AIが診断・治療計画を提案
→医師が承認
新形態のクリニックが誕生
米スタートアップは、人間のアシスタントと大規模言語モデルを利用して、診察を効率化したクリニックを開業している。最終判断は医師が下すが、医師免許関連の法律に抵触したり、AIの出力に医師の判断が引っ張られたりすることが懸念される。 by Grace Huckins2025.09.30
- この記事の3つのポイント
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- アキド・ラボの開発AIシステム「ScopeAI」が米国のクリニックで患者の診断と治療計画立案を実施
- 高齢化と医師不足が深刻化し、医療アクセス改善が急務となっている中で、AI活用による効率化に注目
- 自動化バイアスや医師免許法への抵触リスク、安全性評価が課題となっている
想像してみてほしい。あなたは体調が悪いと感じており、かかりつけの医院に電話をかけて診察の予約を取る。驚いたことに、医院は翌日に予約を入れてくれる。診察時には、自分の健康上の懸念を説明するように急かされることもない。たっぷり30分かけて、注意深く耳を傾けてくれる「誰か」に、自分の症状や心配事、これまでの病歴の詳細を共有してもらえる。その誰かは、思慮深いフォローアップの質問もしてくれる。帰路につくあなたは、診断結果と治療計画、そして、今回は珍しく相応の配慮をもって自分の健康状態について話し合うことができたという実感を得られる。
こうした体験に問題点があるとしたら、あなたは医師や、その他の免許を持った医療従事者と、まったく話をしていないかもしれないということだ。
これは、医療スタートアップ企業のアキド・ラボ(Akido Labs)が南カリフォルニアで運営するの少数のクリニックに通う患者たちの新しい現実である。米国の低所得者向け公的保険制度であるメディケイド加入者を含む患者たちは、専門医の診察予約を直前にとることができる。これは通常、コンシェルジュ付きのクリニックを愛用する一部の富裕層だけが利用できる特権だ。
重要な違いは、アキドのクリニックの患者たちは医師と過ごす時間が比較的短いか、あるいはまったくないことだ。その代わりに、臨床実習の経験は乏しいが親身になって話を聞いてくれる医療アシスタント(人間)と面談する。診断と治療計画を立てる仕事は、大規模言語モデル(LLM)ベースの独自システム「ScopeAI(スコープAI)」がしてくれる。ScopeAIが患者と医療アシスタントとの会話をテキストに書き起こし、分析するのだ。その後、医師がこの人工知能(AI)システムの提案を承認したり、修正したりする。
「私たちは実際、医師を診察の現場から解放するために何ができるかということに焦点を置いています」と、アキドのジャレッド・グッドナーCTO(最高技術責任者)は言う。
アキドのプラシャント・サマントCEO(最高経営責任者)によれば、このアプローチによって、医師は以前の4倍から5倍、多くの患者を診ることができるようになるという。医師がより一層生産的になることを望むのには、もっともな理由がある。米国人は高齢化が進み、病気がちになっており、多くの人が適切な医療をなかなか利用できずにいる。メディケイドに対する連邦資金の拠出を15%削減する保留中の案によって、状況はますます悪化するだろう。
しかし専門家たちは、医療における多くの認知的な作業をAIに大量に移行することが、医師不足の状況を改善する正しい方法であるという考えには、納得していない。医師と、AIによって強化された医療アシスタントとの間には、専門性において大きな隔たりがあると、カリフォルニア大学バークレー校のコンピューター科学者、エマ・ピアソン助教授は言う。 このようなギャップを飛び越えることには、リスクが伴うかもしれない。「私は、AIが医療の専門知識へのアクセスを拡大する可能性に、幅広い期待を持っています」と、ピアソン助教授は言う。「ただ、アキドによる方法が、それを実現するためにふさわしいかどうかは、よくわかりません」。
AIはすでに医療のいたるところで使われている。コンピュータービジョン・ツールは予防的なスキャン中にがんを識別し、自動研究システムは医師が医学文献をすばやく整理することを可能にする。また、LLMを搭載した医療書記は、臨床医の代わりに診察メモを取ることができる。しかしそれらのシステムは、医師が自分たちの典型的な医療ルーチン作業をこなす際に、その作業を支援するように設計されたものだ。
グッドナーCTOによれば、ScopeAIの際立った特徴は、診察作業を構成する認知的なタスクを単独で最後までこなす能力にあるという。ScopeAIが対象とするタスクは、患者の病歴を聞き出すことから、可能性のある診断のリストアップ、最も可能性の高い診断の特定、適切な次のステップの提案にまで至る。
ScopeAIの中身はLLMの集まりである。そ …
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