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AIの電力消費は意外に少ない? グーグル報告書の3つの落とし穴
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3 problems with Google’s AI energy use data

AIの電力消費は意外に少ない? グーグル報告書の3つの落とし穴

グーグルが発表したGeminiの電力消費量の数値を見ると、AIのエネルギー需要については心配する必要がないと思うかもしれない。だが、それは正しい解釈ではない。 by Casey Crownhart2025.09.02

この記事の3つのポイント
  1. グーグルがGeminiアプリの1クエリあたりの電力使用量を約0.24Whと発表
  2. この数値はテキスト生成のみで画像や動画生成は除外されている
  3. AIの総エネルギー影響は個別数値だけでは把握できない規模である
summarized by Claude 3

グーグル(Google)は、同社の生成(ジェネレーティブ)AIである「Gemini(ジェミニ)」アプリへの1つの典型的なクエリ(問い合わせ)が約0.24ワット時(Wh)の電力を使用すると発表した。これは標準的な電子レンジを1秒間動かすのとほぼ同じ電力量である。これは事実上取るに足らない量に感じられる。私はほぼ毎日、電子レンジをそれよりもはるかに長い時間使用している。

グーグルがレポートを発表したことを嬉しく思うし、AI分野の主要企業がクエリあたりの推定エネルギー使用量についてより透明性を示すことを歓迎する。しかし、この数値を使ってAIのエネルギー需要について心配する必要がないと結論づける人々がいることに気づいた。これは正しい解釈ではない。その理由を掘り下げてみよう。

1. この一つの数値はすべてのクエリを反映しているわけではなく、おそらくはるかに多くのエネルギーを使用するケースを除外している。

グーグルの新しいレポートはテキスト生成のクエリのみを考慮している。MITテクノロジーレビューの報道を含む以前の分析では、写真や動画を生成する場合、通常はより多くの電力を使用することが指摘されている。

グーグルの主任科学者であるジェフ・ディーンによると、同社は現在、画像や動画に対してこの種の分析をする計画はないが、それを排除するつもりはないという。

グーグルがテキスト生成のプロンプトから始めた理由は、多くの人々が日常的にテキスト生成を使用している一方で、画像や動画の生成はそれほど多くの人が使っていないからだとディーン主任科学者は説明した。しかし、私のソーシャルメディアのフィードには、ますます多くのAI画像や動画が表示されるようになってきている。つまり、報告書には表れていないクエリの全世界が存在するのである。

さらに、この推定値は中央値である。すなわち、グーグルが調べているクエリの範囲の中間の数値に過ぎない。より長い質問と回答はエネルギー需要を押し上げる可能性があり、推論(reasoning)モデルを使用することも同様である。これらのより複雑なクエリがどの程度のエネルギーを必要とするのか、あるいは範囲の分布がどのようなものなのかについては何も分かっていない。

2. Geminiがどれだけのクエリを処理しているかが不明であるため、この製品の総エネルギー影響を把握できない。

Geminiのエネルギー使用量について私が抱く最大の未解決の疑問の一つは、この製品が毎日処理しているクエリの総数である。

この数字はグーグルの報告書には含まれておらず、同社は私にそれを公開しようとしなかった。ここで明確にしておきたいのは、私はこのことについて、グーグルがこのニュースについて開いた記者会見と、ディーン主任科学者へのインタビューの両方で、かなりしつこく質問したということである。記者会見で、同社は最近の決算報告書を見るよう私に促したが、そこには月間アクティブユーザー数(参考までに4億5000万人)の数字が書かれているだけだった。

「さまざまな理由により、その点については明かすことに抵抗があります」とディーン主任科学者は述べた。総数は時間とともに変化する抽象的な指標であると彼は言い、同社はユーザーにはプロンプトあたりのエネルギー使用量について考えてもらいたいと付け加えた。

しかし、私以外にも、Geminiを利用している人々は世界中に存在する。私たち全員が積み重ねるものは極めて重要だと思われる。

オープンAI(OpenAI)は総計を公開しており、最近では25億件のクエリが「チャットGPT(ChatGPT)」に毎日送られていることを明らかにしている。興味深いことに、これを例として使い、同社が自己申告している1クエリあたりの平均エネルギー使用量である0.34ワット時(Wh)を用いて、チャットGPT(ChatGPT)に送信されたクエリによる全電力量の概算を得られる(日本版注:ただしこの数字はオープンAIのサム・アルトマンCEOのブログで示されたもので、測定条件や算出方法は公表されていない点に留意が必要である)。

私の計算によると、1年間で300ギガワット時(Wh)以上になる。これは年間約3万世帯の米国の家庭に電力を供給するのと同じである。このように考えると、電子レンジの秒数が非常に多いように思えてくる。

3. AIはチャットボットだけでなくあらゆる場所に存在しており、私たちはしばしばそのことを意識すらしていない。

人工知能(AI)は私たちが求めていない時でも、私たちの生活に入り込んでいる。AI要約は、求めているかどうかに関わらず、Web検索に表示されるし、メールやテキスト・メッセージのアプリケーションには、メッセージの下書きや要約をする機能が組み込まれている。

グーグルの推定は厳密にはGeminiアプリのみを対象としており、グーグルが使用する他の多くの方法は含まれていない。そのため、自分個人のエネルギー需要について考えようとしても、集計するのがますます困難になっている。

明確にしておくが、人々が本当に役立つと感じるツールを使うことに罪悪感を抱く必要はない。そして最終的に、最も重要な議論は個人の責任についてのものではない。

現在は小さな数字に注目する傾向があるが、これらすべてが何に積み上がっているのかを念頭に置く必要がある。この10年間で、ルイジアナ州においてメタ(Meta)の1つのデータセンターに電力を供給するために、天然ガス発電による2ギガワット以上の電力が送電網に送られる必要がある。グーグル・クラウド(Google Cloud)は、北米最大の地域送電機関であるPJMの米国東海岸の送電網に対してだけでも、AIに250億ドルを費やしている。2028年までにAIは米国で年間326テラワット時(Twh)の電力需要を占める可能性があり、1億トン以上の二酸化炭素を発生させるのである。

私たちはAI分野の主要企業からより多くの報告を必要としており、グーグルの最近の発表は最も透明性の高い報告の一つである。しかし、1つの小さな数字では、AIが地域に与える影響や送電網を変化させている状況を否定することはできない。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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