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「絶望感」で死亡リスク上昇、医師は「希望」を処方できるか? 
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato
Why doctors should look for ways to prescribe hope

「絶望感」で死亡リスク上昇、医師は「希望」を処方できるか? 

希望に満ちた人ほど死亡リスクが低く、絶望感は死亡リスクを有意に上昇させることが、心血管疾患を対象とした最近の研究でわかった。医師が患者を欺くことなく、希望を与えることはできるのだろうか。 by Jessica Hamzelou2025.06.10

この記事の3つのポイント
  1. 心血管疾患において、希望ある人ほど死亡リスクが低く、絶望感は死亡リスクを上昇させることが判明
  2. プラセボ・ノセボ効果により、信念や期待が実際に身体の生理学的変化を引き起こすことが証明済み
  3. 患者を欺かず希望を育てる新手法として、目標設定と計画立案による「希望の処方」が研究中
summarized by Claude 3

今週、私は心と体の強力な結びつきについて考えていた。新しい研究によると、心臓に疾患を持つ人々は、より希望に満ち、楽観的であるほど、良い結果が得られることが示されている。一方で、絶望感は、死亡リスクの有意な上昇と関連している。

この発見は、プラセボ効果の現象に関する数十年にわたる魅力的な研究に基づくものである。薬(または偽の治療)に対する私たちの信念と期待は、その効き方を変えることができる。プラセボ効果の「邪悪な双子」であるノセボ効果も同様に強力で、ネガティブな考えは実際の症状と関連づけられている。

研究者たちは今なお、身体と心の関係性、そして私たちの思考がどのように生理学に影響を与えるのかを理解しようと努めている。その間にも、多くの研究者が病院の現場でそれを活用する方法を開発している。医師が希望を処方することは可能なのだろうか?

リバプール大学の心理学講師であるアレクサンダー・モンタセムは、その質問への答えを見つけようとしている。モンタセム講師らの研究チームは直近の研究で、心血管疾患を持つ人々に焦点を当てた。

研究チームは、個人における希望と心臓の健康状態の関連性について発表された全ての研究を検討した。 希望は非常に捉えどころのないものだが、これらの研究では質問票を使ってそれを明らかにしようとしている。ある一般的な質問票では、希望は個人の目標を達成するための主体性と計画性に基づく「前向きな意欲的状態」と定義されている。

モンタセム講師らのチームは、条件に合う12の研究を見つけた。これらの研究は合計5000人以上を対象にしており、研究結果を総合すると、高い希望は、狭心症が少ない、脳卒中後の疲労が少ない、生活の質が高い、そして死亡リスクが低いという、より良い健康上の結果と関連していることが分かった。同チームは、6月2日に英マンチェスターで開催された英国心血管学会(British Cardiovascular Society)の会議で、この研究結果を発表した。

結果を読んだ私は、すぐにプラセボ効果に思いを馳せた。プラセボとは、「偽の」治療法であり、砂糖の丸薬や生理食塩水の注射のような薬を含まない不活性な物質である。それにもかかわらず、そのような治療法が驚くべき効果をもたらすことを何百もの研究が示している。

プラセボは、痛み、片頭痛、パーキンソン病、うつ病、不安、その他多くの疾患の症状を和らげることができる。プラセボの投与方法は、その効果に影響を与える可能性があり、色、形、価格も同様である。高価なプラセボはより効果的であるようだ。そして、プラセボは、人々がそれがプラセボだと知っている場合でも効果がある

そして、ノセボ効果もある。何かを摂取した後に気分が悪くなると予想していれば、実際にそうなる可能性が非常に高くなるのだ。ノセボ効果により、痛み、消化器症状、インフルエンザのような症状などのリスクが高まる可能性がある。

思考や信念が健康と幸福に非常に大きな役割を果たすことは明らかである。しかし、それがどのように起こるのかは明確ではない。研究はいくらかの進歩を遂げており、体内のオピオイドを含む一連の脳内化学物質が、プラセボ効果とノセボ効果の両方に関与しているというエビデンスがある。しかし、正確なメカニズムは依然として謎のままである。

一方で、研究者たちは前向きな考え方の力を活用する方法に取り組んでいる。医師が患者を欺いて気分を良くさせることが倫理的に正しいかどうかについては、長年にわたって議論されてきている。しかし、私は医師には患者に正直であるべき義務があると確信している。

より倫理的なアプローチは、患者の希望を築く方法を見つけることかもしれないと、モンタセム講師は言う。それは、薬の予想される効果を誇張したり、予後を取り繕ったりすることによってではない。おそらく、患者の目標、主体性、そして人生に対する全般的な見方に取り組むのを手助けすることによってである。

初期の研究によると、このアプローチは役立つ可能性がある。ケンタッキー大学のローリー・マクラウス博士とその同僚らは、価値観、目標、およびそれらの目標を達成するための戦略に関する一連の議論が、進行性肺がんの治療を受けている人々の希望を高めたことを発見した。

モンタセム講師は現在、この分野で発表された全ての研究を見直し、希望を高めるための新しいアプローチを設計することを計画しているが、どのようなアプローチも個人に合わせて調整する必要があるかもしれないと付け加える。例えば、人生について考える際に、より精神的または宗教的な考え方に反応しやすい人もいるかもしれない。

これらのアプローチは、臨床現場以外でも、私たち全員に役立つ可能性がある。人生についてより前向きな見方を持ちたい人のために何かアドバイスはあるかと同講師に尋ねたところ、個人的な目標を持ち、それを達成するための計画を立てることが重要だと答えた。モンタセム講師自身の目標は、研究の進歩、患者の助け、家族との時間を過ごすことに中心を置いており、「物質的な目標は、あなたの幸福にとってそれほど有益ではない」と付け加える。

モンタセム講師と話をしてから私はずっと、自分の目標について考えている。最初の目標はまず目標のリストを作ることだと気づいた。そして、すぐにそれを実行するつもりだ。「目標を追求するのを諦めた瞬間、私たちは絶望に陥り始めます」とモンタセム講師は述べている。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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