ビッチたち。今日はいくつの胚を遺伝子編集したのかい?」)。このため、見ている者は何を真に受けていいのか、分からなくなっている。
MITテクノロジーレビューが4月に、「このアカウントが巧妙なミームで溢れているように変化したのは誰の影響ですか」と質問をしたところ、フーからは次のような返信メールが届いた。「それはキャシー・タイのおかげです」。
タイのことを知らない読者もいるかもしれない。彼女が世間のスポットライトを浴びるのはこれが初めてではない。かつてティール・フェロー(編集部注:億万長者のピーター・ティールによる、若い起業家に助成金を提供するプログラムの参加者)に選ばれたこともある彼女は、暗闇で光るペットを作ると発表して注目を浴びている「ロサンゼルス・プロジェクト(Los Angeles Project)」のパートナーだ。しかしここ数週間、29歳のカナダ人起業家であるタイは、フー・ジェンクイの新妻(そして明らかにソーシャルメディアの黒幕)として、ますます注目されつつある。フーは2025年4月15日、新たなベンチャー企業である「キャシー・メディシン(Cathy Medicine)」の設立を発表した。同社はヒトの胚を編集し、アルツハイマー病やがんなどの病気に耐性を持つ人間を作り出すというフーの使命を担う企業になるという。それからわずか数日後の4月18日にはフーとタイの結婚が発表され、中国の伝統的な婚礼衣装に身を包んだ2人の写真が投稿された。
しかし今、タイは「世界で最も物議を醸す科学者」と結婚してわずか1カ月で、フーと一緒に住むためにロサンゼルスから北京に移住する計画に混乱が生じていると話している。彼女は中国への入国を拒否され、フーはパスポートを中国当局に押収されて出国できないため、2人は「二度と会えないかもしれない」というのだ。
マニラで電話取材に応じたタイは、5月17日に飛行機の乗り継ぎの際にフィリピン当局により止められ、中国(タイが生まれた国であり、彼女によると10年間の有効なビザを持っている)行きの飛行機には搭乗できないと告げられたと語った。理由は不明だが、「監視リストに載っている」可能性が高いと言われたそうだ(本誌の取材ではタイの説明の裏付けを取ることはできなかった)。
「私は自分の結婚のことを心配していますが、それ以上にこのことが人類と科学の未来にとって何を意味するかを心配しています」。タイは自身のXアカウントにこう投稿している。
遺伝子編集界で相性抜群の2人
フーとタイのロマンスはここ数週間、フーのXのフィード上での一連の投稿を通じて公の場で繰り広げられてきた。その様子は、遺伝的な改変を目的とした遺伝子編集の未踏の可能性、つまりIVF(体外受精)の培養皿上の胚の段階で人間のDNAを編集するという主張とともにぎこちないセルフィーを投稿するスタイルのおかげで、2024年末にはすでに注目され始めていた。
「人類はもはやダーウィンの進化論に支配されることはありません」。フーは2025年3月にこう投稿している。この投稿には彼が誰もいない研究室に立って遠くを見つめている写真が添えられており、970万ビューを獲得している。そして1週間後、1330万ビューを得たのが、「倫理が科学のイノベーションと進歩を妨げています」という投稿だ。
4月に入ると、フーのフィードはさらに劇的に変化し始めた。
彼の投稿はますます挑発的なものになり、より自然な英語で書かれ、ネット文化に対する独特の感性を備えたものになった。4月15日には「猫耳少女を期待するのはやめてください。私が目指しているのは病気の治療です」 …
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