原発か?天然ガスか? 急増するAIの電力需要が迫る選択
AIモデルが稼働するデータセンターにおける電力需要を賄うのに原子力発電に期待する声は多い。だが、天然ガス発電所が既定路線となっているのが現実であり、気候対策の大きな障壁となる可能性が高い。 by Casey Crownhart2025.06.05
先月公開した本誌の「AIとエネルギーの未来」特集は、人工知能(AI)のエネルギー需要の予想を厳しく見つめるものだ。
今回は、特集号のために私が書いたある1つの記事について話したい。それは原子力エネルギーに焦点を当てたものだ。AIのエネルギー需要に直面する中で、原子力発電を救世主のように期待する声を多く聞いてきた。そのため、今回まとめた記事の中に、これは重要な追加事項だと考えた。ここ数年の業界に関する取材から、私はこの考え方に少し懐疑的になっている。
私がその路線に沿って報道を続けた中で発見したように、新しい原子力発電所を建設することは、それほど簡単でも速くもない。本誌の編集主幹であるデビッド・ロットマンが記事で述べているように、AIブームは別のエネルギー源、つまり化石燃料に依存することになるかもしれない。では、AIに電力を供給するのは何なのだろうか? それについて説明しよう。
AIとエネルギー需要に関するこのビッグプロジェクトについて議論を始めたとき、何を含めるかについて編集部では多くの話し合いがなされた。気候チームは最初から、AIモデルを動かすデータセンターに必要な電力を、まさに何が供給することになるのかを調査することに注力していた。特集号のメインストーリーでは以下のように書いた。
「データセンターがブンブン音を立てて稼働しているのは、必ずしも悪いことではない。もしすべてのデータセンターが太陽光パネルに接続され、太陽が出ているときだけ稼働するのであれば、私たちはAIのエネルギー消費について心配することはさほどないだろう」。
しかし、多くのAIデータセンターは常時利用可能である必要がある。モデルの訓練に使うデータセンターであれば、大量の作業を一度に集中的に実行できるので、再生可能エネルギーの変動にも対応しやすいだろう。ただ、構築したモデルを使って一般ユーザーからのクエリを受け取る推論のプロセスになると、常時実行できる計算能力が必要になる。例えば、グーグルは、自社の新しい「AIモード(AI Mode)」を日中のみ使用できるようにすることには、あまり乗り気ではないだろう。
したがって、太陽光発電と風力発電は、エネルギー貯蔵と組み合わせない限り、AIの電力需要の多くに適しているとは言えないように思える。エネルギー貯蔵はコストを増加させる。一方、原子力発電所は常に稼働し、電力網に安定した電力を供給する傾向がある。
だがご想像のとおり、原子力発電所を稼働させるまでには長い時間が必要だ。
大手テック企業は、閉鎖された発電所の再稼働計画や、既存の発電所の運転期間延長の取り組みを支援できるかもしれない。小規模なアップグレードをすることで出力を改善できる既存の発電所もあるだろう。私は、ワシントン州東部のコロンビア発電所のアップグレード計画に関するトライシティ・ヘラルド(Tri-City Herald)のニュース記事を見たばかりである。今後数年間の調整により、発電所の現在の容量の10%以上に当たる162メガワットの追加電力を生み出せるようになるという。
しかし、それらすべてを合わせても、大手テック企業が将来的に具現化すると主張している需要を満たすには程遠いだろう。ここでの数字と、新しい技術が十分に早く実用化されない理由の詳細については、こちらの記事をチェックしてほしい。
その代わりに、デビッド編集主幹が記事で述べているように、天然ガスが、データセンターにおいて急増する需要を満たすための既定路線になっている。そして、今日建設されるプラントの寿命は約30年であるため、それらの新しいプラントは2050年を過ぎても稼働し続ける可能性がある。2050年は、パリ協定で定められた目標を達成するために、世界が温室効果ガス排出量を実質ゼロにしなければならない年である。
デビッド編集主幹の記事で最も興味深かった点の1つは、ここに異なる未来の可能性があるということだ。大手テック企業は、その力と影響力を使って、この機会に改善を推し進められるかもしれない。ピーク時の使用量を年間1%未満でも削減できれば、必要な新しいエネルギーインフラの量を大幅に減らせるだろう。あるいは、少なくとも発電所の所有者や運営者に働きかけて、炭素回収技術を導入したり、サプライチェーンからメタンが漏れないようにしたりできるだろう。
AIのエネルギー需要は大きな問題である。だが、気候変動に関しては、それにどのように対応するかを選択することが、さらに大きな問題となる可能性がある。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。