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気候変動を映す花びら
データで描く未来の植物
COURTESY OF ANNELIE BERNER
Flowers of the future

気候変動を映す花びら
データで描く未来の植物

乾燥した年には花びらが赤みを帯び、暑い年には花が大きくなる。気候データとアルゴリズムで未来の花を描くプロジェクト「Plant Futures(プラント・フューチャーズ)」が、2100年までの気候変動の影響を77個の花で可視化した。 by Annelie Berner2025.10.29

花は都市部から農村部に至るまで、ほとんどの景観において重要な役割を果たしている。舗装の隙間から顔を出すタンポポ、高速道路の中央分離帯に咲く野の花、丘の斜面を覆うポピーなどがある。私たちは花が咲く時期に気づき、それを変化する気候と結びつけることがあるかもしれない。つぼみ、開花、しおれ、種子といった花の周期に、私たちはおそらく親しんでいるだろう。しかし、花はその鮮やかな花びらを通じて、もっと多くのことを語っている。花の形そのものが、地域的および地球規模の気候条件によって形成されているのだ。

花の形は、その見方を知っていれば、気候の視覚的な表現といえる。乾燥した年には花びらの色素沈着が変化することがある。暖かい年には、花がより大きく成長するかもしれない。紫外線を吸収する花の色素は、オゾン濃度が高くなると増加する。将来、気候が変化するにつれて、花はどのように姿を変えていくだろうか。

white flower and a purple flower
アントシアニンは赤や藍の色素であり、抗酸化物質や光防護物質として働き、干ばつなどの気候関連ストレスに対して植物の耐性を高める役割を果たす。
© 2021 SULLIVAN CN, KOSKI MH

「Plant Futures(プラント・フューチャーズ)」と呼ばれる芸術的研究プロジェクトは、2023年から2100年にかけて、単一の花の種が気候変動にどのように適応・進化するかを想像し、温暖化する世界の複雑かつ長期的な影響について、私たちに思索を促している。このプロジェクトでは、2023年から2100年までの各年に対応する花を1つずつ制作した。各花の形状は、気候予測と気候が花の視覚的属性に与える影響に関する研究に基づく、データ駆動型の設計となっている。

two rows of flowers that are both yellow and purple
紫外線色素が増えることで、花粉はオゾン濃度の上昇から保護される。
MARCO TODESCO

a white flower with a yellow center
予測困難な気象条件の下で、推測的な花は花びらの第2層を成長させる。植物学では、この第2層は「八重咲き」と呼ばれ、ランダムな突然変異によって生じる。
COURTESY OF ANNELIE BERNER

Plant Futuresは、フィンランド・ヘルシンキでのアーティスト・レジデンシーの期間中に始まった。私は生物学者のアク・コルホネンと密接に協力し、気候変動が地域の生態系にどのような影響を与えているかを理解しようとした。原始のハルティアラの森を探索している間、研究協力者のモニカ・ザイフリートと私は「ミヤマタニタデ(Circaea alpina、アカバナ科ミズタマソウ属の多年草)」という花について学んだ。かつてはこの地域で珍しかった小さな花だが、近年の気温上昇に伴って一般的になりつつある。しかし、その生息地は非常に繊細である。この植物は日陰と湿った環境を必要とするが、それを提供するトウヒ(マツ科トウヒ属の常緑針葉樹)の個体数が、新たな森林病原体によって減少している。私は考えた。ミヤマタニタデが、気候の不確実性にもかかわらず生き延びることができるとしたら? 暗く湿った湿地が明るい草地に変わり、湿った地面が乾燥した場合、この花はどう適応するのだろうか? こうした問いが、このプロジェクトの出発点となった。

ルオムス植物標本館で歴史的なミヤマタニタデのサンプルを研究する著者。
COURTESY OF ANNELIE BERNER

ザイフリートと私は森を離れたあと、ルオムス植物標本館にて植物学の専門家たちと会った。私は1906年まで遡るミヤマタニタデの標本を調査し、その年の気温や降水パターンと花の大きさや色がどのように関係しているのかを理解するために、過去の気候条件を研究した。

私は、他の開花植物が気候条件の変化にどのように反応するかを研究し、ミヤマタニタデが将来の世界で生き延びるにはどう適応すべきかを考えた。もしそうした変化が現実になった場合、2100年のミヤマタニタデはどのような姿になるのだろうか?

私たちは、データ駆動型のアルゴリズムマッピングと芸術的な制御の組み合わせによって、未来の花のデザインを行った。私はバリアブル・スタジオ(Variable Studio)のデータアーティスト、マルシン・イグナックと協力し、外見が気候データと連動した3Dの花を制作した。Nodes.ioを用いてミヤマタニタデの現在の形態に基づいた3Dモデルを作成し、気候変動に伴ってその物理的パラメータがどのように変化するかをマッピングした。たとえば、データセット上で気温が上昇し、降水量が減少すると、花びらの色は赤みを帯びる方向に変化する。これは、アントシアニンの増加によって花が自らを守る反応を反映したものだ。気温、二酸化炭素濃度、降水パターンの変化が組み合わさって、花の大きさ、葉脈の密度、紫外線色素、色、八重咲き傾向などに影響を与える。

2025年:ミヤマタニタデは、夏の気温が高かったためにわずかに大きくなっているが、サイズ・色・その他の特性においては典型的なミヤマタニタデの花に近い。
2064年:二酸化炭素濃度と気温の上昇により、花はより多くの花びらを持ち、サイズも大きくなっている。紫外線色素によって構成される「的(bull’s-eye)」模様は、オゾンと太陽放射の増加により、より大きく不規則になっている。花びらの第2層は、気候モデルにおける予測の不確実性を反映している。
2074年:花はよりピンク色を帯びており、これは連続する乾燥日や高温によるストレスに対する抗酸化反応である。花のサイズは、主に二酸化炭素濃度の上昇により拡大している。気候モデルの予測における不確実性が増す中で、八重咲きの特徴は持続している。
2100年:花の葉脈は非常に密集しており、これは干ばつ時の水輸送を改善するために、葉が用いる技術を花が転用している可能性を示唆している。また、香りの伝達が大気汚染によって妨げられる中で、花粉媒介者を引き寄せる新たな戦略の一部である可能性もある。
2023年〜2100年:この推測的な花は、毎年変化し続ける。サイズ、色、形状は、気温と二酸化炭素濃度の上昇、そして降水パターンの変化に応じて変化する。
この10センチメートル四方のプレキシガラスの立方体の中で、未来の花は「保存」されており、観察者はそれらを層状に比較しながら見ることができる。
COURTESY OF ANNELIE BERNER

アネリー・ベルナーは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とする、データ可視化を専門とするデザイナー、研究者、教育者、アーティストである。

 

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