時間も資金も溶かす? AI動画SNS「Sora」3つの疑問
オープンAIのAI動画SNSアプリ「Sora(ソラ)」が話題になっている。ユーザーの時間を奪う一方で、オープンAIの資金も大量消費する試みには多くの疑問がある。 by James O'Donnell2025.10.08
- この記事の3つのポイント
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- オープンAIがAI生成動画のみを提供するTikTok風アプリ「Sora」をリリースし米国で人気1位を獲得
- 動画生成は極めて高コストでオープンAIの収益化戦略と環境負荷が重要な課題となっている
- 著作権侵害や人物のディープフェイク悪用により大規模な法的紛争が予想される状況にある
オープンAI(OpenAI)は先週、新しいスマートフォン・アプリ「Sora(ソラ)」をリリースした。最大10秒のAI生成動画だけを無限にフィードで提供する、ティックトック(TikTok)風のアプリだ。このアプリでは、自分の「カメオ」、つまり外見と声を模倣した超リアルなアバターを作成し、他の人のカメオを自分の動画に挿入できる(相手が設定した許可に応じて可能)。
「人類全体に利益をもたらすAIを構築する」というオープンAIの約束を心から信じていた一部の人々にとって、このアプリは笑い話である。AI科学スタートアップを立ち上げるためにオープンAIを去った元研究者は、Soraを「無限のAI ティックトック・スロップ製造機」と呼んだ(日本版注:スロップは大量生成された低品質なコンテンツのこと)。
それでも、Soraは米国のアップル・アップストア(AppStore)でトップの座に上り詰めた。私がアプリをダウンロードしてすぐに気づいたのは、現在どのような動画が人気を集めているのかということだった。ペットやさまざまな商標キャラクター(スポンジボブやスクービードゥーを含む)を警察が停止させるボディカメラ風の映像、Xboxについてマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが話すディープフェイク・ミーム、そして現代世界を歩むイエス・キリストの無数のバリエーションである。
まもなく私は、「Soraの次に来るものは何か?」という多くの疑問を抱くようになった。ここでは、今のところ分かっていることを紹介する。
持続可能なのか?
オープンAIは、見ているものが偽物かどうかという懸念を一時停止し、生のAIのストリームに浸ることができるアプリに時間を費やしたいと思う人がかなりの数いるという賭けに出ている。あるレビュアーはこう表現した。「スクロールしているものがすべて本物ではないと分かっているので安心できます。他のプラットフォームでは、それが本物か偽物かを時々推測しなければなりませんが、ここでは推測する必要がありません。すべてAI、常にAIです」。
これは一部の人には地獄のように聞こえるかもしれない。しかし、Soraの人気から判断すると、多くの人がそれを望んでいるようだ。
では、なぜ人々はSoraに惹かれるのか? 説明としては2つある。1つ目は、Soraが一時的な流行の仕掛けであり、最先端AIの創造力を一目見ようと人々が殺到しているというもの(私の経験では、それは5分程度の興味に過ぎない)。2つ目は、オープンAIが信じているように、注目されるコンテンツの種類に本質的な変化が起きており、Soraが他のアプリでは不可能なレベルの幻想的な創造力を可能にしているため、人々がこのアプリに留まるという考えだ。
ユーザーがどれだけSoraに留まるかを左右するいくつかの重要な判断が控えている。オープンAIが広告をどう実装するか、著作権コンテンツにどのような制限を設けるか(後述)、そして誰に何を見せるかを決定するアルゴリズムをどう設計するか、である。
オープンAIはどこまで負担できるのか?
オープンAIはまだ利益を上げていないが、シリコンバレーの常識においては特に奇妙なことではない。むしろ奇妙なのは、最もエネルギー集約的(したがって高コスト)なAIの形態である動画生成プラットフォームに投資していることである。動画生成に必要なエネルギーは、画像を作成したりChatGPTを通じてテキストの質問に答えたりするのとはまったくの桁違いだ。
もちろんオープンAI自身もそのことを認識している。同社は、データセンターと新たな発電所を建設する総額50兆円規模のプロジェクトに参画している。しかし、現在無制限かつ無料でAI動画を生成できるSoraは、コストに関する賭けをさらに高めている。いったいどれほどの費用がオープンAIにのしかかるのだろうか?
オープンAIは収益化に向けた動きを見せている(例えば、現在ではChatGPTを通じて商品を直接購入できる仕組みもある)。10月3日、サム・アルトマンCEOはブログ投稿で「動画生成で何らかの方法で収益を上げなければならない」と書いたが、詳細には触れなかった。考えられるのは、パーソナライズされた広告や、アプリ内課金の拡大だ。
それでも、Soraが本当に人気化した場合に想定される膨大な温室効果ガスの排出量は懸念材料だ。アルトマンは、ChatGPTへの1回のクエリによる排出負荷は「ほとんど無視できる」と正確に説明している。しかし、Soraで生成される10秒の動画1本あたりの排出量については明言していない。AIと気候の研究者たちがその数値の公開を求め始めるのは時間の問題だろう。
どれだけの訴訟が来るか?
Soraには、著作権や商標を持つキャラクターがあふれている。故人の有名人を簡単にディープフェイクにすることができ、動画には著作権のある音楽も使用されている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は先週、オープンAIが著作権者に対し、「Soraに自分たちの素材を含めたくない場合は、オプトアウトの手続きを取らなければならない」と通知する書簡を送ったと報じた。これは通常の運用とは異なる。AI企業が著作権素材をどう扱うべきかという法律はまだ確立されておらず、これに異議を唱える訴訟が起きるのは当然の流れだと考えられる。
先週のブログ投稿で、アルトマンCEOは「多くの権利者」から、自分たちのキャラクターがSoraでどのように使われるかをもっとコントロールしたいという要望が寄せられていると書いた。同CEOによれば、オープンAIはそうした権利者に対して、より「きめ細かい制御」を提供する計画だという。それでも彼は「防ぐべき生成物の中には、いくつか抜けてしまうものがあるかもしれない」とも書いている。
もうひとつの問題は、実在する人物の「カメオ(アバター)」を簡単に使えてしまうことだ。ユーザーは、自分のカメオを誰が使えるかを制限できるが、そのカメオがSora内の動画で「何をさせられるか」については、どのような制限が設けられるのだろうか?
この問題には、すでにオープンAIも対応を迫られているようだ。Soraの責任者であるビル・ピーブルズは、10月5日に「ユーザーが自分のカメオの使用方法を制限できるようになった」と投稿した。たとえば、政治的な動画に登場することや、特定の言葉を話すことを防げるという。だが、これはどれほど効果的に機能するのだろうか? 誰かのカメオが悪意ある、猥褻な、違法な、あるいは単に不気味なコンテンツに使用され、それに対してオープンAIが責任を問われる訴訟が起きるのは、もはや時間の問題ではないか。
全体として、私たちはまだSoraの本格展開を目にしていない(オープンAIは今もアプリへのアクセスを招待コードで制限している)。それが公開されたとき、それは厳しいテストとして機能するだろう。AIが無限のエンゲージメントを目指して、どれだけ精密に調整された動画を作れるのか? そして、それが「本物の」動画と競合して私たちの注意を勝ち取ることができるのか? 最終的に、Soraが試しているのはオープンAIの技術だけではない。それは私たち自身をも試しており、果たして私たちがどれだけ現実を、無限にスクロールされるシミュレーションと引き換えにするつもりなのかを問うているのだ。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。