30年前の凍結胚から誕生、
「最高齢の赤ちゃん」新記録
米オハイオ州で、1994年から30年以上にわたって冷凍保存されていた胚から男児が誕生した。凍結胚からの出産では世界最長記録となる。胚を提供した女性は現在62歳で、受精卵が作られた当時、父親はまだ幼児だった。 by Jessica Hamzelou2025.08.04
- この記事の3つのポイント
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- 30年以上前の凍結胚から男児が誕生、世界記録を更新した
- 胚提供者が「養子縁組」制度を通じて不妊夫婦に胚を託す
- 古い保存技術による胚の解凍は困難だが、専門クリニックが成功
週末に誕生した男児が、「最高齢の赤ちゃん」の新記録を打ち立てた。サディアス・ダニエル・ピアースくんは、7月26日に誕生し、30年半保存されていた胚から発育した。
「大変なお産でしたが、今は母子ともに元気です」と母親のリンジー・ピアースは語る。「彼はとても穏やかです。私たちはこのかけがえのない赤ちゃんに出会えたことに、心から感動しています」。
オハイオ州ロンドンに住むリンジーと夫のティム・ピアースは、1994年に作られた胚を、提供者の女性から「養子」として迎え入れた。リンジーによると、家族や教会の仲間たちは「まるでSF映画のようだ」と話しているという。
「この子には30歳のお姉ちゃんがいるんです」とリンジーは言う。胚が作られた当時、夫のティムはまだ幼児だった。
「とても不思議な気持ちです」と語るのは、胚を提供したリンダ・アーチャード(62)だ。「いまだに信じられない思いです」。
3つの小さな希望
物語は1990年代初頭にさかのぼる。リンダは6年間、妊娠を試みては失敗を重ねていた。そこで夫婦は、当時としてはかなり新しい技術だった体外受精(IVF)を試す決断を下した。「当時は多くの人がIVFをよく知らなかったのです」とリンダは語る。「『一体何をしているの?』という反応が多かったですね」。
IVFを受けた結果、1994年5月に4つの胚が作られた。そのうち1つをリンダの子宮に移植したところ、健康な女の子が誕生した。「赤ちゃんを授かることができて、本当に幸せでした」とリンダは語る。残りの3つの胚は凍結され、保管タンクに保存された。
それが31年前のことだ。当時生まれた娘は現在30歳。彼女にはすでに10歳の娘がいる。一方、残りの3つの胚はそのまま凍結保存されていた。
リンダは当初、これらの胚を自分で使うつもりだったという。「私はずっと、もう一人赤ちゃんが欲しくてたまらなかったんです」と彼女は話す。「この3つの胚を、私の“3つの小さな希望”と呼んでいました」。当時の夫はその考えに賛同していなかったが、離婚後リンダは胚の親権を得て、いつか別のパートナーと使えるかもしれないという希望を持ち続けていた。
そのためには保存期間とともに増加する年間保存料を支払う必要があった。最終的にリンダは年間約1000ドルを支払っていたという。彼女にとっては、それだけの価値があった。「私はいつも、それが正しい選択だと思っていました」とリンダは語る。
更年期に入ると、状況は変わったとリンダは話す。彼女は自らの選択肢を検討した。胚を破棄したり、研究目的で寄付したりすることは望まなかった。また、他の家族に匿名で提供することも避けたかったという。彼女は、生まれてくる赤ちゃんやその親と会いたいと考えていた。「胚は私のDNAであり、私から生まれたものです。そして、それは私の娘のきょうだいになる存在なのですから」。
その後リンダは胚の「養子縁組」制度について知った。これは、胚提供の一形態であり、提供者と受け取り手の双方が、誰に胚を託すか、あるいは誰から迎えるかを選ぶことができる仕組みである。この制度は、多くの場合、胚を生まれた人間と道徳的に同等とみなす宗教的機関によって監督されている。リンダはキリスト教徒である。
米国にはこのような養子縁組サービスを提供する機関がいくつかあるが、すべての機関が長期間保存された胚を受け入れるわけではない。というのも、そのような胚は、現在では一般的でない古い方法で凍結されており、解凍や移植に耐えられず、正常に成長する可能性が低いと考えられているからである。
「情報すら受け取ってもらえない機関がたくさんありました」とリンダは語る。そんな中で出会ったのが、「ナイトライト・クリスチャン・アダプションズ(Nightlight Christian Adoptions)」という養子縁組機関 …
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