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発表!MITテクノロジーレビューが選んだ2025年のU35イノベーター10人
シリコンバレーが投資する
「完璧な赤ちゃん」選別技術
優生学との境界線どこに
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The race to make the perfect baby is creating an ethical mess

シリコンバレーが投資する
「完璧な赤ちゃん」選別技術
優生学との境界線どこに

IQ、身長、目の色——胚の遺伝子検査で2000以上の形質を選別できると主張する企業が、シリコンバレーから数千万ドルを調達している。イーロン・マスクやピーター・ティールも投資・利用するが、医学界は「エビデンス不足」と警告。これは個人の選択か、それとも優生学の復活か。 by Julia Black2025.12.15

この記事の3つのポイント
  1. ニュークリアスとヘラサイトが胚の知能検査を含む多遺伝子検査サービスを商業展開
  2. 従来のPGT検査は単一遺伝子疾患対象だが複雑な形質予測には科学的限界が存在
  3. 医学界は有効性不足を懸念し優生学復活への社会的影響を巡り議論が激化
summarized by Claude 3

顕微鏡のレンズを通して見える半透明の小さな塊のことを考えてみてほしい。それは、ヒトの胚盤胞である。卵子と精子の運命的な出会いからわずか5日ほどで誕生する生物学的な標本である。カリブ海のさらさらとした白い砂浜から採集した砂粒ほどの大きさのこの細胞の塊には、未来の生命の可能性がらせん状に格納されている。46本の染色体、数千個もの遺伝子、約60億塩基対のDNA。それは、世界で1人だけの人間を組み立てるための取扱説明書である。

次に、レーザー・パルスで胚盤胞の一番外側の殻に穴を開け、顕微鏡用ピペットで少量の細胞を吸い上げるところを想像してほしい。遺伝子配列決定技術の進歩のおかげで、この瞬間から、その取扱説明書のほぼ全体を読み取ることが可能になる。

新たに生まれた科学分野が、このような検査(細胞採取)から得られた分析結果を用いて、その胚がどのような人間になる可能性があるか予測しようとしている。一部の親たちはこのような検査に頼って、自分たちの家系に受け継がれている深刻な遺伝子疾患が子どもに伝わるのを避けようとしている。それよりもはるかに少ないが、子孫が名門大学を卒業したり、魅力的で品行方正な人物になる夢に駆り立てられた親たちは、知能や外見、性格を最適化するために数万ドルも支払うことを厭わない。この技術に最も熱心な初期の支持者たちの一部は、シリコンバレーのエリートたちだ。その中には、イーロン・マスク、ペイパル(PayPal)、オープンAI(OpenAI)などの共同創業者で起業家のピーター・ティール、コインベース(Coinbase)のブライアン・アームストロングCEO(最高経営責任者)といったテック億万長者もいる。

しかし、この検査を一般に提供するために誕生した企業の顧客たちは、支払った対価に見合うものを得られていないかもしれない。遺伝学の専門家たちは何年も前から、この検査の潜在的な欠陥を強く主張してきた。欧州人類遺伝学会(European Society of Human Genetics)の会員による2021年の論文は、次のように指摘している。「胚における診断の有効性を評価するための臨床研究はありません。患者には、この診断を利用する限界について正しく説明する必要があります」。また、ジャーナル・オブ・クリニカル・メディシン誌で2025年5月に発表された論文もこの懸念に同調し、精神疾患や疾患とは関係ない形質をスクリーニングすることについて、特段の懸念を表明している。「残念ながら、この戦略の有効性を包括的に評価する臨床研究は、これまでに発表されていません。この方法の限界について患者の認識を高めることが、最も重要です」。

さらに、このような研究の根底にある前提、つまり、ある人がどのようになるかは「社会的な境遇や環境ではなく、生まれながらの生物学的形質の産物である」という仮定のせいで、この種の検査を扱う企業は政治的な論争の的となっている。

このニッチな技術が主流へと向かって進み始めている中で、科学者や倫理学者たちは競い合うように、この問題に対処するため早急に向き合おうとしている。私たちの社会契約、将来の世代、そして人間であることの意味に対する私たちの理解そのものにもたらす影響に、この技術はどのような意味を持つのだろうか。

着床前遺伝学的検査(PGT)は、まだ比較的珍しくはあるものの、新しいものではない。1990年代以降、体外受精(IVF)を受ける親たちは、使用する胚を選ぶ前に多くの遺伝子検査を利用できるようになった。PGT-Mとして知られる種類の検査では、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血、ハンチントン病などの単一遺伝子疾患を検出できる。PGT-Aは、胚の性別の確認、および、ダウン症候群などの病気を引き起こしたり、受精卵(胚)が子宮にうまく着床する可能性を低下させたりすることがある染色体異常の特定が可能だ。PGT-SRは、染色体の一部が重複したり、欠損したりするなどの問題を持つ胚を避けるのに役立つ。

これらの検査はすべて、比較的簡単に発見できる明確な遺伝子の問題を特定するものであるが、胚の中に組み込まれている遺伝情報の取扱説明書のほとんどは、はるかに微妙なニュアンスのコードで書かれている。近年、PGT-Pと呼ばれるより進化した新しい種類の検査を中心とした、新たな市場が生まれている。着床前遺伝子検査の一種であるPGT-Pが特定するのは、多遺伝子性疾患、すなわち、数百あるいは数千もの遺伝子変異が複雑に相互作用することで決まる結果である(形質も特定できるという主張もある)。

2020年、PGT-Pを利用して選別された最初の赤ちゃんが誕生した。正確な数字は不明だが、現在までに、この技術の助けを借りて生まれた子どもの数は数百人に上ると推定されている。商業化が進むにつれて、その数字は増えていく可能性が高い。

胚選別は、「赤ちゃんを組み立て工場」というよりも、親が入手可能な数種類のモデルから、将来の子どもを選んで購入できる販売店のようなものだ。それぞれのモデルには、カードゲームで言うところの能力値が添えられている。

シリコンバレーからの数千万ドルの資金提供を受けた少数のスタートアップが、そのような能力値(統計情報)を計算する独自のアルゴリズムを開発した。膨大な数の遺伝子変異を分析し、胚が多様で複雑な形質を発現させる確率を示す「多遺伝子リスクスコア」を作成するアルゴリズムだ。

ここ5年ほどの間は、ジェノミック・プレディクション(Genomic Prediction)とオーキッド(Orchid)の2社がこの小規模な(PGT-P)市場で圧倒的なシェアを占め、病気の予防に力を入れてきた。しかし最近になって、新たに2つの目立つ新規参入者が現れた。ニュークリアス・ジェノミクス(Nucleus Genomics、以降ニュークリアス)とヘラサイト(Herasight)だ。この2社は、先行企業のより慎重なアプローチを否定し、知能の遺伝子検査という物議を醸す領域に乗り出した。(ニュークリアスは、その他にも行動や外見に関連する形質の検査も提供している)。

多遺伝子リスクスコアには、大きな実用上の制限がある。第一に、多遺伝子性の形質や疾患の発現を促進する複雑な遺伝子相互作用については、まだ理解できていないことが多い。第二に、計算の基礎としているバイオバンクのデータセットは、圧倒的に西欧州に祖先を持つ人々を反映している傾向がある。そのため、他の背景を持つ患者に対して信頼性の高いスコアを算出することが難しくなっている。第三に、このようなスコアは、環境やライフスタイルなど、ある人の特性に影響を与え得る多種多様な背景要因も完全にはカバーしていない。最後に、多遺伝子リスクスコアは大規模なグループにおけるレベルの傾向を検出するには有効な一方で、大部分のDNAが共通している胚がひとまとまりあるだけのごく小さなサンプルサイズでは、その予測能力は大幅に低下する。

米国人類遺伝学会(ASHG)、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG:American College of Medical Genetics and Genomics)、米国生殖医学会(ASRM)などの団体を含む医学界は、一般的に胚選別のために多遺伝子リスクスコアを使用することに慎重である。「この手法は、エビデンスがあまりにも少ないにもかかわらず、進展が速すぎます」と、米国臨床遺伝・ゲノム学会は2024年の公式声明で述べている。

しかし、この技術を販売している企業を批判する者たちは、その有効性がエビデンスによって裏付けられているかどうかという問題以上に、それらの企業が憂慮すべきイデオロギーを復活させていると非難する。つまり、選択育種によって人類を向上させられるという信念、すなわち優生学の考え方だ。実際、このような手法によって病気以外の形質をうまく予測できるということを最も自信たっぷりに主張してきた人々の一部は、自然の遺伝子ヒエラルキーや生得的な人種差について驚くような主張をしている。

しかし、誰もが同意できる事実は、この新しい技術の波が、何世紀も続いてきた「生まれか、育ちか」、つまり遺伝か環境かをめぐる論争を煽る一因となっていることだ。

「優生学(eugenics)」という言葉は、1883年に英国人類学者で統計学者のフランシス・ゴルトン卿が、 従兄弟のチャールズ・ダーウィンの研究から一部ヒントを得た造語だ。「血筋が良く、遺伝的に高貴な資質に恵まれている」ことを意味するギリシャ語が、その語源である。

ホロコーストから強制不妊法に至るまで、現代史における最も暗い出来事のいくつかは、ゴルトン卿の遺産が土台となった。強制不妊法は、20世紀に入ってからもしばらくの間、米国の特定のグループに影響を与え続けた。現代科学は、ゴルトン卿の方法論に多くの論理的・経験的な問題があると実証してきた(そもそもゴルトン卿は、「卓越性」のような曖昧な概念の他、梅毒や結核などの感染症さえも遺伝性の表現型、つまり遺伝子と環境の相互作用から生じる特性と見なしていた)。

しかし今日でもなお、ゴルトン卿の影響は、心理的形質の遺伝的根源を研究する行動遺伝学の分野で生き続けている。1960年代から米国の研究者たちは、ゴルトン卿が好んだ手法の1つである双生児研究を再検討し始めた。一卵性双生児と二卵性双生児、それぞれのペアを分析し、どの形質が遺伝的なもので、どの形質が社会化の結果なのか判断しようとするそのような研究の多くは、米国政府から資金援助を受けた。中でも最も有名なミネソタ大学を中心としたミネソタ・ツイン研究(Minnesota Twin Study)は、優生学と「人種改良」を1937年の設立以来推進していた。今は存在しない非営利団体パイオニア・ファンド(Pioneer Fund)からも助成金を受け取っていた。

「生まれか、育ちか」の論争は、2003年にヒトゲノム計画の完了が宣言されたことで大きな転換点を迎えた。13年の歳月と30億ドル近い費用をかけ、数千人の研究者で構成される国際コンソーシアムが、初めてヒトゲノムの92%の塩基配列を決定したのだ。

現在、ゲノムの塩基配列の決定は600ドル程度のコストで可能な場合もあり、ある企業によれば、まもなくさらにコストは下がるという。この大幅なコストダウンによって、英国バイオバンク(UK Biobank)や米国立衛生研究所(NIH)の「All of Us(オール・オブ・アス)」のような巨大なDNAデータベースを構築することが可能になった。この2つのデータベースには、それぞれ50万人以上のボランティアの遺伝子データが保存されている。そのようなリソースのおかげで、研究者たちはゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施できるようになった。GWASは、個人間の最も一般的な遺伝的差異である一塩基多型(SNP)を分析することで、遺伝子変異とヒトの形質との間の相関関係を明らかにする研究である。そのような研究から得られる知見は、多遺伝子リスクスコアを開発する上での基準として役立つ。

ほとんどのGWASは、病気の予防と個別医療に焦点を当ててきた。しかし2011年、医学研究者、社会科学者、経済学者たちのグループが、複雑な社会的・行動的結果の遺伝的基礎を調査するため、社会科学遺伝的関連コンソーシアム(SSGAC)を立ち上げた。彼らが注目した表現型の1つは、人々の教育達成度(または学歴)だった。

学歴は遺伝子データを収集する際の調査で当たり前のように記録されているため、「ちょっとした便宜上の表現型でした」と、社会科学遺伝的関連コンソーシアムの運営委員会メンバーを務める南カリフォルニア大学の経済学者、パトリック・ターリー助教授は説明する。それでも、「遺伝子が何らかの役割を果たしていることは明らかです」とターリー助教授は言う。「そして、その役割を理解しようとするのは、実に興味深いことだと考えています」。さら、社会科学者たちも遺伝子データを使って、「非遺伝的経路に起因する役割の理解」を深めることもできると付け加えた。

この研究はすぐに、特にコンソーシアム自体のメンバーの間で不快感をかき立てた。意図せずして人種差別や不平等、遺伝子決定論の強化を助長してしまうことを恐れたのだ。

政界の一部でもかなりの不快感が生まれたと、テキサス大学オースティン校の心理学者で行動遺伝学者のキャサリン・ペイジ・ハーデン教授は言う。同教授はキャリアの大半を費やして、リベラル派の仲間たちに、遺伝子が社会的結果の予測に関連する因子であるという不人気な主張をしてきたという。

ハーデン教授は、リベラル派の人々の強みを、「身体は重要な点で互いに異なっている」と認められことであると考えている。彼らの多くは一般的に、依存症から肥満に至るまで、いくつもの形質が遺伝的な影響を受けていると認めることを厭わない。しかし、遺伝的な認知能力(IQや知能など)を「私たちの人生に影響を与える差異の源泉として受け入れるのは、許容範囲外」であるようだと、ハーデン教授は言う。

遺伝子は知能のような形質を理解する上で重要であり、そのような理解が進歩的な政策立案を具現化する助けになるはずであると、ハーデン教授は信じている。彼女は例として、ある学区の数学の成績を向上させるために、行政の教育部門が政策的介入を検討することを挙げる。そのような学区の生徒たちについて、ハーデン教授は、多遺伝子リスクスコアが世帯収入と同じくらい「学校の成績と強く相関している」のであれば、「意図的にその(遺伝子)情報を集めない、あるいは把握しないことで、研究をより難しくしたり、推論の精度を悪化させたりするのではないでしょうか?」と問いかける。

ハーデン教授にとって、優生学主義者たちを勢いづかせることを恐れてそういった回避戦略を続けることは、誤りである。もし「IQは神話であり、遺伝子とは無関係だと主張することで優生学を無力化できる」のであれば、「今頃はもう成功していたはずです」と彼女は話す。

このような考え方が多くのコミュニティでこれほどタブー視されている理由の1つは、遺伝的決定論をめぐる今日の議論が、いま …

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